最優秀は「ニコン本社」、三菱地所設計社内表彰イベントを見ての苦言と拍手─日曜コラム洋々亭69

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 三菱地所設計の「社内賞2024」の発表会が3月11日に行われた。2001年に三菱地所から分社化して以降では24回目の社内表彰となる。今年はメディアの取材可ということなので行ってきた。「今年は」と書いたのは、ここ何年かコロナ禍で非公開だったからだ。

発表会での上位入賞者のプレゼンの様子(写真:特記以外は宮沢洋)

 賞の概要と結果については、プレスリリースのコピペで楽をさせていただく(太字部)。見出しにある「苦言と拍手」は記事の後半で…。

三菱地所設計 社内賞2024 受賞作品を発表! 

現代社会のニーズに応える幅広い業務を多様な観点で表彰

 株式会社三菱地所設計(所在地:東京都千代田区、代表取締役社長:谷澤淳一)は「社内賞2024」の受賞作品を決定しました。本賞は、企画力・デザイン力・技術力の一層の向上と、当社ブランドに寄与する優れたプロジェクトの表彰制度として、2001年の会社設立以来24回目の実施となります

 「社内賞2024」では、社内審査員に加え、外部審査員に塚本由晴氏(アトリエ・ワン、東京科学大学教授)、 倉渕隆氏(東京理科大学教授、同副学長)を迎え、作品賞8件(うち最優秀作品賞1件、優秀作品賞・社長賞1件、優秀作品賞2件、特別賞1件)、環境・技術賞3件(うち最優秀環境・技術賞1件、特別賞1件)をはじめ、当社ならではの幅広い業務を8部門にて表彰しました。

<最優秀作品賞>(1件)
■ ニコン 本社/イノベーションセンター

ニコン 本社/イノベーションセンター(写真:エスエス 島尾 望)


<優秀作品賞・社長賞>(1件)
■ フロントプレイス千代田一番町

フロントプレイス千代田一番町(写真: FOTOTECA)


<優秀作品賞>(2件)
■ 北海道新聞社ビル
■ THE ROYAL PARK HOTEL 銀座6丁目(ヒューリック銀座六丁目昭和通ビル)

北海道新聞社ビル(写真:西川公朗/Masao Nishikawa)
THE ROYAL PARK HOTEL 銀座6丁目(ヒューリック銀座六丁目昭和通ビル)(写真:エスエス 走出 直道)

<作品賞特別賞>(1件)
■ 大阪堂島浜タワー

<作品賞>(3件)
■ 抖音集団成都(バイトダンス成都)
■ 渋谷アクシュ(SHIBUYA AXSH)
■ プレミスト南平台
<最優秀環境・技術賞>(1件)
■ 浜松町エクセージビル リノベーション計画
<環境・技術賞特別賞>(1件)
■ BIM及び省エネ計算アシストツールを活用したZEB化推進への取り組み
<環境・技術賞>(1件)
■ 環境を重視した統合執務空間を実現した合成床システム(ニコン 本社/イノベーションセンター)

<社員選賞>(1件)※一次審査を通過した作品賞、環境・技術賞について社員投票により決定・表彰するもの
■ ニコン 本社/イノベーションセンタ

(他の部門賞については省略)

<最優秀作品賞・社員選賞>ニコン 本社/イノベーションセンター

ニコン 本社/イノベーションセンター(写真:エスエス 島尾 望)

本社機能やR&D部門を集約し、ミュージアムも併設。社員に限らず、地域住民、関係企業、同社製品のファンが「発見・交流・体験できる」場の創出を目指したプロジェクト。約150m×16mの3つの執務空間で、昇降機能等のコアとリフレッシュスペースをはじめとする多様な空間を集約した2つのコミュニケーションフレームを挟む構成とし、フロアを超えた交流の創出を図りました。また、建物外周に巡らされた水平庇の内部をダクトルートとすることで、執務空間のダクトレス化を実現。ゾーンごとの空調制御や、PC床版の円滑な表面をリフレクタとして用いる昼光導入・照明計画で快適な環境を創出しました。

ニコン 本社/イノベーションセンター(写真:エスエス 島尾 望)

建築やランドスケープのみならず、ミュージアムやショールーム、環境映像の演出やダイニング運営に至るまでのトピックに設計者として幅広く携わり、「イノベーションあふれる場」の精緻な実現に取り組んでいます。クライアントとの信頼関係を構築し「よい建築ができるプロセス」を丁寧に積み上げ、意匠・構造・設備のインテグレートを高いレベルで達成している点が評価されました。

<優秀作品賞・社長賞> フロントプレイス千代田一番町

フロントプレイス千代田一番町(写真: FOTOTECA)

コロナ禍を経て問われる「出社の意義」、働き方・価値観の多様化といったテーマに、中規模賃貸オフィスビルで応えたプロジェクト。積み石から着想を得た外観は、腰掛けからカウンターデスクにまで高さを変える出窓で構成。一般的には画一的な空間が要求される賃貸オフィスビルですが、フロアごとに異なる窓回りはテナントごとの個性ある使い方を可能とし、さらにそれを外観へ表出させることでオフィスへの愛着を高めます。また、街路に面してカフェやベンチのあるオープンスペースを設けて地域に開放した1階は、各テナント・働き手とまちにつながりを生み出します。

フロントプレイス千代田一番町(写真: FOTOTECA)

設備面では、気流感や温度ムラを抑える空気式輻射空調の導入やDALI制御・人感センサによる照明運用などにより、快適さと省エネルギー性を高水準で両立※。設計の中心に人のアクティビティを据え、都市に開かれたデザインを追求した点が、従来の賃貸オフィスビルの枠を超えた新たな視点を示すプロジェクトであると評価されました。

ここからが本題、受賞者のプレゼンが心に刺さらない?

 さて、ここからがコラムの本題である。まずは苦言から。

 選ばれたプロジェクトはどれもかなりのクオリティー。上位の作品は当日、審査員に向けて行ったプレゼンテーションの再現が行われたのだが、どれも正直いまひとつだった。建築のクオリティーは高いのに、プレゼンはあまり心に刺さらないのだ。

 なんでかなあ、と思っていたら、外部審査員の塚本由晴氏(アトリエ・ワン、東京科学大学教授)が最後の講評で、筆者がぼんやり思っていたことを言語化してくれた。要約すると、「都市とどう対峙するか、都市にどう寄与するかという視点がプレゼンテーションに欠けている」。

全体の講評を述べる塚本由晴氏(アトリエ・ワン、東京科学大学教授)

 そう、それだ。

 どのプレゼンも、発注者の要求の中でどうこのデザインを実現したか、という語り口に終始しているように感じられた。いや実際には少しは説明していたのだろうと思うが、そんな印象を受けたのだから仕方がない。100年先に残る巨大建築を、発注者と自分たちの二者で解決してしまっていいの?と突っ込みたくなる感じだった。

 10年くらい前になるが、リチャード・ロジャースの来日講演を聞いたとき、講演時間の冒頭から8割くらいまで地球と都市の話をしていてびっくりしたことがある。実際のプロジェクトの説明は最後の2割くらい。10数年前のおぼろげな記憶なので、事例の説明は全く覚えていない。だが、ロジャースの設計姿勢は強烈に記憶に刻まれた。

 もちろん、社内だけの閉じた表彰ならば、課題をどう解決したかでいいと思うが、外部審査員やメディアを呼んで伝えるならば、心の奥に刺さるプレゼンを目指してほしい。

若手が元気で将来の期待大、外に開く姿勢にも拍手

 拍手したいことは2つある。1つ目は、受賞の対象になった設計担当者がみんな若いこと。これは三菱地所設計の社風なのだろう。若手にどんどん任せて、それにより若手が育っていることは間違いない。

 最優秀作品賞・社員選賞に選ばれた「ニコン本社/イノベーションセンター」と、優秀作品賞の1つである「北海道新聞社ビル」のプレゼンを担当したのが同じ女性だというのも驚いた。最初、「あれ、顔が似てる」と思ったら、同じ人だった。彼女は建築設計四部の沼田祐子アーキテクトだ。

最優秀作品賞ニコン 本社/イノベーションセンターが最優秀作品賞に選ばれ、挨拶する沼田祐子氏(右)

 一体何者なんだろうと、帰ってからニコン本社が掲載されている『新建築』2025年1月号を調べてみると、「2015年東京藝術大学大学院修士課程修了/現在、三菱地所設計」というプロフィルだった。10年でこんなに活躍を…。今後に期待大だ。

 拍手したいことのもう1つは、こういう賞を毎年積み重ね、それを外に発信しようという機運が高まっていることだ。内輪でやるのと外に伝えるのとでは準備の作業量が比較にならない。自分が事務局担当だったら、「エーッ」と言いそうだ。

 それでも、外に開くことによって、徐々に関心を持つ人が増え、企業のブランド価値も高まっていくだろう。耳の痛い「苦言」によって、プレゼン能力も高まっていくはず。

 「面倒くさい奴」と思われることを覚悟で「これまでの受賞作を知りたい」と尋ねたら、調べてくれた。

■三菱地所設計の社内賞史
表彰年度/作品・トピックス(★印)

1998年度 ★三菱地所 設計監理部門の社内表彰がはじまる
 最優秀作品賞「HSBCビルディング」
1999年度 最優秀作品賞【該当なし】
 ※次点に、優秀賞「花京院スクエア」ほか
2000年度 最優秀作品賞「山王パークタワー」
 ※特別賞「御殿場プレミアム・アウトレット」「りんくうプレミアム・アウトレット」
2001年度 ★三菱地所より分社(2001年6月)して、三菱地所設計としては初開催となる社内賞
 最優秀賞「ヨコハマポートサイドF-1街区第一種市街地再開発事業」
 ↑建築作品、構造、工務、の各応募を総合的に評価したもの。
 ※特別賞「水戸赤十字病院新棟増築工事」「室戸少年自然の家 展望台」「新大手町ビルヂング 全館リニューアル工事」

2002年度 最優秀作品賞【該当なし】
 特別賞「丸の内ビルディング」
 ↑建築作品、ランスケ、設備、構造、省エネ計画、の各応募を総合的に評価したもの。
2003年度 最優秀賞「日本テレビタワー」

↑建築作品、構造、設備、の各応募を総合的に評価したもの。
2004年度 ※最優秀賞は技術部門に授与された(技術賞「熱媒過流量制御システムの開発と性能検証」)
 ※作品賞のトップは、優秀賞「二番町ガーデン」「明治安田生命ビル」「大阪証券取引所ビル」「The HOUSE Minami Azabu」
 ※特別賞「丸の内OAZO(丸の内北口ビルディング/丸の内ホテル・商業施設)」
2005年度 最優秀賞「東京ビルディング」

2006年度 最優秀作品賞「追手門学院大学 中央棟・6号館」
2007年度 最優秀作品賞「有楽町イトシア」
 ※特別賞「新丸の内ビルディング」
2008年度 最優秀作品賞「成蹊小学校 本館」
2009年度 最優秀作品賞「丸の内パークビルディング・三菱一号館」「ミドリ安全本社ビル」
2010年度 最優秀作品賞「ACTIO梅田東」

 ※特別賞「衆議院新議員会館(Ⅰ期)」
2011年度 最優秀作品賞「JR博多シティ」
2012年度 最優秀作品賞「パレスホテル東京・パレスビル」「丸の内永楽ビルディング」
 ※特別賞「JPタワー」「慶應義塾大学 日吉寄宿舎」
2013年度 最優秀作品賞「GINZA KABUKIZA」「マークイズみなとみらい」
2014年度 最優秀作品賞「北國銀行本店ビル」
 ※特別賞「日本橋ダイヤビルディング」

2015年度 最優秀作品賞「渋谷董友ビル」
 ※特別賞「大手門タワー・JXビル」
2016年度 最優秀作品賞「大手町フィナンシャルシティ グランキューブ」
 ※特別賞「ビッグルーフ滝沢 (滝沢市交流拠点複合施設)」
2017年度 最優秀作品賞【該当なし】

 ※次点に、優秀賞「川崎技術開発センター」「横浜ゴム研究開発センター第二ビル」「上野フロンティアタワー」
 ※特別賞「大手町パークビル」
2018年度 最優秀作品賞「ヒューリックスクエア東京」
 ※特別賞「丸の内二重橋ビル」「広州実地プロジェクト」
2019年度 最優秀作品賞「追手門学院大学総持寺キャンパス」
 ※特別賞「徳島東京海上日動ビルディング」

2020年度 最優秀作品賞「福井銀行本店ビル」
 ※特別賞「みずほ丸の内タワー・銀行会館・丸の内テラス」
2021年度 最優秀作品賞「TOKYO TORCH 常盤橋タワー」
 ※特別賞「中央町 19・20 番街区第一種市街地再開発事業施設建築物等実施設計・監理業務」
2022年度 優秀作品賞「NHK佐賀放送会館」「ふかや花園プレミアム・アウトレット第1期」「Slit Park YURAKUCHO」

 ※この年は最優秀作品賞を選出しなかった。
2023年度 最優秀作品賞「田町タワー」「3rd MINAMI AOYAMA」
2024年度 最優秀作品賞「ニコン本社/イノベーションセンター」
※特別賞「大阪堂島浜タワー」

 おお、なかなかにすごい。オフィスビルや商業施設は一般的な建築賞の対象になりにくいので(賞を取るのはほとんど文化施設なので)、これは非文化施設の建築史として意味がある気がする。

 「面倒くさい奴」と思われるついでに提案。きっと他の組織設計にも似たような社内表彰があると思うので、「各社の優秀作品を集めて一番を決めよう」と呼び掛けてみたらどうでしょう。プレゼン力がより磨かれ、非文化施設のデザインに対する社会の関心も高まるのでは?(宮沢洋)

ここまで力を入れるならば、さらに広がりを!(ⓒ Mitsubishi Jisho Design)