東京・両国の江戸東京博物館1階特別展示室でリニューアル記念特別展「洋館 明治の夢と挑戦」が6月23日から始まった。本展は、江戸東京博物館(以下、江戸博)が誇る2人の“名建築史家”、藤森照信館長と米山勇研究員がタッグを組んだ、気合の入った展覧会である。会期は8月23日までの2カ月間。

「洋館」というタイトルを見て、洋風の邸宅が展示の中心なのかと思っていたのだが、がっつり“明治の近代建築総まくり”の内容だった。もちろん、一般の人が見ても楽しめると思うが、建築系の人が見た方がより深く楽しめるだろう。

まずは、公式サイトから開催趣旨をコピぺする(太字部)。
日本建築史のはじまりともいえる法隆寺の建立から1,000年あまりの時が流れ、到来した明治という時代。江戸から明治への転換は、長きにわたり閉ざされていた西洋文化の入口が開き、洋風建築の流入が一気にはじまることを意味しました。本展では、人びとが建築に夢を抱いた「明治の洋館」の世界を、多種多様な資料と立体的な展示手法で描きます。
大工棟梁による擬洋風(ぎようふう)建築、外国人技術者による非本格的洋館や外国人建築家たちの手がけた本格的西洋建築、工部大学校卒業生等の挑戦、そして皇族や上流階級のための大邸宅にいたるまで、日本の建築史上稀にみるこの大変革の時代の多彩な成果を活写します。


プロローグ 前夜―幕末の東京・横浜風景―
第1章 ナマコ壁と擬洋風(ぎようふう)建築
第2章 建築家がやってきた―外国人建築家と「都市風景」
第3章 開花する洋館の明治―日本人建築家の挑戦
第4章 羨望の住処(すみか)―明治の洋風邸宅



米山氏によると、本展の準備には4年かかっているという。江戸博がリニューアル休館に入ったのが4年前なので、そのときから準備が始まっていたのだ。
一番の目玉は、本展のポスターにもなっているこれだろう。

エンデ&ベックマン「国会議事堂案 外観透視図」、1887-88年(明治20-21)頃、ベルリン工科大学建築博物館(ドイツ)蔵
日本初公開の資料である。こんな力の入った絵がベルリンに残っていたのか。本気で実現したかったんだなあ…。
先ほど「建築系の人が見た方がより深く楽しめる」と書いたのは、ジョサイア・コンドル(鹿鳴館などを設計した人)ならまだしも、エンデ&ベックマンが何をやった人なのか、一般の人にはピンとこないのではないかと思うからである。
はい、ピンときませんという人のためにざっくり説明すると、こういう話だ。
エンデ&ベックマンはヘルマン・エンデ(1829年~1907年)とヴィルヘルム・ベックマン(1832年~1902年)の建築ユニット。エンデはベルリン・バウアカデミーで建築を学び、1860年に、同校後輩のヘルマン・エンデとともにベルリンで設計事務所を開設した。2人は1880年代にはドイツ建築界の中心的な存在となる。
一方、日本では外務大臣の井上馨が1880年代に、不平等条約の改正を進めるため鹿鳴館外交と呼ばれる欧化政策を採り、壮大な首都建設を構想した。当初はこの首都構想もコンドルに声がかかるが、井上の好みに合わず、ドイツで人気だった2人に打診。国会議事堂をはじめ、壮大なバロック都市を構想した。これは「官庁集中計画」と呼ばれる。しかし井上馨が条約改正に失敗して失脚したことにより、ほとんどが頓挫。実現した3件のうちの1つが司法省庁舎(1895年)、現在の法務省旧本館だ。
つまり、井上馨が条約改正を成し遂げていたら、東京はエンデ&ベックマンの国会議事堂を中心とするバロック都市になっていたかもしれないのである。

そんなエピソードをいろいろ書きたくなる資料がばんばん展示されている。
展示物と短い解説文を見るだけでは、その意味が読み取れない人も多いと思う。そんな人に朗報。本展の公式ブックが素晴らしい。藤森氏と米山氏の共著となる『洋館 明治の夢と挑戦』だ。


書名は展覧会名と同じだが、単なる「図録」ではない。会場の説明文をまとめたというレベルではなく、ほとんどがオリジナルの文章。濃厚な歴史読み物だ。とても読みやすく、図版も多い。帯には「これ1冊で『洋館史』が丸わかり!」とあるが、正確には「これ1冊で『明治~大正の近代建築史』が丸わかり!」だ。
そのくらい素晴らしい本なので、東京には行けないという人も、これだけは入手しておくことをお薦めする。筆者も知らなかったことがワンサカあって、大変勉強になった。
なお、本サイトですでに報じた「江戸東京ひろば」の大天井映像(重松象平監修)↓は、現状では土曜の夜(18:40~20:00)のみ実施しているそうである。映像を見たい人は、念のため公式サイトで確認してからお出掛けを。(宮沢洋)
■展覧会概要
江戸東京博物館リニューアル記念特別展「洋館 明治の夢と挑戦」
会期:2026年6月23日(火)~2026年8月23日(日)
会場:1階特別展示室
開館時間:9:30-17:30 土曜日は19:30、8月7日(金)・14日(金)・21日(金)は21:00閉館(入館は閉館の30分前まで)
休館日:毎週月曜日(ただし7月20日、8月10日は開館)、7月21日(火)
主催:東京都江戸東京博物館(公益財団法人東京都歴史文化財団)
後援:一般社団法人 日本建築学会、公益社団法人 日本建築家協会、公益社団法人 日本建築士会連合会
観覧料(税込):一般1,600円(1,280円)、65歳以上800円(640円) 、大学生・専門学校生1,280円(1,020円) 、高校生以下無料※( )内は20名以上の団体料金
公式サイト:https://www.edo-tokyo-museum.or.jp/s-exhibition/western-style-architecture/

