エレベータ主役の建築は健在! 創業75周年のフジテックで聞いた平成以降の傑作エレベータ

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 今年創業75周年を迎えたフジテック(本社: 滋賀県彦根市)の広報誌『USNET(アスネット)』に掲載する社内座談会の進行役を務めた。フジテックはエレベータ・エスカレータのリーディング・カンパニーだ。エレベータやエスカレータのほか、動く歩道などの都市空間移動システムについて、研究・開発から販売、生産、据付、保守、リニューアルまで、一貫体制で手掛けている。座談会は、「エレベータの未来」をテーマに、フジテックの3人に私(宮沢)の疑問を投げかける形で進めた。なかなか面白い内容で、その記事はWEBでも読める。→https://www.fujitec.co.jp/corporate/magazine

 座談会の序盤で私からこんな質問を投げかけている。

 「私の感覚では、昭和の時代、つまり1980年代までは “エレベータへの憧れ”を感じさせる建物が数多くつくられていました。平成以降では、そういう建物が少ないと思うのですが……」

 これは、この企画を私が引き受けた理由でもある。ありていに言うと、「最近のエレベータって裏に隠れたものばかりでデザイン的に面白いものがないじゃん!」と言いたかったのである。

 この挑発に対して、フジテックの方々から「そんなことはない」と、自社のエレベータで大胆な事例がいくつも挙がり、大いに盛り上がった。見たことがあって忘れていたものもあれば、全く知らなかったものもある。記事中ではごく一部しか紹介できなかったので、話題に上ったものを書いておく。これからエレベータ空間をデザインするときのヒントにしてほしい。(太字の説明文やデータはフジテックのWEBサイトより)

① 「ドバイ国際空港」の横1列巨大エレベータ

(写真提供:フジテック)

アラブ首長国連邦にある中東最大の国際空港として、エミレーツ航空専用のターミナルビルとコンコースを備えた「ドバイ国際空港」。ここに、世界最大クラスの超大型展望用エレベータ「スカイトレーン」8台が活躍しています。世界各地から訪れる大勢の人々をスムーズに移動するために、積載9トン、定員120人乗りとなっています。各エレベータには、2カ所の乗場ドアが設けられるとともに、かご内には3台の大型ディスプレイが設置され、利用者に多彩な映像や情報、音楽などを提供しています。

物件名:ドバイ国際空港
所在地:アラブ首長国連邦・ドバイ
施主:Department of Civil Aviation, Government of Dubai
設計・監理:ADPI, Dar Al Handasah
施工:Al Habtoor – Murray & Roberts – Takenaka JV
竣工:2008年
https://www.fujitec.co.jp/project/686

② 「ザ・リッツ・カールトン京都」の組子細工天井エレベータ

(写真提供:フジテック)

京都・東山を一望できる鴨川沿いに建つ、古都をイメージした伝統的な雰囲気が漂う世界的最高級ホテルが、「ザ・リッツ・カールトン京都」です。地上5階、地下2階建の同ホテルのエレベータ乗場や、かご中天井の意匠は、杉を使った組子細工を施しており一際目を引きます。また、かご床面は御影石を採用。かご壁側面のカラーステンレス鏡面仕上げや、LED間接照明、落ち着いた印象のブラック液晶パネルなど、質感にこだわり仕上げました。

物件名:ザ・リッツ・カールトン京都
所在地:京都・二条大橋
施主:積水ハウス株式会社
設計・監理:株式会社日建設計
施工:株式会社大林組
竣工:2014年

https://www.fujitec.co.jp/project/444

③ 「MIYASHITA PARK」のライトアップ映えエレベータ

(写真提供:フジテック)

「MIYASHITA PARK」はJR渋谷・原宿駅間の明治通り沿いに立地する複合施設です。全長約330mの建物は渋谷区立宮下公園・商業施設・ホテルで構成され、1~3階に商業施設、屋上に公園、そして地上18階建てのホテルがあります。施設内はテラスや吹き抜け階段が多く、開放的で回遊性のある空間です。ここではフジテックのエレベータ・エスカレータ計40台が稼働しています。スケルトンエレベータには昇降路とかご上に照明を設置し、夜になると昇降路内をライトアップします。また、館内のエスカレータは、外装にエキスパンドメタルや透明アクリルパネルを使い、内部機構が見えるメカニックなデザインに仕上げています。

物件名:MIYASHITA PARK
所在地:東京・渋谷
施主:三井不動産株式会社
プロジェクトアーキテクト:株式会社日建設計
設計・監理:株式会社竹中工務店
施工:株式会社竹中工務店
竣工:2020年

https://www.fujitec.co.jp/project/6306

④「国立新美術館」の「日常を忘れる」シースルーエレベータ

ガラス張りのシースルーエレベータのボタンには「閉」が設置されていないのですが、これは、訪れた人に「ゆったりと過ごしてほしい」という設計者からのメッセージ。日常の喧噪から離れられる場があることは、現代社会を生きる上でとても大切です。ふらっと美術館を訪れて、名作の椅子に座るなどしながら、ぼーっと静かな時を過ごしてみませんか。

物件名:国立新美術館
所在地:東京・乃木坂
施主:文部科学省、文化庁
設計・監理:黒川紀章・日本設計共同体
竣工:2006年

https://www.fujitec.co.jp/project/512

⑤平成の金字塔、「梅田スカイビル」の独立シャフト展望エレベータ

 このエレベータは言わずもがなでしょう。最近では「非接触ボタン」も話題になっているそう。

物件名:梅田スカイビル
所在地:大阪市北区
施主:積水ハウスほか
設計・監理:原広司+アトリエ・ファイ建築研究所、木村俊彦構造設計事務所、竹中工務店
竣工:1993年
https://www.fujitec.co.jp/project/688

 この記事を書いていて、昭和も含めて「エレベータ空間ベスト50」みたいな本をつくったら売れそうな気がしてきた。エレベータ業界の方、出版社の方、いかがですか?(宮沢洋)