3度目の転生を期待! 永山祐子氏「ウーマンズ パビリオン」はドバイ日本館のファサードをトランスフォーム──万博プレビュー10

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 大阪・関西万博で永山祐子氏が設計を手掛けるパビリオンの1つ、女性館「ウーマンズ パビリオン in collaboration with Cartier」が3月13日に報道陣に公開された。筆者はこれに参加できなかったのだが、建築としてはすでに完成していた2月中旬、永山氏の案内でひと足先に見学させてもらった。その時の写真を中心にリポートする。

パビリオンへの入り口。水盤への映り込みが華やか(写真:宮沢洋、特記以外は2025年2月14日に撮影)

立体格子のパーゴラで覆われた前庭

これはアップサイクルか、リユースか?

 ウーマンズ パビリオンは、内閣府、経済産業省、カルティエおよび公益社団法人2025年日本国際博覧会協会が、国内外の女性活躍に向けた取り組みを紹介することを目的に、連携・協力して出展するパビリオン。建築面のポイントについては、2年前、2023年春の発表段階で当サイトで2回記事にしている。

 なので、大枠についてはその要約で楽をさせていただく(一部加筆)。まずは、2023年3月8日の発表会見を受けた1本目の記事から。

日曜コラム洋々亭46:永山祐子氏が大阪・関西万博「ウーマンズ パビリオン」で挑む「アップサイクル建築」の可能性(2023年3月12日)

 2023年3月8日の発表会見のフォトセッション。左から永山祐子氏、2025年日本国際博覧会協会事務総長の石毛博行氏、カルティエ ジャパン プレジデント&CEOの宮地純、経済産業省 大臣官房審議官 澤井俊氏(肩書は当時) © Cartier

 「ウーマンズ パビリオン in collaboration with Cartier」は、「When women thrive, humanity thrives ~ともに⽣き、ともに輝く未来へ~」をコンセプトに掲げ、すべての人々が真に平等に生き、尊敬し合い、共に歩みながら、それぞれの能力を発揮できる世界をつくるきっかけを生みだすことを目指す。建築家の永山祐子氏がリード アーキテクトに就任。永山氏が設計した2020年ドバイ国際博覧会の日本館で使用したファサード資材を大林組の協力によりリユースする。

2023年3月8日の会見で「ウーマンズ パビリオン」について説明する永山氏。カルティエ ジャパン、2025年日本国際博覧会協会、内閣府、経済産業省の共催によるプレスカンファレンスにて(オンライン配信された会見のキャプチャー画像)

 永山氏は会見(2023年3月8日)で、自身の設計による2020年ドバイ国際博覧会日本館のファサード資材を、2025年日本国際博覧会「ウーマンズ パビリオン」で再構築すると説明した。ドバイ日本館のファサードは、日本の「麻の葉文様」を立体格子で表現したものだ。

 今回のパビリオンの話が決まったことから、解体時に慎重に取り外して移送。日本で保管されている。2つのパビリオンは平面形が全く異なるので、それを今、破綻なく収まるように検証している最中だ、と永山氏は語った。

・・・・

 筆者はその会見を聞いて、「リユースだと永山氏は説明しているけれど、建築全体で見ればアップサイクルであり、『アップサイクル建築』と呼んだ方が建築の新たな方向性を示してよいのではないか」と記事に書いた。

 その記事を読んだ永山氏から「いえ、これはやっぱりリサイクルです」と連絡があり、改めて話を聞きに行ったのが2回目の記事だ。

「あきらめない」が生む仰天ディテール、永山祐子氏が大阪・関西万博で取り組む2つのパビリオンの詳細を聞いた!(2023年4月19日)

 永山氏に説明してもらい、筆者の理解に一部誤りがあることがわかった。それは再利用するパーゴラが自立するものであること。筆者は、これが本体に付けられた装飾で、本体から離れている部分は鉄骨の柱・梁で支持しているのだと思っていた。だから、古着などを新たなデザインで再利用する「アップサイクル」に例えたわけだが、パーゴラの立体格子自体で自立しているとなると、確かにリサイクルか…。

 しかし、デザインはかなり変化しているので悩ましい。下の図を見てほしい。ドバイ万博日本館と大阪・関西万博のウーマンズパビリオンの施設構成の比較だ。いずれも色の付いた部分が立体格子(組子)。ファサード部分だけでなく、ピンク色のパーゴラ部分も再利用する。奥にある屋内展示部分は新たに建てるわけだが、色付き部分に新たな柱・梁を立てることはない。

ドバイ万博日本館の組子ダイアグラム ©永⼭祐⼦建築設計
ウーマンズパビリオンの組子ダイアグラム ©永⼭祐⼦建築設計

 リユースというと単純に同じ形の再現をイメージしてしまうので、「トランスフォーム」か。まあ、もはや呼び方はどうでもいい。

 びっくりするのは、この立体格子が同じパーツの繰り返しではないこと。

 「コストの理由から、立体格子の鋼材の厚みが場所によっていろいろ違っているんです。組み直しても、新たに部材を加えることなく構造が成立するように、構造設計担当のアラップとともに部材の配置を検討しているところです」と永山氏。ひえー、それは大変な作業。AIにやってもらいたい。

 話を聞いてもう1つびっくりしたのは、この再利用が、誰かのお膳立てで生まれた流れではなく、永山氏自身が関係者にその必要性を説いて回り、実現にこぎつけたものだということ。

 ドバイ万博日本館のファサードを設計している段階で、別の場所でリユースすることは想定していた。だが、現場が始まるとそれどころではなくなり、「完成間近になって、『そろそろ閉幕後のことを考えないと廃棄されてしまう!』と急にあせりだしました(笑)」という状況だったそう。

 紆余曲折の末、解体を大林組、輸送保管を山九の協力、そしてカルティエ ジャパンという良き理解者を得て、リユースを前提としたパビリオンの実現にこぎつけた。

 …と書いたのが設計終盤の2023年4月19日。半年後の2023年10月23日に大林組の施工で着工し、2025年1月末に完成。2月14日時点ではこうなっていた↓。

2階から見下ろす
棒状の「チューブ」、球状の「ノード」、白い膜材の3つで構成される。膜材もドバイのリユース。ドバイ万博日本館の施工・解体を担当したのも大林組グループで、大林組はファサードをリユースするために、解体時に部材1つひとつにQRコードを張り付けて管理した。大林組のリリースによると、「大林組開発のプロジェクト管理システム『プロミエ』を利用。ファサードの各部材に刻印された『固有識別番号』に着目し、BIMモデルに入力した搬入予定日など施工上の『部材情報』を『プロミエ』によりひも付け、QRコードを各部材に貼り付けて識別を容易にすることで、部材の仕分け、施工位置の把握、部材の搬入、組み立てについて25%程度省力化することが可能」とのこと
2階にある半屋外のガーデン。1階と2階をつなぐ吹き抜けの上部に楕円形のトップライトを設けた
2階のガーデンから屋外を見る

「次はどこで使うんですか?永山さん」

 このパビリオン、上記のようないきさつを知らずに見たら、普通に新築したものに見えるだろう。永山氏が動かなかったら、このパーゴラがまるまる廃棄されていたかと思うと、万博の功罪を考えてしまう。

 そしてリユースなのだといういきさつを知ってしまうと、「次はどこで使うんですか」と尋ねずにはいられない。明確な答えは聞けなかったが、その表情を見れば「考え中(奔走中?)」であることは間違いないようだった。(宮沢洋)

このパビリオンの来場には予約が必要。公式サイトはこちら

場所は日本館(こちらの記事)の隣。見ようによっては、ドバイ万博の日本館と今回の日本館が並んでいるともいえる
右隣が「日本館」。その右隣が大催事場「シャインハット」(2025年3月19日に撮影、下の写真も)

■建築概要(大林組のサイトから引用)
2025年日本国際博覧会 ウーマンズ パビリオン新築工事
施設規模 建築面積:1185.76㎡

延床面積:1708.38㎡
構造:S(鉄骨)造
階数:2階建て
発注者 リシュモン ジャパン株式会社 カルティエ
設計監理者:有限会社永山祐子建築設計、オーヴ・アラップ・アンド・パートナーズ・ジャパン・リミテッド

施工者:株式会社大林組
展示・運営:展示:株式会社乃村工藝社
運営:株式会社コングレ
工期:新築:2023年10月23日~2025年1月31日
解体:2025年11月1日~2026年4月10日(予定)

永山祐子氏が設計したもう1つのパビリオン、「ノモの国」の記事はこちら↓。