グラングリーン大阪で「安藤忠雄展|青春」開幕、結果にコミットする安藤流クリエイティビティは健在

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 「安藤忠雄展|青春」がグラングリーン大阪の「VS.(ヴイエス)」で3月20日から始まる。会期は7月21日までの約4か月。30万人を超える来場者があった2017年の国立新美術館(東京・乃木坂)での展覧会以来の大規模展となる。3月19日に行われた内覧会には安藤忠雄氏本人が登場。建築展でこんなに?という数のメディアが安藤氏を取り巻いた。

3月19日に行われた内覧会にて(写真:宮沢洋、以下も)

 会場の「VS.」は2024年9月、グラングリーン大阪うめきた公園内に開館した。地下に約1400m2の空間を要し、天井高15mの展示スタジオがある。美術館ではなく、「新しい文化装置」を名乗っている。

 VS.の設計は日建設計と安藤忠雄建築研究所(設計監修)。VS.とは「Visionary」の「V」に「Station/Stage/Studio/Society」などの「S」を掛け合わせたもの。対比や対立を表すヴァーサスの意味も含まれる。

地下に降りると展示室

 展示の内容は多くのメディアが詳しく書くと思うので、それはさらっとにして(それを期待していた方はすみません)、筆者(宮沢)は安藤氏の変わらぬエネルギッシュさについて書きたい。展示内容もすごいが、とにかく安藤氏のエネルギーに圧倒されたのである。コロナ禍もあって、生の安藤氏を目にするのは4年ぶりくらい。お元気だろうかと心配していたのだが、登場すると心配は一瞬で吹き飛んだ。

前半は「挑戦の軌跡」、後半は「安藤忠雄の現在」

 まずは会場の雰囲気をさらっと写真でお伝えする。

 この写真↑は会場の前半部分「挑戦の軌跡」。以下はプレスリリースより会場構成の説明(太字部)。

会場は、「挑戦の軌跡」と「安藤忠雄の現在」の大きく2つのゾーンに分かれ、前者では住宅から祈りの空間・美術館などの文化施設に至る過去の安藤の代表作の全てを、後者では文字通り、安藤の現在の仕事を、「直島の一連のプロジェクト」のような長期スパンの作品から、「ブルス・ドゥ・コメルス」に代表される歴史的建造物の再生プロジェクト、「こども本の森」のような社会貢献プロジェクトまで、余すことなく紹介します。

「VS.」だからか、柱がVになってる!

 これ↑が会場の後半部分。

 天井高15mの「スタジオA」↑。この写真で壁3面に投影されている「ブルス・ドゥ・コメルス」については下記の記事をご覧いただきたい

この日、心に刺さった3つの安藤発言

立ち姿もシャキッとしているし、眼光も鋭い

 安藤氏は1941年9月生まれなので、今年84歳になる。大手術を何度か経験している。そんな人が、内覧会に来てちょっと挨拶するだけでなく、1時間立って歩いて、ときには壁にさらさらと絵を描く。

 話の途中途中で大阪人らしく笑いもとる。

「内臓が5つないから体が軽い」というジョークも、安藤氏が本当に元気そうなので皆大笑い

 そして、急に真顔になって話す言葉がいちいち心に刺さる。今回、筆者の心に特に強く刺さったのはこの3つの発言だ。

①「水の教会の再現にはお金がかかりますよ、と言われたが、お金はかかってもいいと言った。大阪の人、関西の人を感動させたい。」

 これは、本展の目玉の1つである「水の教会」(北海道・トマム)の1分の1展示の前での発言。なんと、室内に本当に水が張ってあるのだ。

 2017年の国立新美術館の安藤展では、「光の教会」(大阪)の1分の1展示が話題を呼んだ。本展の会場は天井が高く、あれを室内で再現することもできそうだが、同じことはやらない。リスクはあっても、新しい目玉にトライする。大阪の人に、「東京よりもすごいことをやっている」ということを見せるためだ。

雪景色にも。風景の映像は本展のために撮影した

 安藤氏に後で、再現にかかった費用をコソッと聞いてみたら、建築展がもう1つできそうな金額だった。

②「振り返ってみると50年間、ずっと『反対』との戦いだった。」

 この発言は、瀬戸内で計画した「こども図書館船 ほんのもり号」の説明をしていた中でのもの。

 知らなかった。「こども本の森」(安藤氏が自治体に寄贈してきた児童図書施設)のシリーズで、こんな計画が動いていたのか。通常は小型バスを使う「移動式図書館」を船のリノベーションでつくって、瀬戸内の島々を回るというアイデアだ。安藤氏が工事費を出すとはいえ、そんな夢物語みたいなアイデアを持ち掛けたら、やれ受け入れる港はどうするだの、運航の費用は誰がどう集めるだの、いろいろな方面から反対の声が上がることは想像に難くない。

 しかし、このプロジェクト、本当に実現する見込みだ。香川県が主体となり、今年春ごろから運行予定とのこと(香川県の発表はこちら)。その“突破力”に全く衰えはないようだ。

③「面白いものをつくれば人は集まってくる。」

 これは、報道陣から「この展覧会で何を重視したか」を問われたときの発言だったと思う。

 この言葉には、安藤氏のクリエイティビティの“安藤らしさ”が出ている。おそらく多くの建築家は、同じ質問に対して「こういう方向性の展示を目指した」と内容を説明するところだろう。ところが、安藤氏は「人が集まるもの」という結果から逆算して語るのだ。

 これは①のコメント「大阪の人、関西の人を感動させたい」にも言える。「現実と見まごうような水の教会を再現したい」ではなく、それをもって「人を感動させたい」なのだ。

 そういう安藤氏の発言の特徴は昔から感じていた。だから、さまざまな「反対」の壁にぶつかるのだ。自分だけの話ならば「勝手にすれば」だが、結果を目標にすると、巻き込む人が飛躍的に増える。

 筆者は自分の生き方そのものが安藤氏にかなりの影響を受けていて、始まりは32年前に書いたこの似顔絵↓だった。

香川県のサイトの「こども図書館船 ほんのもり号」のページに、筆者作の似顔絵(ハンコにしたのは安藤氏)を発見!

 この似顔絵がきっかけで安藤氏と接する機会が増えると、そういう「結果を目標とする創造行為」に大きな意味を感じるようになった。本人から直接言われてはいないが、遠回しに「自己満足では社会は変わらないぞ」と言われている気がするのだ。久しぶりに直接会って、最近の緩い自分を反省した。私もまだまだ「青春」しますよ、安藤さん!(宮沢洋)

■展覧会概要
名称:安藤忠雄展|青春
会期:2025年3月20日(木)― 7月21日(月)
会場:VS.(グラングリーン大阪内)
休館日:毎週月曜日(月祝の場合は営業)
開館時間:10:00 – 18:00(金・土・祝前日は 20:00まで)※入場は閉館の30分前まで

入場料(税込):[ 前売・当日 ] 一般 1,800円、大学生 1,500円、高校生 1,000円
[ 団体 ] 一般 1,600円、大学生 1,300円、高校生 800円
※本展は全日「日時指定」での販売となります。
主催:VS. 共同事業体(株式会社トータルメディア開発研究所・株式会社野村卓也事務所)
共催:安藤忠雄建築展実行委員会
公式サイト:https://vsvs.jp/exhibitions/tadao-ando-youth/