12回目の「U-35」建築展、展覧会もいいけれど豪華メンバーの講評会が面白過ぎる!

Pocket

 2010年から開催されている「Under 35 Architects exhibition 35歳以下の若手建築家による建築の展覧会」。第12回目となる今年は、10月15日(金)から25日(月)まで、JR大阪駅前のうめきたシップホールで展示が行われている。開幕2日目、10月16日(土)に行われたシンポジウム(講評会)で、出展7組の中から今年の「Gold Medal」に板坂留五さん(いたさかるい、Rui Architects主宰)が選ばれた。板坂さんは1993年生まれで、まだ20代。2018年に東京藝術大学大学院を出て3年目。出展した「半麦ハット」は、大学院時代から設計を始めて2019年秋に完成した両親の自宅兼店舗だ。

展示会場のうめきたシップホール。大阪駅の目の前という好立地。こんなところで展示されるのはうらやましい!
(写真:宮沢洋)
今年の「Gold Medal」に選ばれた板坂留五さん(左)と審査委員長の吉村靖孝氏

 板坂さんを含む7組の展示の様子は、LIFULL HOME’S PRESSのこの記事(登竜門の「U-35」建築展で20代の新鋭に栄冠、吉村靖孝氏や藤本壮介氏が「その先」に期待)を読んでほしい。そもそもこの展覧会は同サイトの取材で見に行ったので、そちらがメインである。ここでは、取材で面白かったこぼれネタを書く。こぼれネタだけど、意外にこっちが本質かもしれない。

 ここで書きたいのは、「なぜこんなにすごいメンバーが毎年このU-35建築展をサポートしているのか」という話である。ずっと謎だったのだが、今回初めて講評会を見て、腑に落ちた。

 「こんなにすごいメンバー」がどんなメンバーかというと、以下の10人だ。五十嵐太郎、倉方俊輔(上記2人は建築史家、以下は建築家)、芦澤竜一、五十嵐淳、石上純也、谷尻誠、平田晃久、平沼孝啓、藤本壮介、吉村靖孝の各氏。石上純也氏のみ講評会を欠席したので、下の写真には写っていないが、それでもこの並びは壮観だ。

 「ゲスト建築家・史家」と呼ばれるこの10人は、8年前から変わっていない。1人1人の実績を書くと長くなるので、気になる人はWEBで調べてほしい。こんな豪華メンバーが毎年1回、大阪の展示会場に集まるのである。自分のプロジェクトを発表するわけでもないのに、なぜ??

2時間以上前から藤本壮介氏が会場に

 単ににぎやかしで集まっているわけではない。事前に、出展者の選出にも関わっている。

 12年の間に出展者の選出方法には何度かの変更があったが、現在は、ゲスト建築家・史家10人による推薦者と、公募枠の中から、審査委員長が7組を目安に選ぶ方法を採っている。審査委員長は10人の中の持ち回りで、今年は吉村靖孝氏が担当した。今年の場合、ゲスト建築家・史家の推薦は下記だった。

1.五十嵐太郎 ●原田雄次(原田雄次建築工房)
2.倉方俊輔 ●太田翔+武井良祐(OSTR)
3.芦澤竜一 ●山口晶(TEAMクラプトン)
4.五十嵐淳 ●森恵吾 + Jie Zhang(ATELIER MOZH)
5.石上純也 ●岸秀和(岸秀和建築設計事務所)
6.谷尻誠 ●鈴木岳彦(鈴木岳彦建築設計事務所) →出展
7.平田晃久 ●松下晃士(OFFICE COASTLINE)
8.平沼孝啓 ●榮家志保(EIKA studio) →出展
9.藤本壮介 ●板坂留五 (Rui Architects) →出展
10.吉村靖孝 ●2021年審査委員長のため不選出

吉村委員長の事前審査で推薦枠から3組、公募枠から4組が選ばれ、2021年の出展者は以下の7組となった。

鈴木岳彦(鈴木岳彦建築設計事務所)
榮家志保(EIKA studio)
板坂留五(Rui Architects) *ここまで推薦枠
奈良祐希(EARTHEN)
西原将(sna)
畠山鉄生+吉野太基(アーキペラゴアーキテクツスタジオ)
宮城島崇人(宮城島崇人建築設計事務所)

展示会場の一部

 展覧会開幕直後に出展者の展示を見たうえで、一般公開の講評会で1組のGold Medalを選ぶ。これも最終的には審査委員長に一任して選ぶやり方だ。

 講評会の当日、会の始まる2時間半ほど前に展示会場に着くと、すでに審査委員長の吉村氏が来て展示を見ていた。最終的に審査委員長がGold Medalを選ぶわけだから、吉村氏が真剣なのはまあ、分かる。驚いたのは、その時点で藤本壮介氏がすでに会場にいて、出展者の説明に聞き入っていたことだ。大阪万博2025や東京トーチタワー(東京常盤橋の日本一高い超高層ビル)のキーマンであり、建築界で何番目かに忙しいのではないかと思われる藤本氏が、である(下の写真の左)。

 他の建築家・史家たちも1時間以上、会場を見て、個別に出展者に質問していた。この真剣さには驚いた。

五十嵐淳氏(左)と谷尻誠氏(その右)

一触即発? 五十嵐淳氏から藤本壮介氏への問い

 そして、もう一つ驚いたのは、講評会の雰囲気。いい意味でグダグダなのだ。毎年、出展者に対して辛口の批評が浴びせられると噂で聞いていたのだが、今年は出展者よりも、ゲスト建築家間での辛口批評に展開し、それがとても面白かった。一番刺激的だったのは、「方法論を言語化することが重要なのか」という流れの中で出た、五十嵐淳氏から藤本壮介氏へのこの問い。

 「藤本はさあ、昔から夢見たいな言葉を口にしてきたけど、それを一体何に結びつけてきたの?」(五十嵐淳氏)

マイクを握って答える藤本氏、その右が谷尻誠氏、五十嵐淳氏。一触即発!?

 会場の若手たちは、つかみ合いのケンカが始まるかとドキドキしたかもしれない。だが、これは同郷(ともに北海道出身)・同世代である五十嵐氏から藤本氏へのエールであろう。「藤本よ、お前はすでに日本建築界の最前線に立ちつつある。だから、いま一度、原点を思い出して前に進め」。そんな五十嵐氏の心の声を、私は勝手に読み取った。

 藤本氏がこの質問にどう答えたかは申し訳ないが、覚えていない。こういうやり合いを公衆の面前でできる関係性に、ほっこり温かい気持ちになった。

シンポジウムの前半は出展者7組のプレゼン

 五十嵐氏と藤本氏だけでなく、メンバー全体がそんなざっくばらんな感じなのである。客席側で見ているより、何だか壇上の方が楽しそうだ。なるほど、このイベントのモチベーションはこれか、と思った。

 豪華メンバーが毎年このイベントに集まる理由を勝手に推察すると、
1)これから頭角を表す世代と直接話をすることで、自分が進もうしている方向を相対化することができる
2)第一線で活躍している同世代の建築家と語り合うことで、自分のこれまでを相対化することができる

と、大きくはこの2つの理由なのではないか。つまり、若手にエールを送りつつ(give)、自分の過去と未来を確認(take)する場なのだ。

 実は、現地に取材に行く前には、「メンバーを少しづつ若返らせた方がいいのではないか」と思っていた。しかし、講評会を見て、考えが変わった。これは日本の建築界のために、今のメンバーでずっと続けた方がいい。70歳を超えても、今の10人で辛口(グダグダ?)トークを展開してほしい。その頃はメンバーの何人かはプリツカー賞を取っているかもしれない。出展者の中からは日本建築学会賞が10人くらい出ているのではないか。

 スポンサー集めから選考の段取り、会場手配まで、リーダーの平沼孝啓氏(NPO法人アートアンドアーキテクトフェスタ代表で平沼孝啓建築研究所主宰)は本当に大変だと思う。でも平沼さん、私は本心からそう思いますので、今の感じでずっと続けてください!(宮沢洋)

講評会の翌日、 Gold Medalに選ばれた板坂さんにインタビューする 平沼孝啓氏(左)と吉村靖孝氏

■Under 35 Architects exhibition 35歳以下の若手建築家による建築の展覧会
会期: 2021年10月15日(金)~25日(月) 12:00~20:00 期間中無休 最終入場19:30
※最終日は16:30最終入場、 17:00閉館
入場料:1000円
会場:大阪駅・中央北口前 うめきたシップホール(大阪市北区大深町4-1うめきた広場
公式サイト:https://u35.aaf.ac