日曜コラム洋々亭33:「美の巨人・葛西臨海水族園」は見応え大、20年で建築ネタがこんなに増えた!

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 昨晩(2021年8月14日)22時からテレビ東京で放送された「新・美の巨人たち」をご覧になっただろうか。取り上げられたのは建て替え・活用議論の渦中にある「東京都葛西臨海水族園」(設計:谷口吉生、1989年)だ。

これは番組からではなく宮沢の撮影(以下も)

 議論についてご存じない方はこちらの記事をご覧いただきたい。(日曜コラム洋々亭25:現代建築に「保存」という言葉はふさわしいか──葛西臨海水族園問題に思う

 番組は建て替えの危機について煽るものではない。ニュートラルにその価値を報ずるものであった。それがかえって、この建築を取り壊そうという発想の愚かさを厳しく批評しているように思えた。現在の谷口氏の貴重なインタビューを収録したことも含めて、とても見応えのある番組だった。(個人的には、建築好きで知られる女優・内田有紀さんのナレーションだったこともうれしい)

対岸のディズニーランドが発想のきっかけになった(アンチの意味で)と谷口氏がインタビューで語っていたのが印象的だった

 同番組の公式ツイートによると、放送後、「葛西臨海水族園」がトレンド入りしたらしい。

 見逃した方は、来週8月21日(土) 夜11時30分からBSテレ東で再放送されるとのこと。

ミヤザワのずんずん調査

 ところでこの番組、私も毎回見ているわけではないのだが、最近、建築ネタが多いような気がする。

 そもそも番組を知らないという人のために説明しておくと、もともとはセイコーエプソンが提供する「美の巨人たち」というタイトルで、2000年4月に始まった番組だ。その後、スポンサーが変わり(現在はキリンとヘーベルハウス)、ナレーターも俳優の小林薫が1人で語るスタイルから、毎回1人の「Art Traveler」が案内するスタイルへと変わり、今に至る。放送開始から20年以上、総放送回数は1000回を超える。

 「建築ネタが多い」という話に戻ると、つい先日、「東京カテドラル聖マリア大聖堂」(丹下健三)をやっていた。数カ月前には「国立京都国際会館」(大谷幸夫)をやっていた。昔よりも建築頻度が増えてるんじゃないか?と思って、ネットを調べてみると、何とウィキペディアに、20年間の全タイトルが載っていた。すごい。

 これを見るだけで、まるで「ホリイのずんずん調査」(週刊文春の伝説的連載)のような記事が書けてしまう。元のリストをつくった方に感謝しつつ、5年おきに建築ネタの頻度を調べてみた。 

 以下、太字で★2つが近現代建築(主に明治維新以降)、★1つが古建築である。

■「美の巨人」2000年上半期(放送開始した4月~6月)
1 パブロ・ピカソ「ゲルニカ」 ソフィア王妃芸術センター
2 ポール・セザンヌ「画家の父」 ワシントン・ナショナル・ギャラリー
3 ポール・ゴーギャン「マナオ・トゥパパウ(死霊が見ている)」 オルブライト=ノックス美術館 4月22日
4 サルバドール・ダリ「記憶の固執」 ニューヨーク近代美術館
5 フィンセント・ファン・ゴッホ「星月夜」 ニューヨーク近代美術館
6 レンブラント・ファン・レイン「夜警」 アムステルダム国立美術館
7 アンリ・ド・トゥールーズ=ロートレック「ムーラン・ルージュ(ムーラン・ルージュのラ・グリュ)」 トゥールーズ=ロートレック美術館
8 ヨハネス・フェルメール「牛乳を注ぐ女」 アムステルダム国立美術館
9 ディエゴ・ベラスケス「ラス・メニーナス」 プラド美術館
10 クロード・モネ「日傘をさす女」 オルセー美術館
フランシスコ・デ・ゴヤ「裸のマハ」 プラド美術館
12 アンリ・ルソー「蛇使いの女」 オルセー美術館

■2005年上半期
243 トマス・ゲインズバラ「アンドリューズ夫妻」 ナショナル・ギャラリー
244 岩佐又兵衛「山中常盤物語絵巻」 MOA美術館
エミール・ガレ「手」 オルセー美術館
246 佐藤哲三「みぞれ」 個人蔵
247 ジョセフ・ライト「空気ポンプの実験」 ナショナル・ギャラリー
248 長澤蘆雪「虎図」 串本応挙芦雪館
249 ジョルジュ・ド・ラ・トゥール「常夜灯のあるマグダラのマリア」 ルーヴル美術館
250 長谷川潾次郎「猫」 宮城県美術館
251 香月泰男「青の太陽」 山口県立美術館
252 浅井忠「収穫」 東京芸術大学大学美術館
253 ギュスターヴ・エッフェル「エッフェル塔」★★
254 アンリ・ド・トゥールーズ=ロートレック「ムーラン街のサロン」 トゥールーズ=ロートレック美術館
255 いわさきちひろ「緑の中の少女」 ちひろ美術館・東京
256 アンリ・マティス「ロザリオ礼拝堂」
257 英一蝶「布晒舞図」 遠山記念館
258 谷中安規「街の本」 須坂版画美術館
259 ジェームズ・アンソール「首つり死体を奪い合う骸骨たち」 アントワープ王立美術館
260 三岸好太郎「飛ぶ蝶」 北海道立三岸好太郎美術館
261 三岸節子「自画像」「さくらがさいた」 三岸節子記念美術館
262 ジャン・ロレンツォ・ベルニーニ「聖テレジアの法悦」 サンタ・マリア・デッラ・ヴィットーリア教会
263 土田麦僊「大原女」 京都国立近代美術館
264 フランス・ハルス「養老院の女性理事たち」 フランス・ハルス美術館
265 ル・コルビュジエ「小さな家」★★
266 小出楢重「Nの家族」 大原美術館
267 アメデオ・モディリアーニ「自画像」 サンパウロ大学現代美術館

■2010年上半期
499 柴田是真「花瓶梅図漆絵」 板橋区立美術館
500 カラヴァッジョ「聖マタイの召命」 サン・ルイジ・デイ・フランチェージ教会
501 上村松篁「丹頂」 松伯美術館
502 熊谷守一「雨滴」 愛知県美術館
503 アルフォンス・ミュシャ「ジスモンダ」
504 呉春「白梅図屏風」 逸翁美術館
505 ピエール=オーギュスト・ルノワール「雨傘」 ナショナル・ギャラリー
506 吉川広嘉、児玉九郎右衛門「錦帯橋」
507 エドヴァルド・ムンク「叫び」 オスロ国立美術館
508 長谷川等伯「松林図屏風」 東京国立博物館
509 ヴィルヘルム・ハンマースホイ「陽光習作」 デーヴィス・コレクション
510 シェーンブルン宮殿 ヴェルサイユ宮殿★
511 ヴェルサイユ宮殿 エルミタージュ宮殿

512 平山郁夫「仏教伝来」 佐久市立近代美術館
513 フォンテーヌブロー派「ガブリエル・デストレとその妹」 ルーヴル美術館
514 葛飾北斎「月見る虎図」 葛飾北斎美術館
515 ラファエロ・サンティ「小椅子の聖母」 パラティーナ美術館
516 尾形光琳「燕子花図屏風」 根津美術館
517 フランク・ブラングィン「造船」 国立西洋美術館
518 岡田三郎助「あやめの衣」 ポーラ美術館
519 アンリ・ルソー「ジュニエ爺さんの馬車」 オランジュリー美術館
520 重森三玲「東福寺方丈八相の庭」 東福寺
521 ドメネク・イ・モンタネール「カタルーニャ音楽堂」★★
522 フランシスコ・デ・ゴヤ「カルロス4世の家族」 プラド美術館
523 歌川広重「東海道五拾三次」(前編) 山種美術館

■2015年上半期
751 歌川広重「東海道五拾三次之内 日本橋 朝之景」 町田市立国際版画美術館
752 ジャック=ルイ・ダヴィッド「ベルナール峠からアルプスを越えるボナパルト」 ヴェルサイユ宮殿
753 森田藻己「竹の中の大工」 清水三年坂美術館
754 ポール・ゴーギャン「説教のあとの幻影」 スコットランド国立美術館
755 クロード・モネ「カササギ」 オルセー美術館
756 酒井抱一「風神雷神図屏風」 出光美術館
757 世界の駅シリーズ ルイ・デラサンセリ「アントワープ中央駅」 ★★
758 世界の駅シリーズ 辰野金吾「東京駅」 ★★
759 世界の駅シリーズ アーサー・B・ヒューバック「クアラルンプール駅」
★★
760 世界の駅シリーズ 明石虎雄「日光駅」★★
761 ドミニク・アングル「泉」 オルセー美術館
762 伊藤若冲「乗興舟」 千葉市美術館
763 ラファエロ・サンティ「一角獣を抱く貴婦人」 ボルゲーゼ美術館
764 横山大観「或る日の太平洋」 富山県水墨美術館
765 フィリッポ・ブルネレスキ「サンタ・マリア・デル・フィオーレ大聖堂」
766 葛飾北斎「美人愛猫図」 ウェストン・コレクション
767 エドガー・ドガ「青い踊り子たち」 オルセー美術館
768 鈴木長吉「水晶置物」 ボストン美術館
769 ヨハネス・フェルメール「天文学者」 ルーヴル美術館
770 棟方志功「飛神の柵」 棟方志功記念館
771 俵屋宗達「舞楽図屏風」 醍醐寺
772 フィンセント・ファン・ゴッホ「星月夜」 ニューヨーク近代美術館
773 山下清「長崎風景」 十八銀行
774 亀山法皇「南禅寺」

■「新・美の巨人」2020年上半期
38 横浜「ホテルニューグランド」★★
39 三橋節子 「花折峠」 三橋節子美術館
40 銀山温泉 ★★
41 荒川修作+マドリン・ギンズ「三鷹天命反転住宅」 ★★
42 榮久庵憲司「キッコーマン『醤油卓上びん』」
43 熊谷守一「白猫」 長谷川燐二郎「猫」 豊島区立熊谷守一美術館、宮城県美術館
44 太宰府天満宮
45 山口蓬春「山湖」 松岡美術館
46 藤牧義夫「隅田川絵巻」 館林市第一資料館
47 吉澤章「蝉」 吉澤章
48 奈良「法隆寺」
49 芹沢銈介 「御滝図のれん」 静岡市立芹沢銈介美術館
50 老舗旅館「柊家」
51 妙心寺「退蔵院の庭」
52 二条城(前編)★
53 二条城(後編)★
54 豪華旅館「長楽館」★

55 いわさきちひろ 「あめのひのおるすばん」 安曇野ちひろ美術館
56 ミケランジェロ・ブオナローティ 「ピエタ」、ウジェーヌ・ドラクロワ 「民衆を導く自由の女神」、クロード・モネ 「睡蓮」連作 サン・ピエトロ大聖堂、ルーヴル美術館、オランジュリー美術館
57 日本の建築美を堪能!-立石清重「旧開智学校校舎」、伊東忠太「築地本願寺」、内藤多仲「東京タワー」★★
58 小倉遊亀「浴女 その一」「浴女 その二」、片岡球子「山 富士山」
三岸節子「さいたさいたさくらがさいた」「自画像」 東京国立近代美術館、北海道立近代美術館、一宮市三岸節子記念美術館
59 平清盛「嚴島神社」、池田輝政「姫路城」、足利義政「銀閣寺」★
60 ノートルダム大聖堂

61 伊藤若冲「果蔬涅槃図」/「五百羅漢像」、長沢芦雪「白象黒牛図屏風」 浄土宗西山深草派総本山誓願寺、黄檗宗百丈山石峰寺、ロサンゼルス・カウンティ美術館
62 あっと驚く世界の名建築編-ルートヴィヒ2世「ノイシュヴァンシュタイン城」、チャールズ・ムーア「シーランチ」★★

■2021年
89 リチャード・ヘンリー・ブラントン「犬吠埼灯台」★★
90 岡部憲明「小田急ロマンスカー・GSE(70000形)」
91 藤原頼通「平等院鳳凰堂」
92 石岡瑛子 世界に挑み続けた戦いの記録
93 川元良一「奥野ビル」★★
94 ルネ・マグリット「王様の美術館」
95 大江新太郎「神田明神」★★
96 伊藤若冲「月に叭々鳥図」
97 ウィリアム・メレル・ヴォーリズ「山の上ホテル」★★
98 竹久夢二「港屋絵草紙店」 竹久夢二美術館
99 安野光雅「旅の絵本」 安野光雅美術館
100 重要文化財「勝鬨橋」
101 特別史跡・特別名勝「小石川後楽園」
102 朝倉文夫「台東区立朝倉彫塑館」 ★★
103 重要文化財「早稲田大学大隈記念講堂」 ★★
104 世界遺産「龍安寺方丈・南庭」
105 「炭屋旅館」★★
106 祇園「八坂神社」

107 大谷幸夫「国立京都国際会館」★★
108 葛飾北斎「怒濤図」
109 和田誠「週刊文春表紙」 多摩美術大学アートアーカイヴセンター
110 横浜ベイブリッジ〜大野美代子の橋梁デザイン~
111 永井博「A LONG VACATION」
112 「旧柳宗悦邸」★★
113 手塚治虫「ジャングル大帝」 トキワ荘マンガミュージアム
114 辰野金吾「日本銀行本店本館」 ★★
115 丹下健三「東京カテドラル聖マリア大聖堂」
★★
116 キース・ヘリング「踊る二人のフィギュア」 中村キース・ヘリング美術館
117 上野公園 寛永寺
118 桂ゆき「抵抗」 東京都現代美術館
119 谷口吉生「葛西臨海水族園」★★

 どうだろうか。これは統計的に「建築ネタが増えている」と言ってよいのではないか。

 昨年以降の増加は、コロナ禍で「旅に出たいニーズが高まっている」という要因が大きいだろう。ただ、その前から徐々に増えており、これはベースとして「建築への関心が高まっている」と考えてよいのではないか。いつか機会があれば、番組制作者に話を聞いてみたいものである。

 別に番組の回し者でも何でもないのだが、次回(8月21日)のテーマは「中銀カプセルタワー」(黒川紀章)。予告編を見たら、これも見ずにはいられない感じだった(公式サイトはこちら)。テレ東、頑張ってる! (宮沢洋)