吉阪隆正展@MOTが開幕、イラスト会場図を手に「ひげから地球へ」

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公立美術館では初の大規模展となる建築家・吉阪隆正の展覧会「吉阪隆正展 ひげから地球へ、パノラみる」が3月19日から東京都現代美術館(MOT、東京都江東区)で始まった。この展覧会では、宮沢が描いたイラスト会場マップが無料で配布されている。宮沢はまだ行くことができていないので、助っ人大学院生、大塚光太郎君(東京大学生産技術研究所)に会場リポートをお願いした。(ここまで宮沢洋)

(写真:宮沢洋)

なぜ、ひげから地球へ、なのか?

 展覧会サブタイトル「ひげから地球へ、パノラみる」とはどういう意味なのだろうか? 吉阪隆正展であれば、「恋人はコンクリート」とか「コルビュジエの克服」のような副題が付けられるものだと思っていた。

 しかし、そんな戸惑いは、入ってすぐ目に入ってくる吉阪の自画像イラストと彼の教訓的な言葉とともに消え去る。

(写真:長井美暁 以下、特記のない場合は同じ)

 通常、建築家の展覧会といえば、まず初めに代表作の建築模型がドーンとあり、奥には時系列順に作品が並ぶ、といったものを想像してしまうが、吉阪展はそれと全く違う。

吉阪がアンデス神話を描いた童話『宇為火(ウイカ)タチノオハナシ』に登場する生物(写真:大塚光太郎)

 最初に彼の顔、言葉から彼の人となりを想像し、吉阪隆正という人物に対して興味を深めてから建築を見るというスタイルをとっているのである。その意図もあってか、年表への力の入れようがすさまじい。

(写真:大塚光太郎)

 豊富な写真や小物、著作物などと共に描かれる彼の人生年表の中には、彼が授業でネクタイの歴史を学んでからノーネクタイにしたことや、ゲバラとカストロに会うためにひげを伸ばしはじめたことなど、吉阪の人間性を伝える情報が満ち溢れていた。


 その後、彼の書いた童話が描かれた「メビウスの輪」と称される大きな展示物を見ている頃には、彼の建築を早く見たくて仕方がなくなり、ウズウズしてしまう。それほどに吉阪という人物に興味を持たせる導入が素晴らしかった。

対話する展示

 ついに建築ゾーンへ入ると、目の前に吉阪の自邸の原寸大断面図が飛び込んでくる。コンクリートの人工土地※の迫力や、階高の低い当時の建築設計の様子が見てとれる。(※戦後の住宅難解消のため吉阪は「住むためにすべてが準備されている大地を人工の力でつくる」ことを提唱し、それを人工土地と呼んだ)

 哲学するトラと吉阪のツーショットや模型、当時の映像など見所は多くあるが、所々の壁に書かれた吉阪の言葉が胸に刺さった。

 「大地は万人のものだ。私は一人占めする権利はない。」

 あぁ、そのために人工土地をつくったのか、と納得。

 建築界で人工台地が用いられる際には、「建築を空中に持ち上げて地上を公共に開放する」などと説明されることが多いが、そんな釈明よりも彼の単純な言葉の方がスッと入ってくる。まるで、吉阪本人と会話しながら展示を回っているかのようだった。

建築家・吉阪隆正

 その先は代表作である《浦邸》(1956年)や《ヴェネチア・ビエンナーレ日本館》(1956年)、《大学セミナー・ハウス》(1965年)などの展示が始まるのだが、ぜひこの部分は自分の目で確かめてほしい。それぞれの建築にあった模型表現(構造模型や粘土模型、コンクリート模型)は見応えがある。

《大学セミナー・ハウス》の建築群。右奥が本館(1965年)(写真:大塚光太郎)
《江津市庁舎》(1962年)
《浦邸》(1956年)

 建築界の中の吉阪という意味で考えると、同世代である丹下健三との比較することができそうだ。コンクリートを使って直方体ではない独自の形を目指した点は共通するが、その結果が異なる。丹下はその形態を曲面に見いだし、構造合理性と美しさを追求したが、吉阪は直線的な表現で大地からの開放を試みた。そう考えると、一見奇抜なデザインに見える《大学セミナー・ハウス》も、少ない接地面積で大きな空間を獲得できるという、吉阪の設計思想を表現した建築だったのである。

いざ、地球へ

 後半では、あまり知られていない山岳建築の軸組み模型や、吉阪が山岳風景を描いたパノラマ絵が展示され、徐々に大地の意味合いが地球規模へ変化していく。

《黒沢池ヒュッテ 構造模型 Scale1:3》

 最後のコーナーで、地球を模したサイコロ地図が出てくる事で見事に「ひげから地球へ」の展示が終了する。

(写真:大塚光太郎)

 このコーナーでは吉阪の地域研究家としての一面に注目しているのだが、個人的にはここが一番驚かされた。吉阪といえば、U研究室という設計アトリエを思い浮かべるが、大学の研究室としては都市計画を専門としていたのだ。

 

 山手線の内側を全て森で埋め尽くした「東京再建計画」は、海上に立体都市を構想した丹下健三の東京計画とは違う方法で都市の集密化の解決を目指していたという。

(写真:大塚光太郎)

 1周すると、入ってすぐに書いてあった吉阪の教訓を少しだけ理解できた気がした。360°パノラマのように、出口と入り口がつながってグルグル回れたら良いのにな、と思わせてくれる展覧会だ。

 ところで、「ひげから地球へ、パノラみる」という本展のサブタイトルは、「ミクロからマクロへ 俯瞰する」を吉阪流の言葉に置き換えたものなのだそう。1975年に吉阪が開催した展覧会”パノラみる展”では「ひげから国土へ」というメッセージを添えて招待したことが元ネタとなって、本展につながった。タイトルひとつとっても吉阪の人柄を垣間見ることができるとは、恐れ入った。(大塚光太郎)

■展覧会概要
吉阪隆正展 ひげから地球へ、パノラみる
会期:3月19日(土)~6月19日(日)10:00~18:00(展示室入場は閉館の30分前まで)
会場:東京都現代美術館 企画展示室 1F
入場料:一般1400円 大学生・専門学校生・65歳以上 1000円 中高生500円 小学生以下無料 
協力:公益財団法人大学セミナーハウス、公益社団法人日本雪氷学会、ル・コルビュジエ財団、早稲田大学建築学教室本庄アーカイブズ
主催:公益財団法人東京都歴史文化財団 東京都現代美術館
特別協力:文化庁 国立近現代建築資料館

企画協力:アルキテクト、北田写真事務所
後援:稲門建築会、一般社団法人DOCOMOMO Japan、一般社団法人日本建築学会、公益社団法人日本建築家協会
詳細はこちら→
https://www.mot-art-museum.jp/exhibitions/takamasa-yosizaka/

宮沢が描いた会場マップは、入り口を入ってすぐのところにある。作画コンセプトは「『パノラみる』展の会場をパノラみる」(写真:宮沢洋)