祝・松隈洋氏!建築分野からの毎日出版文化賞受賞は(おそらく)40年ぶり、建築は再び社会とつながれるか?

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 建築史家で神奈川大学教授の松隈洋氏が「第79回毎日出版文化賞」の「人文・社会部門」を受賞した。受賞対象は「未完の建築 前川國男論・戦後編」(みすず書房)。受賞は11月3日に発表されていたが、12月15日に贈呈式が東京都文京区のホテル椿山荘東京で行われた。松隈氏から声をかけられ、行ってきた。

贈呈式で挨拶する松隈洋氏(写真:宮沢洋、以下も)
受賞作は600ページを超える大作

 毎日出版文化賞は、毎日新聞社が戦後まもない1947年に創設した。「文学・芸術部門」「人文・社会部門」「自然科学部門」「企画部門」の4部門で優れた著作物や出版活動を顕彰する。

 第79回の受賞者は松隈氏のほか、「文学・芸術部門」が作家の金原ひとみ氏・「YABUNONAKA―ヤブノナカ―」(文芸春秋)。「自然科学部門」が福島国際研究教育機構 (F-REI)土壌ホメオスタシス研究ユニット ユニットリーダーの藤井一至氏・「土と生命の46億年史」(講談社)。「企画部門」が「完全版 土地」全20巻の翻訳完結(クオン)。「特別賞」が押川典昭氏・「プラムディヤ・アナンタ・トゥールとその時代」上・下巻(めこん)。

 本に与えられる賞は数多くあるが、建築限定ではない賞に建築分野の本が選ばれたという記憶が筆者(宮沢)にはない。建築について書いた本でもこういう賞の対象になるのだという事実は、筆者もそうだし、若い建築史家やライターの大きな励みになるだろう。

毎日新聞社の松木健社長から賞状を受け取る松隈氏
松隈氏の右側は作家の金原ひとみ氏。2004年に『蛇にピアス』で芥川賞受賞さすがの存在感。左は土の研究で知られる藤井一至氏。松隈さん、カメラ目線ありがとうございます!

建築は再び社会とつながり得るか

 79回の長い歴史をもつこの賞で、松隈氏以外に建築領域の受賞者はいたのだろうか。調べてみたら、ちょっと面白いことがわかった。以下、筆者が見て「建築の人だ」とわかる名前を拾った(拾い漏れもあるかも)。

第2回(1948年) 西山卯三『これからのすまい』
第7回(1953年) 堀口捨巳『桂離宮』
第11回(1957年) 谷口吉郎『修学院離宮』、日本近代史研究会『写真図説総合日本史』
第13回(1959年) 二川幸夫・伊藤ていじ『日本の民家 山陽路』『日本の民家 高山・白川』
第14回(1960年) 川添登『民と神の住まい』

第27回(1973年) 村松貞次郎『大工道具の歴史』
第29回(1975年) 長谷川尭『都市廻廊あるいは建築の中世主義』
第33回(1979年) 芦原義信『街並みの美学』

第37回(1983年) 藤森照信『明治の東京計画』
第39回(1985年) 上田篤『流民の都市とすまい』

第79回(2025年) 松隈洋『未完の建築 前川国男論・戦後編』

 戦後の15年間は3年に一度のハイペースで受賞していたのに、加速度的に受賞が減っていく。松隈氏の受賞はなんと40年ぶり。筆者が社会人になってから「受賞した記憶がない」というのは、間違ってはいなかった。

 90年代以降、建築分野の書き手の能力が下がったとは思わない。これは「建築と社会のつながり」が薄れていった結果なのではないか。建築が社会の関心時から外れてしまったのだ。

 松隈氏も筆者と同じようなことを思ったのか、受賞のスピーチで、「建築が社会とどうつながり得るか」について話した。自身の執筆の苦労談はほとんど語らず、近代建築を守るためのこれまでの闘いや、今まさに岐路に立っている「旧香川県立体育館」の危機を訴えた。実に松隈氏らしいスピーチだった。

旧香川県立体育館の写真を取り出して危機をアピールする松隈氏。同体育館の状況についてはこちらの記事

 次の受賞者が40年後にならないことを切に願う。筆者は知らなかったのだが、この賞は応募制だ(今回の募集要領はこちら)。次回は2025年8月21日から2026年8月20日までに発刊されたものが対象になると思われる。ただし、執筆者が自分の判断で出すことはできない。「出版社の自薦出版物。もしくは、毎日新聞社が依頼した有識者から推薦された出版物」が対象だ。

 この記事をきっかけに応募して受賞された方は、ぜひ贈呈式にお招きください!(宮沢洋)