日曜コラム洋々亭10:初の「バーチャル建築巡礼」に見る「オンライン建築ツアー」の夜明け

Pocket

 7月11日(土)の午前11時半から午後1時過ぎまで、「バーチャル建築巡礼」の初回となる「南紀白浜巡り」がZoom上で開催された。ナビゲーターは我がOffice Bungaのパートナーである磯達雄と、建築史家で大阪市立大学准教授の倉方俊輔氏。本来は参加費2800円だが、元祖・建築巡礼の片割れとしてご招待いただき、無料で視聴させていただいた。タイトルは「日曜コラム」だが、せっかく書いたので、お礼も込めて1日早く公開する。

ツアー中のキャプチャー。中央の写真はホテル川久の外観。右上は倉方俊輔氏

 主催者は、建築ツアーなどを実施している一般社団法人「東京建築アクセスポイント」(以下AP)。APのウェブサイトから、今回のイベントの趣旨を引用する。

 「普段はクールな磯さんも興奮しまくり」。『ポストモダン建築巡礼』(日経BP社)にそう書かれている建築、見にいきたくなりませんか?

 「ホテル川久」はバブル絶頂期の1991年、総工費400億円を投じて完成したホテルです。手仕事の仕上げに、アーティストとの協働、贅の限りが尽くされています。現在も好評を博している宿泊施設が、この7月1日、「川久ミュージアム」として、どなたでも来場できるようになりました。

 引用の途中だが、「普段はクールな磯さんも興奮しまくり」と私が描いたイラストはこれだ。

「ポストモダン建築巡礼 1975-95 第2版 」より(イラスト:宮沢洋)

 再び引用に戻る。

 立地は和歌山県の南紀白浜。関西の方々にとっては、お馴染みのリゾート地です。今回は、東京の磯達雄と、大阪の倉方俊輔をオンラインでつないで、「ホテル川久」の魅力を、手持ちの写真や動画などを使いながら、語り尽くします。話はおのずと、設計者である永田祐三の他の作品、あるいはビザンツや中東、ポストモダンの可能性への連想に向かうでしょう。そんなふうに関連する建物について学べるのも、バーチャルツアーならではかもしれません。(中略)

ツアー中のキャプチャー。中央の写真はホテル川久のエントランスホール。右上は磯達雄

 「バーチャル建築巡礼」は、日本各地に存在する地域資源としての建築を、活性化したいと思います。ともに建築を愛する(でも最近は会っていない)東西のふたりの掛け合いで、建築と立地の地域性も浮かび上がるはず。筋書きのないツアーに、ようこそ。

 Zoomを使用したオンライン講座です。開講日の1~2日前に受講者の皆様に講座視聴URLとパスワード、および受講のご案内をメールでお知らせいたします。受講いただいた方は、当日の視聴の有無に関わらず、その回の動画を講座終了の1週間後まで繰り返し視聴いただけます。(東京建築アクセスポイントのウェブサイトからの引用)

苦肉の策から「建築の王道」へ!

 で、実際に見てどうだったかというと、かなり面白かった。そもそも倉方俊輔氏は、私が建築界一の語り部と評価しているトーク上手。磯達雄は、身内ながら建築史家も舌をまくほどの博学で、クールなキャラもいい。この2人が組んで面白くないわけはないのだが、それにオンラインならではの良さが加わった。

 まず手軽さ。コロナ以降、Zoom会議は慣れてきているので、直前にURLをぽちっとクリックするだけ。実はこの日、仕事がかなり押していたので、PCのモニターの左半分で仕事をしながら、右半分で見ていた。コーヒーを飲みながら。なんて気楽!

実際はモニターの半分で見てました。すみません…

 そして、リアルな講演会で話を聞くよりもずっと講演者に近い感じがする。参加者がリアルタイムにチャットに書き込んだテキストを見るのも、副音声的で楽しい。この近さとチャット機能はリアル講演会にはない魅力だ。背景に音楽を流したらどうかとか、チャットを書き込む「副音声役」を1人立てたらどうかとか、いろいろ思うことはあったが、オンライン建築ツアーの可能性を大いに感じた。

 この企画は、リアル建築ツアーやリアル講演会ができなくなったAPにとっては苦肉の策だと思うが、これは一時しのぎではなく、“建築を楽しむ1つの領域”として確立すると感じた。リアルツアーが実施されるようになったとしても、これはこれで面白い。APではほかにもオンライン建築ツアーやオンライン講座を企画しているので、急速にオンラインでの楽しみ方を洗練させていくことだろう。代表の和田菜穂子 さん(建築史家)、期待してます! APのウェブサイトはこちら

 今年は、毎秋に開催されるイケフェス大阪もオンラインでの実施になるという。倉方氏はそちらのメンバーでもあるので、そちらへの期待も大いに高まるバーチャル建築巡礼・初陣であった。

「ポストモダン建築巡礼 1975-95 第2版 」より(イラスト:宮沢洋)

 ちなみに、トークの中で倉方氏が触れていたホテル川久の露天風呂(「写真は勝手に撮れないが、イラストはうらやましい」と言っていた)はこんな感じでした。休日にお見苦しい背中でご容赦ください!(宮沢洋)

書籍「ポストモダン建築巡礼 1975-95 第2版」