藤本壮介氏初の大規模個展の見どころを総ざらい、「大屋根リング」の巨大模型や1000超の模型群など身体で感じる建築展

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 建築家の藤本壮介氏にとって初の大規模個展となる「藤本壮介の建築:原初・未来・森」が、東京・六本木の森美術館で2025年7月2日に始まった。最初の展示空間に足を踏み入れると、約1200の模型群に圧倒される。藤本氏がこれまで約30年にわたって手掛けてきた116プロジェクトの模型や素材を、300m2の大空間に時系列で並べた“模型の森”のようなインスタレーションだ。

セクション1「思考の森」の展示空間に立つ藤本壮介氏(藤本壮介建築設計事務所代表)。同氏は1971年北海道生まれ。東京大学工学部建築学科卒業。2000年に藤本壮介建築設計事務所を設立。2020年に大阪・関西万博の会場デザインプロデューサーに就任(写真:以下は森清)
セクション5「開かれた円環」に展示された「大屋根リング」の5分の1の部分模型
セクション7「たくさんの ひとつの 森」では、「仙台市(仮称)国際センター駅北地区複合施設」の大きな吊り模型や3Dパースなどを展示

 展示はこれだけにとどまらない。大きな展示空間だけとっても、大阪・関西万博で藤本氏がデザインした「大屋根リング」の5分の1の部分模型、さらには24年の公募型プロポーザルで藤本壮介建築設計事務所が選ばれた「仙台市(仮称)国際センター駅北地区複合施設」の屋根とスラブを兼ねた15分の1の模型など、模型内に入って空間を体験できる展示が続く。映像はもちろん、藤本建築を擬人化してぬいぐるみにし、ぬいぐるみ同士が会話をするといった展示もある。

 これらは森美術館の片岡真実館長からのリクエストへの藤本氏の答えの一端でもある。「建築の専門家ではない幅広い入場者に向けて通常は図面や模型、写真、あるいは多くのテキストで説明されるケースも多いかと思う。身体的な体験が展覧会の中で実現して、建築家の具体的な仕事はもちろん、そこに通底している思想なりコンセプトがわかりやすく伝わるような建築展ができないかと考え、海外の美術関係者にも評価が高い藤本さんにお声がけした」。7月1日のプレス説明会で同館長は、こう説明した。

 これに対して、藤本氏はこう話した。「片岡さんをはじめ、キュレーターの方々と議論する中で我々が今まで何をやり、今何をやり、この先何をやろうとしているのかを深く考えさせられる素晴らしい機会だった。初期のころから個々の多様性をリスペクトしながら、それらが共存する場を目指した。時に全く違う個性が響き合ってつながる瞬間がある。そういう場をつくることをやってきており、これからもやっていきたい。それは建築の話だけでなく、これからの社会像そのものであるかなと考えていた」

 今回の展示では、そうした考えを基に藤本氏の故郷である北海道の森からインスピレーションを得てタイトルに森という言葉を選んだ。「木がたくさんある森だけでなく、建築的な森、あるいは都市環境としての森も含めて広い意味での森的な場所を考えた。最初の展示室はまさに模型の森、あるいは思索の森となっている。こうした展示物だけでなく空間全体の構成も含めて森的な場を体感してもらえると思う」。こう話す藤本氏にとって森とは、乱雑さの中に緩やかな秩序がある場所だ。

藤本建築の3つの系譜に従って模型群を配置

セクション1「思考の森」の入り口付近から見る
「思考の森」の道しるべとなるマップ。藤本建築の3つの系譜に従って左手の入り口から奥(右手)に向かってほぼ時系列で配置している
思考の森の展示風景。左手前は「サーペンタイン・ギャラリー・パビリオン2013」で藤本氏が最初にプレゼンした真ちゅう製の模型
思考の森に配置された「仙台市(仮称)国際センター駅北地区複合施設」(2031年完成予定)の模型。セクション7ではスラブプレートの大型吊り模型によって空間体験もできる
思考の森に置かれた「TOKYO TORCH Torch Tower」(2028年完成予定)の模型。三菱地所設計の下で藤本氏は頂部デザインを担当する
思考の森の最後に配置された「(仮称)海島」の模型。瀬戸内海に浮かぶ新しい宿泊型船舶の提案

 全体の展示は8つのセクションからなる。それらのアウトラインを説明していこう。最初のセクションは「思考の森」。これが冒頭で記した約1200の模型や素材を、高さの違う展示台に配置したり、天井から吊ったりする形で並べた展示だ。入り口から奥に向けて時系列で並べるとともに、藤本建築における3つの系譜に従って緩やかにゾーン分けされている。系譜の1つ目が「ひらかれ かこわれ(open boundaries)」で、囲われた境界線が開口などで外部に開かれているパターン。2つ目が「未分化(amorphous)」で、空間における用途や性質があいまいで多義的であるタイプ。3つ目が「たくさんのたくさん(many many many)で、1つの建築が似た形状の多くのパーツで構成されているパターンだ。時には3つにまたがる場合もある。

 2つ目のセクションが「軌跡の森—年表」。今回の展示における特徴の1つがコラボレーターとの協働だ。ここでは建築史家で大阪公立大学教授の倉方俊輔氏の監修の下、藤本氏が大学を卒業した1994年以降を中心に年表をまとめている。藤本氏によるプロジェクトたけでなく、その他の建築家の主要プロジェクト、建築界で起こった重要な出来事、社会史・世相史を添えている。「年表のことなど考えないで活動してきているが、知らず知らずのうちに世の中の動き、妹島和世さんや西沢立衛さんをはじめとするいろいろな方の影響を受けて設計している全貌が見えて面白い」と藤本氏は捉える。

 3つ目もブックディレクターである幅允孝氏とのコラボレーションによる「あわいの図書室」だ。「あわい」とは過去と未来、都市と自然など、異なるように見えるもの同士の間にある明確には定義できないけれど、確かに存在する揺らぎのようなもの。「それが藤本さんの建築では大事なのではないかと考え、5つのテーマを選び、教会の椅子をイメージして計40冊を配した。ここに座って読む人もいれば、読まない人もいる。ちょっと時間の流れが遅い場所をつくろうとしている」(幅氏)。椅子の表面には本の中に出てくる言葉をちりばめている。本を読まなくても、何となく中身が伝わり、読んでいることと読んでいないことの間にいる経験が味わえる試みだ。

展覧会の関係者。前列は藤本氏と3人のコラボレーター。藤本氏の左側がブックディレクターでBACH代表の幅允孝氏。藤本氏のすぐ右側がデータサイエンティストで慶応大学教授の宮田裕章氏、その右が建築史家で大阪公立大学教授の倉方俊輔氏。後列の左から3人目が森美術館の片岡真実館長
セクション2「軌跡の森—年表」。倉方氏が監修して藤本氏が大学を卒業した1994年以降を中心に年表を作成した
セクション3「あわいの図書室」。幅氏が5つのテーマで計40冊を選書して椅子に収納する形で配置

実際の万博を参照し、様々なポーズの人を模型に配置

 セクション4とセクション5はひとつながりの展示空間に収められている。前者は「ゆらめきの森」と名づけられ、藤本氏による5つのプロジェクトの模型に人の動き、たまり場がわかるようにプロジェクションマッピングで人物を投影する。設計する場合、人の動線を踏まえてプランを固めていくが、動線を視覚化して示そうという試みだ。初期の住宅の代表作である「T house」(2005年)では家族の動き、「UNIQLO PARK 横浜ベイサイド店」(2020年)では子どもたちが自由に動き回る様子がわかる。この他、「(仮称)飛騨古川駅東開発」などを取り上げている。

 後者のセクション5のテーマは「開かれた円環」だ。「大屋根リング」の5分の1の部分模型を中心に、構想段階のスケッチ、貫接合の2種類のモックアップが展示されている。大屋根リングの模型は5分の1とはいえ、高さ4mを超える巨大なもので、実際の万博会場を参考にポーズを決めた人間の模型も置かれており、ディテールまでこだわっている。この他、200分の1の大屋根リングの模型や記録写真、設計図面も展示。加えて、開かれた円環というコンセプトに通底する12プロジェクトの模型が壁面に並ぶ。

セクション4「ゆらめきの森」。5つのプロジェクトの模型に人の動きをプロジェクションマッピングで投影する。壁には各プロジェクトの図面を展示
ゆらめきの森に配置された「(仮称)飛騨古川駅東開発」の模型
ゆらめきの森に置かれた「UNIQLO PARK 横浜ベイサイド店」(2020年)の模型
セクション4「ゆらめきの森」(手前)とセクション5「開かれた円環」(中央奥)
大屋根リングの部分模型の内部。様々なポーズの人の模型が配置されている
大屋根リングの部分模型わきの壁面には構想段階のスケッチが並ぶ
大屋根リングの貫接合のモックアップ。3種類あるうちの2種類を展示している
セクション5の奥の床には200分の1の大屋根リングの模型が置かれており、写真や図面がその上を飾る

 セクション6は「ぬいぐるみたちの森のざわめき」だ。藤本建築の代表プロジェクトを擬人化して、藤本事務所のスタッフがぬいぐるみを手づくりした。「万博リング」や南仏・モンペリエに立つ集合住宅「ラルブル・ブラン/白い木」、宮城県の「石巻市複合文化施設」をはじめとする9つの建築のぬいぐるみをつくり、それらを2つのグループに分け、それぞれで会話させる。9体は個別にキャラクターを設定し、その設定に基づき雑談をしつつ、設計の評判などの会話をさせ、藤本建築の特徴を来場者に学んでもらう。シナリオも事務所のスタッフがある程度つくったという。セクション6の壁際には、藤本氏が学生時代から描きためてきたスケッチも時系列で並べられている。

セクション6「ぬいぐるみたちの森のざわめき」。こちらのテーブルは藤本建築のぬいぐるみ6体が囲む
「ぬいぐるみたちの森のざわめき」のもう1つのグループ
「ぬいぐるみたちの森のざわめき」のセクションわきには、藤本氏の学生時代からのスケッチを展示
藤本氏のスケッチは途中から赤のラインに変わる

建築展の議論がプロポーザルの勝利につながる

 そして3つ目の大きな展示空間が、セクション7とセクション8がつながる最終スペースだ。前者のテーマは「たくさんの ひとつの 森」。「仙台市(仮称)国際センター駅北地区複合施設」の大きな吊り模型や3Dパースなどが展示されている。音楽ホールと中心部震災メモリアル拠点を複合した建築で、基本設計が進行している。東日本大震災のちょうど20年後に当たる2031年に完成予定だ。大きな吊り模型は、内部空間を体験することもできる。

 屋根兼床スラブのプレートをたくさん集めて1つの建物を構成しており、「たくさんのたくさん」という藤本建築の系譜に位置づけられる。また、スラブプレートは多様な用途で使うことを想定しており、これは「未分化」という系譜にも当たる。さらに、建物として囲われていながら、外部と一体になった使い方も考えており、「ひらかれ かこわれ」にも位置づけられる。3つの系譜にまたがる藤本建築の1つの集大成と言うことができる。

 「我々はこの展覧会の構想時に議論を重ねる中で、ばらばらのものが時につながることの尊さが、我々がやろうとしている建築のビジョンだと再認識できた。その考えを持ってプロポーザルで提案し、選ばれたのがこのプロジェクトだ。それをもう一度、展覧会に持ち込み展示をした。すごくいい形で展覧会の思考と実際の建築がつながったと思う」。こう藤本氏は振り返る。「たくさんの /ひとつの 響き」がプロポでつけたタイトルで、これからのプロジェクトを指し示すキーワードになっている。

セクション7「たくさんの ひとつの 森」。「仙台市(仮称)国際センター駅北地区複合施設」の大きな吊り模型では、立ったままの姿勢で内部空間を体験できる
壁面には「仙台市(仮称)国際センター駅北地区複合施設」の3Dパースなどを展示
「たくさんの ひとつの 森」の最後の壁面には、様々なプロジェクトを抽象化したイラストを左上から右下にかけて時系列で配置している

 セクション7に隣接するのがセクション8の「未来の森 原初の森—共鳴都市2025」だ。このセクションもデータサイエンティストであり、慶応大学教授の宮田裕章氏がコラボレーターとして参加している。この先、100年単位で考えたときの都市の未来像を示す展示だ。900以上の大小の球体が縦横だけでなく斜めにも自由自在につながり、高さ500mの中に、5万人が暮らす東京湾の都市を考えた。その中に住宅や学校、オフィスなど都市生活に必要な機能をすべて備える。

 近代都市は水平移動と垂直移動で成立していたが、未来都市ではモバイルデバイスを使って空を飛ぶことができ、斜め移動が可能になる前提とした。都市の構造を藤本氏がぼんやりと考え始めたところで、宮田氏に加わってもらい、都市が持ち得る可能性、社会システムまで話を広げていった。これを試案としてアイデアを集め、書籍にまとめる考えだ。展示会場には書籍用の白紙のフォーマットも置き、来場者に意見やコメントを鉛筆書きしてもらったり、QRコードで読み取りスマホで記載してもらったりする。

 藤本氏が森美術館、コラボレーターと一緒に詰めていった今回の個展は、これまでの建築展を再構築するものだ。これだけ大きな規模でも藤本氏の考えを、数多くの作品を通しながら体系立てて見事に伝えている。全体をくまなく見ようと思ったら、少なくとも2回は足を運ばないと難しいだろう。(森清)

セクション8「未来の森 原初の森—共鳴都市2025」。未来都市の模型を展示するほか、空中を飛んでいる視点でつくった動画を壁面に映し出す
「未来の森 原初の森—共鳴都市2025」の奥の壁面には、共鳴都市2025の説明が7章に分けて展示されている
7月1日のプレスツアーで「共鳴都市2025」について説明する藤本氏と宮田裕章氏

■ 「藤本壮介の建築:原初・未来・森」開催概要

  • 展覧会名:藤本壮介の建築:原初・未来・森
  • 主 催:森美術館
  • 企 画:近藤健一(森美術館シニア・キュレーター)、椿玲子(森美術館キュレーター)
  • 会 期:2025年7月2日(水)~11月9日(日)
  • 会 場:森美術館(東京都港区六本木6-10-1 六本木ヒルズ森タワー53階)
  • 開館時間:午前10時~午後10時(火曜日のみ午後5時まで、ただし8月27日(水)は午後5時まで、9月23日(火)は午後10時まで。入館は閉館時間の30分前まで)
  • 休館日:会期中無休
  • 入館料(税込):一般平日2300円(当日窓口)・2100円(オンライン)、一般土日休日2500円(当日窓口)・2300円(オンライン)/学生(高校・大学生)平日1400円(当日窓口)・1300円(オンライン)、学生(高校・大学生)土日休日1500円(当日窓口)・1400円(オンライン)/子ども中学生以下(無料)/シニア(65歳以上)平日2000円(当日窓口)・1800円(オンライン)、シニア(65歳以上)土日休日2200円(当日窓口)・2000円(オンライン)
  • 備考:チケットの購入は事前予約制(日時指定券)。当日、日時指定枠に空きがある場合は事前予約なしで入館可能。本展のチケットで同時開催プログラムも鑑賞可能