建築系雑誌読み比べ!02:新建築、GA、商店建築─「新作紹介」の葛藤

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 自粛期間向け・短期集中連載「建築系雑誌読み比べ!」の第2回である。今回レビューするのは「新建築」「GA JAPAN」「商店建築」の3冊。いずれも、建築専門誌の王道とも言える「新作紹介」のメディアだ。

 今回初めて読んだ人のために一応説明しておくと、これを書いているのは前・日経アーキテクチュア編集長で今はフリーの宮沢である。建築系雑誌12冊を3冊ずつグルーピングし、(1)ほかの雑誌にない独自性、(2)なるほど!と感心した伝え方、(3)編集部へのエールの3項目でレビューしていく。

 「新建築と日経アーキテクチュアの人は仲が悪いんですか?」と聞かれることがある。そんなことはない。昔はどうだったか分からないが、少なくとも21世紀に入ってからは、内覧会などで会えばにこやかに挨拶するし、日経アーキで発刊した書籍を新建築が書評欄で取り上げてくれたりする。べたべたではないが、普通の関係だ。

 実は、私は、新建築をはじめとする新作紹介誌の編集者たちをひそかに尊敬していた。正直、自分には務まらないと思っていた。なぜそう思うか、どこが同じ編集者としてすごいと思うのかを、この場を借りてカミングアウトする。

あえて考えさせる「新建築」

 まずは王道中の王道、「新建築」から。

(1)ほかの雑誌にない独自性

 「新建築」2020年4月号の特集は「木造特集」だ。まず、このことが表紙に書いていないのがすごい。

 表紙にコンテンツを書かない雑誌は、「週刊文春」と「週刊新潮」くらいしか思いつかない。固定読者をがっちりつかんでおり、特集がなんであっても買ってもらえる──そういう強いブランド力のある雑誌のみができる表紙だ。

 ではなぜ、表紙にコンテンツを書かないのか。それはこの号の内容を見た後で考察する。

 本題にしたいのは特集だが、その前に新建築は「NEWS」欄がいい。時事系ニュースでは日経アーキテクチュアに軍配が上がると思うが、新建築のNEWS欄はコンペ・プロポーザルの結果や受賞などがコンパクトにまとまっていて見やすい。

(誌面スケッチ:宮沢洋、以下も同じ)

 実はこの号のNEWS欄を見て、藤森照信氏が2019年度の日本芸術院賞に選ばれていたことを初めて知った(藤森さん、なぜ教えてくれない…)。調べてみたら日本芸術院の発表は3月19日。校了ぎりぎりだったはずだ。こうしたニュースを一体どういう分担で追って書いているのか、その漏れのなさに感心する。
 
 さて、4月号の目次を見てみよう。

作品18題
虎ノ門ヒルズ ビジネスタワー:森ビル 一級建築士事務所 インゲンホーフェン・アーキテクツ(外装デザイン、オフィス共用部インテリアデザイン)
東京メトロ銀座線渋谷駅:メトロ開発 内藤廣建築設計事務所 東急設計コンサルタント

特集:木造特集
特集記事:「都市木造」の展開 腰原幹雄(team Timberize)
ROOFLAG:原田真宏+原田麻魚/MOUNT FUJI ARCHITECTS STUDIO
銘建工業本社事務所:NKSアーキテクツ+桃李舎
FLATS WOODS 木場:竹中工務店
長門市本庁舎:東畑建築事務所・藤田建築設計事務所・M.DESIGN ASSOCIATES一級建築士事務所 設計共同企業体
称名寺 鐘撞堂:大西麻貴+百田有希/o+h
CLT PARK HARUMI:清水聡+名倉良起+瀬島蒼/三菱地所設計 隈研吾建築都市設計事務所(デザイン監修)
Hanafubuki / Ballet de Petales:Group of Sabrina Bresson and Marc Dilet / ENSA Paris Val de Seine + 東京大学佐藤淳研究室
岩国のアトリエ:向山徹建築設計事務所
さわら町屋館:TAKUMA建築設計事務所
北海道大学医学部百年記念館:北海道大学工学研究院建築デザイン学研究室+北海道大学工学研究院都市地域デザイン学研究室+創建社
ししいわハウス:坂茂建築設計
令和蔵 Storage of the soul:羽深隆雄・栴工房設計事務所
プラス薬局みさと店:工藤浩平+小黒日香理/工藤浩平建築設計事務所
生長の家福島県教化部新会館:八光建設 LAN 間十間計画工房 ナチュラルセンス
清光社 埼玉支店:有井淳生+入江可子/アリイイリエアーキテクツ
ウッディパーツ第2工場オフィスプロジェクト:ANALOG

 木造特集には16件が載っている。私は日経アーキ時代に何度も木造特集を担当し、「自分は今の都市木造ムーブメントを切り開いた1人だ」くらいの自負があったのだが、思い上がりだった。掲載されている半分以上を知らなかった。

 これらはネット検索で簡単に見つかるネタではない。おそらく、常日頃から多くの設計者に連絡を取りまくって直接情報を得ているのだろう(いわゆる御用聞き)。しかも掲載プロジェクトには、アトリエ系の設計事務所から組織設計事務所、建設会社設計部まで偏りがない。その情報収集力は圧倒的だ。

(2)なるほど!と感心した伝え方

 これはずっと前から思っていたことなのだが、新建築は「あえて簡単に理解できない」つくりになっている。表紙にコンテンツの説明がないこともそうだが、驚くことに各記事の頭に見出しがない! 

 単独のプロジェクト紹介記事はもちろんのこと、木造の特集も、記事頭は「プロジェクト名、設計者名、施工者名、所在地」のみ。見出しらしきものは、6~7ページ後から始まる本文の頭に小さな字でようやく現れる。

 これは普通の雑誌ではあり得ない。編集者にとって「見出しを付けること」は最も重要な仕事の1つと私は教えられたが、この雑誌はそうした編集メソッドから外れている。

 あくまで推測だが、これは「読者に固定観念を植え付けない」ためなのではないか。

 今号は木造特集なので、記事頭に「CLTを使った~」とか「耐火木造で~」とか書けば、読者は「ああ、そうか」と思ってページをめくりやすい。ただ、それによってCLTや耐火木造「以外」の情報はそぎ落としながら読んでしまう。人間とはそういうものだ。

 新建築は、そうさせず、すべての情報の中から「読者自身が必要と思うこと」をすくい出すように仕向けているのだ。つまり、「あえて簡単に理解できない」→「読者それぞれにその意味を考えさせる」というスタンス。図書館が休館していて、いつからそうなのか確認できなかったが、少なくとも手元にある1970年代の新建築は今と同じつくりだ。

 では編集者は一体何をやっているかというと、先に触れた「漏れのない情報収集」と、「偏りのない線引き」(掲載・非掲載の判断)、そして設計の意図を忠実に伝える誌面を「設計者とともに」つくること。これは私のような天邪鬼編集者にはできない。メディアという立ち位置を超えて、「日本の建築文化を育てる」という自負があってこそできることだ。

 おそらく新建築の編集部でも、これまで何人もの若手が、「分かりやすい見出しを付けましょうよ」と編集長に掛け合ってきただろう。しかし、それは常に突っぱねられてきた。「オレたちはこのスタイルで日本の建築を育ててきたのだ」と。その葛藤を想像すると、同じ編集者として胸が熱くなる。

 私は若いころ、「建築学科の学生に日経アーキテクチュアを読ませたい」と熱く思っていた。だが、今は学生が本をほとんど読まない時代となり、「学生にはせめて新建築を読んでほしい」と思っている。ただでさえ建築士試験の制度が変わって学生が実務寄りにならざるを得ない時代。日経アーキの皆さんには悪いが、学生は新建築を読んで「考える力」「感じる力」を養うべきだと思う。

(3)編集部へのエール

 2020年6月1日からいよいよ新しいwebサービス「新建築データ」がスタートですね。(4月14日発表のプレスリリースはこちら、 5月14日までの無償公開版はこちら)。

 「6月を予定している一般リリースでは、2005年2月号から2020年5月号までの『新建築』に掲載された建築プロジェクト約3,400件、および2018年1月号から2020年5月号までの『新建築住宅特集』から約500件がデータベース化されます」

 「その後は、両誌に掲載された前月号の建築プロジェクトが毎月加わるほか、過去にも遡ってデータベースを拡充し、順次「新建築データ」で公開される予定です」(リリースから引用)

 楽しみです。我々のような小所帯でも手軽に使える料金設定になるといいな…。

 そして、あと5年でついに創刊100年。雑誌自体が文化財級! 日本の建築文化のために、これからも頑張ってください。

■「新建築」2020年4月号
発行:新建築社、編集長:四方裕、月刊、定価2420円(税込み)、年間購読(12冊):2万9040円
 https://shinkenchiku.online/product-cat/shinkenchiku/

ピュア過ぎるもう1つの巨頭「GA JAPAN」

 「GA JAPAN」の2020年3-4月号(通巻163)の特集は「1970-2020:100の建築」だ。特集の前書きには、「1970年に二川幸夫が出版社を起こして今年で50年を迎えるにあたり、あらためて東京の50年の建築をアーカイブから選び総覧してみようというのが本号の主旨である」とある。

 なるほど50年か。といっても、GA JAPANという定期誌が創刊50年であるわけではない。発行元のA.D.A.EDITA Tokyo(エーディーエー・エディタ・トーキョー)を写真家の二川幸夫氏(1932~2013年)が創設したのが1970年ということだ。当初はGAの名称で不定期発行されていたが、1992年にGA JAPANとして定期化された。A.D.A.EDITA Tokyoはこのほかに、「GA DOCUMENT」「GA HOUSES」という日英併記のグローバル誌も発刊しており、これらは世界に日本の建築を発信する役割も担っている。

 さて、今回購入したGA JAPAN2020年3-4月号「1970-2020:100の建築」は、名作がずらって並んでいて、事務所の書棚に並べるのには良かったのだが、「新作紹介」のレビューには向いていなかった。新作が載っていない。

 なので、新建築に比べると軽めのレビューとなる。というか、正直に言うと、私にもいまだGA JAPANという雑誌がどのようにつくられているのかが分からず、突っ込むことができないのだ。最初に白旗を上げておく。ごめんなさい。

(1)ほかの雑誌にない独自性、(2)なるほど!と感心した伝え方

 一番謎なのは、GA JAPANにはほとんど広告がないこと。この号をめくってみると、自社の書籍以外では「KMEW」の建材広告1ページだけだった。私の記憶では創刊当初から広告がほとんどないか、全くなかった。

 新建築には、以前ほどではないとはいえ、今もかなりの広告が載っている。建築界にこれだけ影響力のあるGA JAPANに広告がないのは、おそらく「広告が入らない」のではなく、「広告収入に頼らない」というスタンスなのだろう。これは大変な労苦を伴う判断である。

 建築に限らず、雑誌というものは一般的に販売収入と広告収入の両輪で成り立っている。仮にその比が5:5だとすると、もしその雑誌から広告をすべて抜き去ったら、現状の雑誌を事業継続する道は3つだ。(1)値段を倍に上げる。(2)ページ数を半分に減らす。(3)人件費や印刷費などをやりくりしてなんとかコストを下げる。

 GA JAPANは1冊2566円(税込み)で、新建築の2420円(税込み)より少し高い程度。総ページ数はGA JAPANが236ページ(2020年3-4月号)で、新建築の226ページ(2020年4月号)より厚い。つまり、(1)(2)の方向ではない。(3)人件費や印刷費などをやりくりしてなんとかコストを下げる、の方向なのではないか。

 さらにこの雑誌は、グラビア誌ではあるものの、編集者が書くテキスト量がめちゃめちゃ多い。この号にも建築家の藤本壮介氏、亀井忠夫氏(日建設計社長)、隈研吾氏、谷尻誠氏の長めのインタビューが載っており、特集中のプロジェクトの説明文も編集部の執筆だ。

 目次ページにあるスタッフリストを見ると、発行:編集の二川由夫氏を含めて4人しか名前がない。隔月発行とはいえ、この値段でこの内容を4人で!? うーん、私にはできない。

 そもそもなぜ「広告収入に頼らない」のかというと、おそらく広告スポンサーからの外圧を受けないためであろう。これも新建築と同様、「何者にも左右されず建築文化を育てる」という自負なのではないか。私は日経アーキテクチュア在籍時に広告スポンサーから圧力を受けたことはないが、その姿勢は潔いと思う。

 日本の建築設計者は、「新建築」「GA JAPAN」というピュアな新作紹介誌が2誌もある状況を神に感謝すべきかもしれない。

(3)編集部へのエール

 注目プロジェクトの設計過程をリアルタイムで追う「PLOT」という企画は、素晴らしいコンテンツだと思います(この号にはありませんが)。この企画が始まったときに「やられた!」と思いました。でも、今ではGA JAPANの目玉企画となっており、「自分の目に狂いはなかった」と(笑)。

 以前に安西水丸さんが書いていた「地球の細道」みたいなホッコリ連載もまたやってほしいです。

■「GA JAPAN」163  2020年3-4月号
発行:A.D.A.EDITA Tokyo、発行:編集:二川由夫、隔月刊、2566円(税込み) https://www.ga-ada.co.jp/japanese/ga_japan/

時代の核心!「商店建築」

 実は、私は日経アーキテクチュア在籍時には、「商店建築」をあまり真剣に読んでいなかった。商店建築はコンテンツがインテリア寄りなので、取材・撮影であまりかち合うことがなかったからだ。

 しかし、2020年4月号の特集は「創造性を刺激するオフィスデザイン」。おお、これは日経アーキの特集タイトルでも良さそうだ。バックナンバーを見てみると、2019年は4月と10月に2回もオフィス特集をやっている。そうだったのか、そのとき見ていたらいろいろヒントがあっただろう。不覚…。

 そして、この雑誌は間違いなく今後、「時代の核心」を描くことになる。この雑誌を久しぶりにじっくり読んでそう思った。

(2)なるほど!と感心した伝え方

 他の雑誌とは話の順番が逆になるが、まず「感心した伝え方」から。

 この雑誌は良い意味で広告ページと編集ページの区別がつきにくい。「広告が邪魔だな」と思いながら読む雑誌もあるが、商店建築はそういうストレスをほとんど感じない。単発の広告、広告企画(あるテーマで集めた広告特集)も、編集記事と同じように読めてしまうのだ。

 おそらく、編集側で広告のデザインをコントロールするか、編集ページとなじむデザインフォーマットを用意しているのではないか。

 それが奏功してか、商店建築には広告が多い。ついさっきGA JAPANの姿勢を「潔い」と言ったばかりだが、私は別に広告をたくさん載せることが悪いとは思っていない。重要なのは、編集部が読者に伝えたいことを広告によって変質させないということだ。雑誌への広告出稿がきびしくなっているこの時代に、「宣伝ぽくなく、情報として読める広告をつくる」という商店建築の努力に学ぶことは多い。

(1)ほかの雑誌にない独自性

 独自性の第一は写真。「商店」は、外部と内部で構成されるはずだが、この雑誌の写真は明らかに内部寄りだ。本当に頭からずっと室内写真が続く。編集ページではついに外観写真を2点しか見つけられなかった。
 
 オフィス特集でびっくりしたのは、「ミクシィ本社」(設計:日建設計、日建スペースデザイン)の記事。ミクシィのオフィスってこんななのか!という驚きに加え、8ページもある記事の中に外観写真がない!

 なぜそれが驚きかというと、このオフィスは話題の「渋谷スクランブルスクエア」にある。私なら、絶対、最初の見開きに外観写真をかませる。その方が売れそうだ。

 この雑誌の読者にはインテリアデザイナーや家具・什器メーカー、内装建材メーカーの読者が多いと推察される。外観写真を無暗に入れないことは、読者や広告クライアントに向けて、「うちは新建築やGAとは違いますよ」というメッセージなのではないか。もっと大きく言えば、「建築に惑わされずに、日本のインテリア文化を育てます!」という決意表明なのかも。

 そして、今回、この時期にオフィス特集を読んで思ったのが、この雑誌がテーマとする「インテリア」こそが、「アフター・コロナの空間づくりの核」になるのではないかということだ。

 特集のタイトルに「創造を刺激する」とあるように、特集では従来型のマス・オフィスではなく、イノベーションやインキュベーションを生む独創的なオフィスを取り上げている。だが、それはこれまでの働き方改革の中での話だ。トレンドとして役には立ったが、どの記事を読んでも「コロナで否応なく進んだテレワークの後に、このオフィスはどういう意味を持つのだろうか」と、そっちに考えが行ってしまう。

 確かに斬新なオフィスが並んでおり、この特集は、「コロナ前」のオフィスの到達点とはいえそうだ。そして、次回のオフィス特集では、「コロナ後のヒント」を探ることにならざるを得ないだろう。

 考えてみると、オフィスに限らず、商業建築全般が「コロナ前後」で大きく変わりそうだ。ネット通販はますます勢いを増し、今までなんとなく実店舗に足を運んでいた人も、そこに「わざわざ行く価値」を見いださなければ行かなくなる。建築それ自体を簡単に建て替えるわけにはいかないので、インテリアでの意味付けが重要性を増す。この雑誌は否が応でも、「時代の核心」を描くことになる。

(3)編集部へのエール
 
 次のオフィス特集には注目しています。そして、個人的には、やっぱり外観の写真は小さくでも入れてほしいです(笑)。

■「商店建築」2020年4月9日号
発行:商店建築社、編集長:塩田健一、月刊、定価2138円(税込み)、年間購読(12冊):2万5656円
 https://www.shotenkenchiku.com/

 前回の記事と次回以降は下記にリンク。

建築系雑誌読み比べ!01:建築知識、Casa BRUTUS、日経アーキ─それぞれの社会性を投影
建築系雑誌読み比べ!03:a+u、建築技術、ディテール─「技術」という宝の山
建築系雑誌読み比べ!04:住宅特集、住宅建築、建築知識ビルダーズ─「建築の日本」を醸成