愛媛県松山市を拠点に活動する矢野青山建築設計事務所の矢野寿洋氏と青山えり子氏。BUNGANETでは不定期のシリーズで彼らの活動を追っている。2026年度の3部作の最後は、矢野青山建築設計事務所が事務所を移した「ミツてらす」と三津浜のまちの魅力についてリポートする。(宮沢洋)
【取材協力:矢野青山建築設計事務所】
矢野青山建築設計事務所は2025年秋から松山市の三津浜商店街沿いの「ミツてらす」を新たな拠点としている。既存の鉄骨造ビルを買い取って改修したものだ。

2026年1月30日、31日には、近隣の人たちも参加できるオープニングイベントを行った。




「ミツてらす」の「ミツ」は三津浜のミツだとすぐにわかったが、「てらす」はなぜテラスでなく平仮名なのだろうと思っていた。フリースペースとなっている1階の説明資料を読んで理由がわかった。「1Fのフリースペースはみなさんや学生と活動をする場。まちをあかるくてらす」とある。そうか、「まちを照らす」なのか。


フリースペースの利用料は今のところ、無料だ。
設計事務所がオフィスの一部をまちに開放しているケースは、筆者もいくつか知っている。だが、アトリエ系の設計事務所でビルのワンフロアがまるまるフリースぺースというのは相当珍しい。資料には、「使用可能ゾーン」「地元の方大歓迎」として、こんな平面図が載っている。

2026年3月28日(土)には、「ミツてらす」にとって初開催の文化イベントを行った。関東出身の音楽デュオと愛媛に拠点を置くマリオネット人形師とのスペシャル・コラボレーション。砥部焼、蚤の市などのマルシェも開催した。




開催予定のイベントの情報は主にインスタグラムで発信中。今後は、矢野氏が教べんを執る愛媛大学の学生たちとの連携も増えそうだ。
海の玄関口として栄えた三津浜
「三津浜」という地名は、愛媛県外の人にはまだピンとこないのではないか。松山市の中心部から5㎞ほど西にある港町で、公共交通機関だと伊予鉄の松山市駅から高浜線で15分ほど。

かつて松山の海の玄関口として栄え、戦火も免れたことから、当時の豪商や文化人にゆかりのある古民家・史跡が多く残っている。ちなみに、正岡子規や秋山好古・真之兄弟が上京のために出航したのも、夏目漱石が松山中学校に赴任した際に降り立ったのも三津浜港であった。そんなエピソードを聞いただけでも、グッとくる人が多い気がする。
ミツてらすは、伊予鉄の三津駅から西に延びる三津浜商店街の一画にある。それまで松山市中心部の緑町にあったオフィスを三津浜に移転したのは、矢野氏がこの地域で育ったからだ(青山氏は神奈川県出身)。矢野氏は、「ご多聞に漏れず、空き家が増えているこのまちに自分も何かできることはないか」と考えた。「空洞化が進んだことで、物件が安く、若い世代が新しいことを始めやすい」というのも大きな理由だ。実際、近年、空き家を活用した商業施設などが急激に増えている。
矢野氏が事務所の周辺を案内してくれた。先ほど「まだピンとこないと思う」と書いたが、「まだ」と限定したのは、数時間歩いただけでも「これは観光地としてポテンシャル」がありそう、と強く感じるエリアだからだ。

この一帯で空き家を活用した施設が増え始めたきっかけは、2013年に始まった「三津浜町家バンク」だ。運営するミツハマルは、松山市の三津浜地区古民家活用事業として、「三津にハマル雰囲気づくりや、 ハマレる環境づくりをしていくプロジェクト」(事業主体はコトラボ合同会社)。いわゆる空き家バンクとは異なり、三津浜地区に新たなにぎわいを創出することを目的として、それにあった空き家の情報を収集し所有者と利用希望者とのマッチングを行っている(事業の詳細は松山市のサイトを、活用事例はミツハマルのサイトを)。

観光地としての魅力は、例えば、この渡し船↓。


三津浜の北側の河口港では「三津の渡し」と呼ばれる渡し船がなんと無料で運行している。この渡し船は松山市道高浜2号線の一部であるため料金を取らないのだという。距離は約80mで時間は約2分。その歴史は、室町時代にまで遡るそう。これのためだけでも観光客がもっと訪れておかしくはない。
1階はトンネル状の半屋外に、オフィスは2階
このエリアは「物件が安い」と書いたが、矢野青山が新拠点としたミツてらすのビルも、「迷わずに買おうと思うくらいの安さ」(矢野氏)だったという。もとは酒屋兼住居として1980年に建てられた鉄骨造3階建てで、購入する前は倉庫として使われていた。



敷地は南北に細長く、建物の裏側(南側)には庭があった。1階に光を入れるため、短辺方向の非耐力壁をほとんど撤去して、南北にスカッと抜けたワンルーム空間とした。南北とも開口部を開け放つことができ、トンネル状の半屋外にもなる。



2階がオフィス、3階は模型や資料などを置くスペースとして使っている。今のところ、総勢7人の事務所にはかなり広い。


屋上もあって、手製の暴露試験も行える。屋上は三津浜花火大会(四国最大級!)の特等席でもあるそう。


実は、同じ商店街に、購入した土地や物件もある。これらも安かったので「即買い」だったそうだが、「仕事が忙しくて、まだ活用の方向性がまとまらない」(矢野氏)とのこと。青山氏も「なかなか進まない」と笑う。
確かに、ここに何かを建てるのに、建築家としてはまちとの関係性を考えないわけにいかない。何年後かにどうなったのかをこの目で見るのが楽しみだ。ハードルを上げてすみません!(宮沢洋)

■建築概要
ミツてらす
所在地: 愛媛県松山市住吉2-6-23
階数:地上3階
構造:鉄骨造
敷地面積:179
建築面積:99㎡
延べ面積:274㎡
設計(改修):矢野青山建築設計事務所
施工(施工):トライアル
施工期間:2025年3月~7月(既存建物の竣工は1980年)
■取材協力
株式会社 矢野青山建築設計事務所
〒791-8062愛媛県松山市住吉2-6-23ミツてらす2F(愛媛事務所)
〒108-0072東京都港区白金5-12-17 2F(東京事務所)
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