五輪時より格段に魅力を増した空中茶室「五庵」、あの名作住宅へのオマージュか?─日曜コラム洋々亭82

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 7~8年ぶりに長野県茅野市に行ってきた。行く前に調べて、この建築↓が茅野に移築されているということがわかり、見てきた。外から見ただけだが、素晴らしい。これは傑作だ。

 茅野といえば、建築史家で建築家の藤森照信氏(1946年~)の出身地。この建築はオリンピックイヤーの2021年に藤森氏の設計で東京につくられ、2022年に同氏の故郷である茅野に移築された「五庵」である。五庵という名前は「五輪」にかけていると思われる。

 当初は「パビリオン・トウキョウ2021」というイベントで建てられた。開催期間は2021年7月1日〜9月5日。主催は東京都と公益財団法人東京都歴史文化財団アーツカウンシル東京。世界で活躍する建築家やアーティストによる建築やオブジェが新国立競技場周辺を中心に都内各所に設置された。基本的にそれらを無料(設置施設への入場料は払う)で見ることができた。パビリオンのクリエイターは藤森照信氏のほか、妹島和世、藤本壮介、石上純也、平田晃久、藤原徹平、会田誠、草間彌生の各氏。「特別参加」として真鍋大度氏+Rhizomatiks。

 このBUNGANETでは、妹島和世氏と石上純也氏の“師弟対決”がすごい、と取り上げている。

妹島和世氏「水明」
石上純也氏「木陰雲」
パビリオン・トウキョウ2021での「五庵」の外観。右に新国立競技場が見える。21年7月に撮影

 筆者はこの時、「五庵」の外観は見たのだが、中に入ってはいない。整理券制で入れず、改めて見に行こうと思ったが、結局、行かずじまいだった(コロナ禍だったので)。

 報道によれば、1階の待合に入り、梯子で2階の茶室に上がると、大きな窓から新国立競技場が見えるという施設構成。梯子は「にじり口」の再解釈で、暗くて狭い場所を通り、茶室という別世界に移動させる機能を持つ、とのこと。

 なるほど、とは思うが、正直に言うと、当時は外観にピンとこなかった。藤森氏らしいアバンギャルドさ(野蛮ギャルドとも言う)が感じられず、「カワイイ!」という感じでもなかった。

 ところが、茅野に移築された「五庵」はめちゃかっこよくなっているではないか。

 「五庵」も、パビリオン・トウキョウの他の施設同様、主催者が撤去・廃棄したが、藤森氏が廃材の一部を引き取っていた。藤森氏のデビュー作である「茅野市神長官守矢史料館」の200mほど北側、茅野市高部の空き地に、2022年春に移築された。

 1階は居室ではなく、枝を落とした4本の樹木柱のみ。グッとくるのは基礎(?)の部分で、ドーンと大きな岩の上に4本の柱が直接立っている(実際には固定されていると思うがさらっと載っているように見せている)。これはおそらく、国宝「投入堂」(三徳山三佛寺奥院)へのオマージュだろう。藤森氏が「建築の原点」と位置付けている「スタンディング・ストーン」のイメージも重ねていそうだ。

 そして、上部。足元がスカッと抜けたことで、茶室の壁から飛び出す戸袋が存在感を増した。2つの戸袋キャンチ(片持ち)により、指し示す方向性がはっきりした。まるで、空に飛び立とうとする飛行機のようだ。

 「そうか、そういうことか!」──そこで筆者は、自分の「藤森照信論」を補完する需要なポイントに気づいた。

 話は彰国社の季刊誌『ディテール』2021年4月号(228号)に遡る。この号で筆者は、「イラストでわかるディテール名手のメソッド」という1人特集を担当した。特集では古今14人の建築家の“ディテールの癖”を図解した。(特集の一部はこちらで立ち読み可能→https://www.shokokusha.co.jp/?p=11665

 その1人が藤森照信氏だった。筆者は「規則性が増幅する自然素材の非均質性」という見出しで分析している。藤森建築は“非均質”というイメージがあるが、それは藤森氏が要所にモダニズム的な幾何学を採り入れ、それとの対比により非均質が際立つのだ、という論旨だ。今でもいい所を突いている、と思っている。

『ディテール』2021年4月号「イラストでわかるディテール名手のメソッド」より

 その記事で同じく茅野にある「高過庵」の絵も描いている↓。

『ディテール』2021年4月号「イラストでわかるディテール名手のメソッド」より

 「牧歌的に見える『高過庵』も、現代性を主張するために、直線を多用している」と書いている。

 指摘は正しいと思うが、印象の主となる「2本の樹木柱で浮かせた足元」については、モダニズムとの共通項を論じるに至っていなかった。

 それが移築後の「五庵」を見てわかったのである。

 これって「スカイハウス」ではないか!

 よく目にする竣工時のスカイハウスの写真は、空に飛び立つ飛行機のよう。写真自体を載せることができないので、同じ『ディテール』2021年4月号特集に描いたイラストを引用する。

 絶対に意識してるよなあ……↓。

 藤森建築の“樹上茶室シリーズ”は、モダニズム建築が目指した“大地からの解放”の流れであり、「スカイハウス」へのオマージュである。そう筆者は考える。このことはまだ誰も指摘していないのではないかと思い、原稿依頼がある前にここで書いておくことにした。

 ちなみに高過庵の隣にある「空飛ぶ泥舟」↑(2010年)は、(これは筆者以外にも書いている人がいるが)ル・コルビュジエのソヴィエト・パレスから丹下健三の国立代々木競技場につながる“吊り構造”へのオマージュである。藤森氏は東北大学の卒業設計から、吊り構造の建築を提案していた(こちらの記事で卒業設計「《橋 幻視によってイマージュのレアリテを得るルドー氏の方法》1971」が見られる)。

 なお、茅野の藤森建築群は、「ちの旅」が月に数回実施している『フジモリ茶室』のツアーで中を見ることができるようだ。(詳細はこちら

『フジモリ茶室』プレミアムガイド
価格:11,000円(税込)~(料金に含まれるもの:ガイド料、抹茶体験、保険料)
実施期間:4月~11月
定員:6名まで/最少催行3名
所要時間:約3時間
・諏訪大社上社前宮
・神長官守矢史料館

・空飛ぶ泥舟
・高過庵
・低過庵
・高部公民館
・五庵

神長官守矢史料館のすぐ近くに2021年に竣工した「高部公民館」。藤森氏の出身地である高部区の公民館

 これはいいなあ。今度は誰かを誘ってツアーに行ってみよう。(宮沢洋)