当サイトで何度か伝えてきた羽島市旧庁舎(設計:坂倉準三、1959年竣工)が解体となることが12月9日に正式発表された。今年8月22日~9月30日まで、民間事業者から利活用の提案を募集していたが、解体するとの結論を市のサイトに掲載した。
羽島市旧本庁舎の方針決定について
(羽島市のサイトに2022年12月9日に掲載)
民間からの提案がなかったわけではない。2者あった。それも市のサイトで見ることができる。
羽島市旧本庁舎利活用方法の提案募集結果について
A団体提案書「子育て支援と中心市街地活性化の施設」へのコンバージョン
B団体提案書「坂倉準三記念 はしま建築専門ミュージアム」
実はB団体の「坂倉準三記念 はしま建築専門ミュージアム」の提案者は、私の知人の建築家だ。市のサイトにビジュアルも掲載されているので転載する。
2つの提案を、市は下記のように評している(太字部)。
令和4年9月30日までの提案募集の結果、2団体から提案書を受け付け、提案内容としては、一つが「子育て支援施設」(A団体)、もう一つが「坂倉準三記念 はしま建築ミュージアム」(B団体)としての利活用を目指すという趣旨のものでした。
2つの提案を受け、市としては、その内容を項目毎に精査いたしました。1点目は、事業主体についてです。今回の提案募集の目的は、市としての利用目的が見いだせない中、民間事業者等を事業主体とすることを大前提として、具体的な事業主体のもと提案をいただくというものでした。事業主体に関しては、2つの提案において、行政主導若しくは今後募集、選定することを前提としており、現段階において、耐震改修や施設運営を担う事業主体となり得る明確な民間事業者等による提案とは認められませんでした。
2点目は、安全性確保の方法についてです。旧本庁舎の保存・利活用にあたって、今後20年以上の長期間にわたっての事業継続が求められる中、安全性確保の方法については、それぞれの団体から耐震改修に係る工法についての提案はありましたが、地盤改良や長寿命化対応については今後の検討事項とするなど、全体の事業費を含め、施設の安全性の確保については、不明な点がありました。
3点目は、事業費の確保についてです。耐震改修工事や施設運営を確実に実施するため、工事費用及び施設運営経費がいくらかかるのか、また、民間事業者等の負担を前提とする中で資金をどのように調達するのかを提案募集したところです。
事業費確保についての提案としては、行政からの補助金の活用、PPP・PFI事業公募により選出された運営業者からの拠出、クラウドファンドや賛同企業等からの出資、旧本庁舎敷地の一部を利用した事業用オフィスからの収益等を事業費に充てる等の提案内容でした。いずれの手法においてもその提案について不確定な要素が多く、資金調達の確実性や継続性において不明な点がありました。以上が2団体から提案された内容についての検証後、再度、市から確認事項の問い合わせを行った回答に基づく検証結果であります。
提案内容においては、現段階において明確な民間事業主体等が存在せず、また、確実な事業実施、資金調達が見通せないことから、民間事業者等を事業主体とする旧本庁舎の保存・利活用の実現は困難であるとの結論となりました。
そして、こう結論づけた。
旧本庁舎の保存・利活用に向けては困難であるとの結論となり、旧本庁舎の取扱いについては、「解体すること」を市の方針といたします。
なお、解体に向けて今後事業を進めるにあたり、旧本庁舎の記録・記憶を後世に伝えられるよう、デジタル技術による映像化や資料収集に努めるなど、最大限の措置を講じてまいります。
坂倉設計の旧庁舎を残すことになった三重県伊賀市
今回の民間提案募集までの経緯や、それに対する私(宮沢)の考えは下記の記事に書いてきた。
風前の灯の坂倉準三「羽島市庁舎」、民間提案募集が「あるかも」と聞き、勝手に提案
(2022年6月14日)
【大手メディアの方へ】羽島市が坂倉準三による旧市庁舎の民活提案を募集中、「20年以上の活用」と「耐震補強」が条件
(2022年8月3日)
藁をもつかむ思いで提案書をつくられた2団体の方には敬意を表したい。ただ、資金の出どころを含む具体的な事業スキームを求めていた市の姿勢から考えれば、2つの提案を見ての今回の結論は、まあそうだろうなとは思う。ここに至って私が過去に書いたことと同じことを書いても覆るわけがないので、興味のある人は上の記事を読んでいただきたい。
せめて今後のヒントになりそうなことを書き残すために、同じ坂倉準三の設計による旧庁舎を活用することになった三重県伊賀市との差について考えてみたいと思う。羽島市庁舎の5年後の1964年に竣工した建築だ。ちょっと記事が長くなりすぎるので、具体的な考察は後編(来週)に送る。(宮沢洋)