模型で目を引き、解説文で心に刻む「感覚する構造」展@WHAT MUSEUM

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 いろいろな人がSNSで面白いとつぶやくのを見ながら、日々の雑務と暑さに負け、会期残り5日での駆け込み見学となってしまった。でも、行ってよかった。確かに面白い。なんで今頃と言われるかもしれないが、備忘録としてリポートしておく。

入り口で出迎えるのは法隆寺五重塔の架構模型(写真:宮沢洋)

 寺田倉庫が運営する東京都品川区の「WHAT MUSEUM(ワットミュージアム)」で、4月26日から8月25日まで開催中の「感覚する構造(後期)-法隆寺から宇宙まで-」だ。

 まず、会場内に多くの人がいて驚いた。気温30度を軽く超す平日の昼間なのに。筆者が会場にいた正午前後には来場者が100人は超えていたと思う。入場料は一般1500円。有料でも、これだけの人を集められるのは、事業的に大成功と言ってよいのではないか。

 来場者の振る舞いから推測すると、8割が建築の専門家、2割が非建築系の人という感じだろうか。少ないとはいえ、その2割の人が楽しそうに見ている。ほぼすべての展示内容が「模型」メインで表現されているからだ。以下、プレスリリースより(太字部)。

本展は、建築の骨組みを創造してきた「構造デザイン」に焦点を当てた展覧会です。日本には世界に誇る建築家が数多く存在しますが、建築家の仕事を支える構造家の存在はあまり知られていません。重力や風力といった力の流れや素材と真摯に向き合い、その時代や社会とともに創造してきたのが建築の構造デザインです。専門性の高い構造デザインの世界ですが、建築の「骨組み」の模型を見たり、模型に触れたりしてその仕組みを分かりやすく紹介いたします。

展示室A

このたびの後期展では、近年サステナブルな建材として注目が高まる木材を用いた建築にフォーカスします。日本の伝統的な木造建築から最先端のものまでを取り上げ、木造の特質を歴史的に俯瞰し、未来の木造建築の可能性を考察します。また、構造デザインを応用したファッションや宇宙開発など、他領域との横断的な取り組みを通じて、構造デザインの広がりを提示します。前期展(注:2023年9月30日~2024年2月25日に開催された「感覚する構造–力の流れをデザインする建築構造の世界 」)から大幅に作品を入れ替え、100点以上の構造模型を鑑賞できます。

展示室Bでは若手の構造家を紹介
最後の展示室Dは東京大学大学院新領域創成科学研究科佐藤淳研究室による「宇宙空間へ」。佐藤さん、こんな研究もやってたのか!

2019年の「構造展」の発展形、言葉から模型へ

 今回の前・後期にわたる展覧会は、「WHAT MUSEUM」が「建築倉庫ミュージアム」だった2019年に開催された「構造展 -構造家のデザインと思考-」の発展形と思われる。

 このときは50人の構造家をピックアップし、模型や図面を見せつつ、その人の「言葉」をバーンと大きく見せる通好みな展示だった。理系の代表のような人たちの仕事の姿勢をあえて言葉で伝えるというその展示手法が個人的にはすごく好きだったのだが、やはり多くの人を呼ぶなら、模型なのだろう。

滋賀県立大学陶器浩一研究室による「円相」。引っ張りに強い竹の集成材の活用提案。こういうすごい模型を見ると、筆者は軽い敗北感を感じる…

 こういうすごい模型が並んだ展覧会を見ると、お金のほとんどかからないイラストで何かを伝えようと奮闘している自分は軽い敗北感を感じる。でも来場者を見ていると、ほとんどの人は、模型の迫力に驚いた後で小さな説明板の文章に読み入っている。解説の文章が、短いながらもすごく良いのだ。構造的な特色+技術史の中での位置づけが簡潔かつわかりやすく書きこまれている。

 例えばこんな感じ。

筆者がしばしば「若いうちに見るべき古建築ナンバーワン」に挙げている「投入(なげいれ)堂」。その説明文↓を読むと…
なるほど筋交いを使っているのは、「柱が細すぎて」貫を貫通させることができないからなのか! そして、あの土門拳もナンバーワンに挙げていたことに大共感
「関東で見るならこれでしょう」とよく言っている「さざえ堂」
えーっ、「スロープと逆方向の斜材」が立面をカッコよくしていると思っていたのに、もともとはなかったのか! どんだけ攻めた構造だったのか
現代建築の解説も熱い。「小国ドーム」の解説を読むと…
そうそう。この建築が現在の木造ムーブメントの源流だと私も思います!

 筆者は途中から、模型はさっと見て、とにかく説明文を読むスタイルになっていた。そして、各解説者のエネルギーにずいぶん勇気づけられた(ただし、誰が書いているのかよく分からなかったのが残念)。

 ショップに本展の図録は置いてなかったので、興味をひかれた人は8月25日(日)までにご自身の目で。

 なお、筆者も構造の展覧会にはある“野望”があって、以前にこんな記事を書いたことがある。有言実行、大願成就のために当該部を引用しておく。

日曜コラム洋々亭54:「新宮晋+レンゾ・ピアノ展」@中之島美術館を見て勝手に提案、“2人展”ならこの企画をぜひ!

 上記の記事の結び→→実は個人的にやってほしい、いや、やってみたい企画がある。編集者の血が騒ぐのである。それは「木村俊彦・川口衞展」だ。

木村 俊彦(きむら としひこ、1926年 -2009年5月27日 )は、建築構造家。建築家前川國男のアトリエ出身。半世紀に亘って数多くの建築作品に携わり、1980年代より槇文彦、篠原一男、磯崎新、原広司、安藤忠雄ら著名建築家の作品の構造設計を手掛けた。

川口 衞(かわぐち まもる、1932年10月21日-2019年5月29日)は、日本の建築構造家、構造エンジニア。坪井善勝の下で国立代々木競技場構造設計に参画。構造設計では建築構造と造形のあり方や、新しい構造技術の開発を主眼として構造設計活動を展開している。
(いずれもウィキペディアより)

 どうです? これ、絶対に面白いと思いませんか。うちでやりたい、というミュージアムの方や関係団体の方、ぜひお声がけください。もちろん私を巻き込まなくても構いませんので、できれば図録づくりだけでも参加させてください。(宮沢洋)

■開催概要
展覧会名:感覚する構造 – 法隆寺から宇宙まで –
会期:2024年4月26日(金)~2024年8月25日(日)
会場:WHAT MUSEUM 1階・2階(〒140-0002 東京都品川区東品川 2-6-10 寺田倉庫G号)
開館時間:火〜日 11時〜18時(最終入場 17時)

休館日:月曜(祝日の場合、翌火曜休館)
入場料:一般 1,500円、大学生/専門学生 800円、高校生以下 無料
※チケットはオンラインにて事前購入可能
※本展会期中に何度でも入場できるパスポートを販売
 展覧会パスポート 2,500円(本展と同時開催中の展覧会とセットで鑑賞可能)
※当ミュージアムの「建築倉庫」では、建築家や設計事務所からお預かりした600点以上の建築模型を保管しており、その一部を公開しています

 料金:建築倉庫入場料 700円、セットチケット(本展入場料+建築倉庫入場料)2,000円
主催:WHAT MUSEUM
企画:WHAT MUSEUM 建築倉庫
展示協力:東京大学 腰原幹雄
会場デザイン:吉野弘建築設計事務所
グラフィック:榊原健祐(Iroha Design)
URL:https://what.warehouseofart.org/exhibitions/sense-of-structure_second-term