神戸にデジタル演出の新感覚水族館、外観はアナログ感あふれる“地層”洗い出し

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 日本人は世界でも指折りの“水族館好き”の国民である。水族館の定義が様々で所説あるようだが、「人口1人当たり比では日本が世界一」とする報告もある。筆者も水族館、大好きである。神戸に「新感覚の水族館」が完成間近と耳にし、嬉々として現場を見に行った。

完成間近の全景(写真:特記以外は宮沢洋)

 今年10月29日に神戸・新港突堤西地区(神戸市中央区)に開館する都市型アクアリウム「átoa(アトア)」だ。新設される「神戸ポートミュージアム(KPM)」の核施設となる。すでに関西圏にはいくつもの水族館施設があるが、átoa(アトア)はそれらとは一線を画す、「アートと生物展示が融合した新感覚の水族館」という触れ込みだ。

 水族館を含む施設全体の設計・施工は大成建設。最終段階の現場を案内してくれたのは設計担当者の土井健史・大成建設設計本部建築設計第三部設計室(髙島)シニア・アーキテクトと原田健介アーキテクトだ。

左が大成建設の土井氏、右が原田氏

 設計テーマは「大地と水の建築」だ。「六甲山の隆起と川や海による浸食によって生まれた神戸の地形」に着想を得て、大地と水により生まれた造形を表現している。

2階のátoa入り口に向かう階段。洞窟のイメージ (写真:大成建設)

 外壁に色ムラが目立つが、これは“仕上げ前”ではなく、最終形。あえて色ムラを出したものだ。近づくと、コンクリートの表面に骨材が顔を出している。色ムラはこの骨材の色の違いによる。

 コンクリートが打ち上がった後で、高圧の水を噴射して砕石や砕砂を洗い出した。遠目に見ると、地層のようなグラデーションが浮かびあがるのは、打設時に重い骨材が下にたまるからだ。もちろん、これは狙ってそうしたものだ。

外壁の洗い出し作業の様子。約4000㎡の壁面を約300万㎥の高圧化した水を使って表面を削り取った(写真:大成建設)

 コンクリートの表面を水で洗い落としてしまって性能に問題がないのかと聞いてみると、「表面のモルタルはむしろない方が塩害に強く、例えば、テトラポットは製造時にモルタルを落としてしまう」(土井氏)との答え。なるほど、そういうものか。構造的には、落とす部分に余裕を見て設計している。

 「今回は現地の“地産地消”を掲げて敷地周辺の骨材を使うことにこだわったが、骨材は産地によって色が違うので、同じ手法でいろいろな色味の洗い出しをつくることも可能だ」(土井氏)。それは今後の応用が楽しみだ。

内部は一転してデジタル感満載の空間

 中に入ってみよう。まずは2階の受付。受付台や壁の一部には、かつての神戸のイメージを受け継ぐために、イギリスで解体保存されていた約100年前のレンガを取り寄せて使った。

 施設名「atoa(アトア)」は、「Aquariumu(水族館) to(と) Art(アート)」を掛け合わせた造語。その名のとおり、デジタルアートや舞台芸術を駆使したアート空間の中に約100種類・3000の生き物たちが共存する。計8つのゾーンに分かれ、各ゾーンのテーマに沿った展示と空間演出がなされる。

 アナログ感を前面に押し出しているのは、外観と受付まで。その先は一転してデジタル感満載となる。ここから先は残念ながら現段階では写真掲載NGとのことなので、先ごろ公表された完成予想図で、主なゾーンを見ていく。(太字はプレスリリースからの引用)

 幻想的な洞窟を抜けると海中世界を体現した「MARIN NOTE-生命のゆらぎ」が広がる。空間全体を覆うウェーブ照明と潮の香が漂う香りの演出、さらには円柱型の水槽にトラフザメやチンアナゴなどの海のいきものが展示され、まるで海中を浮遊しているかのような感覚を楽しむことができる

海中世界を体現した「MARIN NOTE-生命のゆらぎ」 (資料:株式会社アクアメント)

 2階の展示の目玉のもう一つが「EREMENTS-精霊の森」だ。霧が立ち込める樹海の森、まるでおとぎ話の世界に入り込んだかのような世界で、淡水魚やアルダブラゾウガメなどのは虫類、さらには水族館では珍しいウッドチャックなどの可愛いいきものたちとも出会うことができる。

霧が立ち込める樹海の森 「EREMENTS-精霊の森」 (資料:株式会社アクアメント)

 3階では“劇場型アクアリウム“を存分に楽しめる2つのゾーン「MIYABI」と「PLANETS」に注目してほしい。日本の風光明媚な和の世界を表現するゾーン「MIYABI」では、切り絵作家 酒井敦美氏による光の切り絵のショーを楽しむことができるほか、足元ではガラスで覆われた床のすぐ下に魚が泳ぎ、まるで日本庭園の上を歩いてるかのような不思議な感覚を味うことができる。

切り絵作家 酒井敦美氏による光の切り絵のショー (資料:株式会社アクアメント)

 「PLANETS」では宇宙空間や深海の世界を体現している。ゾーンの中央に鎮座する直径3メートル・日本最大級の球体水槽「AQUA TERRA」、床に埋め込まれた光ファイバーと天井から降り注ぐレーザーとミストにより、空間全体が無数の星と光のベールに包まれる。

宇宙空間や深海の世界を体現する「PLANETS」 (資料:株式会社アクアメント)

 4階は屋外展示となっている。「SKYSHORE 空辺の庭」では開放的な空の下、フンボルトペンギンやコツメカワウソなどの可愛い海獣類たちとの出会いに心が癒される。また4階にはアトアカフェが併設され、思わず写真を撮りたくなるようなインスタ映え間違いなしのフードやドリンク類が提供される。

展望デッキからの眺め(写真:株式会社アクアメント)

 さらに必見なのは展望デッキ「ROOF TOP」から眺める神戸の絶景だ。ハーバーランドやメリケンパークが一つの構図の中に収まり、昼はもちろん夜には神戸ベイエリアの美しい夜景を楽しむことができる。

 展望デッキについて少し補足すると、設計担当の原田氏が自らデザインした“方角サイン”にも注目。機能的にはあってもなくてもだが(笑)、こういう遊び心は気分を高める。

 1階にはatoaと同時にオープンする神戸ポートミュージアム内の次世代フードホール「TOOTH TOOTH MART FOOD HALL&NIGHT FES」と、クラシックカーの展示やウエディングドレスを扱う「VOYAGE KOBE」が入る。フードホール「TOOTH TOOTH MART FOOD HALL&NIGHT FES」は、空間的に面白そうだ。中央の円形カウンターの真上には2階の円形水槽の底がある。つまり、水族館に入らなくても、この水槽は下から見ることができるのだ。

次世代フードホール「TOOTH TOOTH MART FOOD HALL&NIGHT FES」 。右上の水槽に注目 (資料: 株式会社アクアメント)

 コロナ禍のため、当面は日時指定入場制を採用する見込み。チケットの販売は入場日の1月前からだ。開館したら改めてリポートしたい。やっぱり、実際にどうなったのかはこの目で見たい。子どもか、って言われそうですが…。(宮沢洋)

■átoa(アトア)基本情報
所在地:神戸市中央区新港町7番2号
オープン日:2021年10月29日
開館時間:10時~21時/年中無休
敷地面積:5600m2
水槽:59基
展示:生物 約100種3000点、アート約50点
運営会社:株式会社アクアメント
設計・施工:大成建設
ホームページ:https://atoa-kobe.jp