日曜コラム洋々亭41:東京海上ビルの存続アイデア展示会@MIDビルを見て、2つの「反省」

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 「東京海上ビルディングを愛し、その存続を願う会」(発起人代表:奥村珪一)が実施した「東京海上ビルディング『存続のアイデア』募集」の応募作が、四谷のMIDビル(前川建築設計事務所の自社ビル)で展示されるというので、9月19日(祝)に見に行った。

(写真:宮沢洋)

 募集の課題は、「東京海上ビルをどのように次世代につなげていくべきか、改修のあり方をスケッチや文章で描いてください。『建築のいのち』をテーマにあなたのアイデアを教えてください」。

 2022年7月25日~8月28日の募集期間に17の応募があり、それらがMIDビルの2階で8月30日、8月31日、9月19日に展示された。

 会の発起人の1人でもある前川建築設計事務所代表の橋本功所長はこう語る。「最初は、再生案の設計コンペをやろうという話だったが、私はそれには反対した。『存続を願う』という立場では、提案に優劣はつけられない。やるならば、専門家に限らず誰でも提案できるようなものにし、それらをすべて展示するのが望ましい。それならば協力しますと話した」。

 同感。建て替え議論の渦中ならばともかく、すでに建て替え後の案(設計はレンゾ・ピアノと三菱地所設計)が公表されているこの段階において、再生手法の優劣をギリギリと競ってもそこに投じられるエネルギーがもったいない。私(宮沢)は応募作への興味が3、MIDビルへの興味が7くらいの心持ちで見に行った。MIDビルは昨年、「DOCOMOMO(モダン・ムーブメントにかかわる建物と環境形成の記録調査および保存のための国際組織) JAPAN」の250選に選ばれているのだ。

 応募作に関しては、正直に言うと、昨年9月に建築家の豊田啓介氏(NOIZ)が提案した再生案(新館を壊して本館に増築)と、私が当サイトで昨年10月に示した再生案(本館と新館を両方生かして増築↓)以外に、大きな方向性としては選択肢がないと考えていたのである。

コラム洋々亭36:NOIZによる東京海上リノベ提案に刺激を受け、勝手にリノベ対決(追記:建て替えはレンゾ・ピアノ)

 MIDビルで展示されていた提案は、ほとんどが想像の範囲内だったが(偉そうですみません!)、1つだけ想像外のものがあった。「提案に優劣をつけるべきではない」という橋本所長の意向に反するかもしれないが、今後の発想のヒントとして紹介したい。

丸ごと保存が前提となりがちな中で、学生の勇気ある提案

 宇都宮大学建築環境研究室の4人(安田友奈、木下萌々子、佐藤慧士、堀米大地)による『朱い記憶』という提案だ。

 この案、かわいらしいプレゼンテーションにだまされそうになるが、提案内容は攻めている。本館の高さを削って減築し、新館の高さを高くして容積を増やすことを提案しているのだ。

 本館を減築する理由としては「建物自体が軽量化され、耐震化されることで災害に強くなる」ということに加え、「東京駅から皇居方面を臨む景色に左右対称となる高さになるように高さを抑える」としている。

 なるほど。確かに、東京駅側から見たときに、本館は低い方が視線の抜けがいい。私には思い至らなかった。

 解体した部分の外装タイルは、格子状に組んで本館・新館をつなぐアトリウムの壁にすることも提案している。重要なのは、ビルそのものではなく、「朱い色」の記憶なのだ、と。高さを抑えて赤い面を横に伸ばせばいい、と。見る前に「他に選択肢はない」なんて考えていたことを深く反省…。

 丸ごと残すことがなんとなく共通認識となるこういう議論の中で、あえて小さくするという提案は建築界として当然あるべき。でも、それを提案するのには少なからず勇気がいる。これから建築を志す若い人の中にこういう感性の人たちがいることを知ってちょっとうれしくなった。

MIDビル、見くびってました…

 そして、もう1つうれしかったのは、今回の展示会によって、MIDビルの2階を見ることができたこと。この建物には打ち合わせで何度も行ったことがあったが、打ち合わせはいつも1階だった。階段を上ったのは初めてだ。

いつも打ち合わせしていたのは左奥の部屋。今回、初めて右の階段を上った
展示会に使われたのは2階のフリースペース

 橋本氏のご厚意で、2階奥にある前川國男の部屋も見せてもらった。なんて気持ちの良い空間。本当に四谷なのか?

3階は設計室

 このビル、正直そんなにいいものだとは思っていなかった。反省…。

DOCOMOMOの認定プレート

 これを機に、毎年秋に事務所公開をお願いしたい。若い人たちの刺激になりますよ、橋本所長!(宮沢洋)