この本気度は確かに「建築」! ジブリパークの「魔女の谷」を歩く──みんなの建築大賞2025ベスト10から⑥

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 今回の「みんなの建築大賞」のノミネート10作の中で、ジブリパークの「魔女の谷」を“意外”に思った人は多いのではないか。かくいう筆者(宮沢)も、推薦委員の1人からこれを推す声が出たときには意外に思った。議論の中で、「こういうものこそ、建築設計者が関わって実現するのだ(コスト管理とか建築確認といった現実をクリアして生まれるのだ)ということを広く知ってもらうべき」という流れになり、ついには10選に選ばれた。全くの想定外であった。

ジブリパーク 魔女の谷の「ハウルの城」(写真:宮沢洋)

 しかし、考えてみると、それはむしろ非・建築出身の筆者こそ挙げるべきものだったのかもしれない。筆者は文系でミーハーという素性のせいもあるのか、記者1年目に「サンリオピューロランド」の開業を取材。2001年には「ユニバーサル・スタジオ・ジャパン」の開業も取材した。単なるニュースではなく、「建築」としてである。

 そんなことを思いながら選定会議を終え、後で調べてみると、なんと建築専門誌の老舗『新建築』にでかでかと載っているではないか(2024年6月号)。いつの間にか『新建築』の方が自分よりも柔軟になっていた…。「これはいかん」と、早速、ジブリパークの「魔女の谷」を見に行ってきた。

ハウルの城から魔女の谷を見下ろす。映画に登場する家やパン屋など24棟、メリーゴーランドなど工作物9基を整備した

■ジブリパーク 魔女の谷
所在地:愛知県長久手市茨ケ廻間 乙1533-1愛・地球博記念公園内/発注者:愛知県/設計者:スタジオジブリ(デザイン監修)、日本設計/設計協力者:山田建築研究所(建築(木造))、安西デザインスタジオ(ランドスケープ)、プレック研究所(ランドスケープ)、乃村工藝社(演示工事)、東宝映像美術(演示工事)/施工者:鹿島建設/構造:鉄筋コンクリート造一部鉄骨造(ハウルの城)/階数:地上2階(ハウルの城)/延べ面積:289.06m2(ハウルの城)/施工期間:2021年7月~2024年1月/開園日:2024年3月16日/主な雑誌掲載:新建築2024年6月号

 あれ? ジブリパークって何年か前に開園していなかったっけ? と思った人もいるだろう。その通りで、第1期整備工事が完了し、開園したのは2022年11月1日。昨年、2期工事が完了し、2024年3月16日に「魔女の谷」エリアが開園。計画されていたジブリパークの5エリアがすべてそろった。

 ちょうどタイミングが合い、設計の中心になった日本設計建築設計群の大山政彦チーフ・アーキテクトと、西村拓真主管に案内してもらった。 

日本設計建築設計群の大山政彦チーフ・アーキテクト(左)と、西村拓真主管(右)

 ジブリパークが「魔女の谷」の開園直前(2024年2月29日)に出したプレスリリースにはこう書かれている(太字部)。

 ジブリパーク(愛知県長久手市)の新エリア「魔女の谷」が(2024年)3月16日(土)に開園します。それに先立ち、2月28日(水)にメディア向け内覧会を開催し、「魔女の谷」を初公開しました。

 「魔女の谷」は魔女が登場するスタジオジブリ作品をイメージしたヨーロッパ風のエリアです。『魔女の宅急便』の「グーチョキパン屋」や「オキノ邸」、『ハウルの動く城』の「ハッター帽子店」や「ハウルの城」、『アーヤと魔女』の「魔女の家」が建っている他、「メリーゴーランド」や「フライングマシン」といった遊具、レストラン、ショップなどがあります。

魔女の谷の入り口に近くにあるレンガ壁のレストラン「空飛ぶオーブン」

 ジブリパークのある愛・地球博記念公園内で同日、「ジブリパーク施設説明会」を開きました。ジブリパークの制作現場を指揮したスタジオジブリ宮崎吾朗監督が登壇し、「およそ7年の歳月をかけてやっとここまで辿り着いてほっとすると同時に、愛知県の皆さん、設計会社や施工会社といったあらゆる人たちに感謝したいという気持ちでいっぱいです」と語りました。

 ああ、内覧会に参加できていたら、宮崎吾朗監督の話を聞けたのに…。小メディアの悲しさ。

 実は筆者は前職の「日経アーキテクチュア」時代、宮崎吾朗監督に取材したことがある。それは、東京・三鷹の「三鷹の森ジブリ美術館」(2001年開館)の設計リポートだった(たぶん「プロジェクトナビ」という欄)。宮崎吾朗監督は当時はまだ「監督」ではなくて、美術館の準備室長としてすごく丁寧に話をしてくれたと記憶している(後に同館の館長となった)。デジタル化される前の時代の記事なので、記憶があやふやで申し訳ない。

 今回案内してくれた日本設計の大山氏は「三鷹の森ジブリ美術館」の設計も担当していたという。ということは、もう四半世紀も宮崎吾朗監督とともにジブリのプロジェクトを! すごい信頼関係だ。

 実物を見た筆者の感想(ルール上90字以内)はすでに「投票開始」の記事(1月27日公開)に載せている。

 「誰もが知るあの城をリアルに再現するという難題に挑んだ本気さにまず拍手。城だけでなく街並みの本気さ(例えばハーフティンバーの建物は本当に木造!)にさらに驚く。公園の活用法としても先進的。」(宮沢洋)

 せっかくなので、これに書いた3つのポイントに沿って、写真を見ていこう。

①誰もが知るあの城をリアルに再現するという難題に挑んだ本気さにまず拍手。

ご存じ『ハウルの動く城』に登場した「ハウルの城」。以下、プレスリリースから引用(太字部)。「『ハウルの動く城』に登場した、生き物のような形をした存在感のある城(高さ約20m)です。1時間に数回、城の一部が動き煙をはく、まさに“動く城”。城の周辺には劇中をほうふつとさせる荒地が広がり、かかしのカブがたたずんでいます。2階建てで、正面の階段から1階に入ると、薄暗い雰囲気の中に居間があり、カルシファーの炉や流し台、テーブル、ソフィーの部屋などがあります。2階にはハウルの寝室やハウルの衣裳部屋、ハウルのアトリエのほか、浴室やマルクルの部屋があり、城の中での生活を窺えます。」
足は樹脂ではなく、本当に銅板! 石垣も本当に石垣
裏側に回ると、バリアフリーのためのエレベータ―。物語に登場しない部分はすべて宮崎吾朗監督と意見交換をしながら設計を詰めたという

②城だけでなく街並みの本気さ(例えばハーフティンバーの建物は本当に木造!)にさらに驚く。

左がハッター帽子店、右がグーチョキパン屋。以下、プレスリリースから引用(太字部)。ハッター帽子店:「『ハウルの動く城』の主人公ソフィーが切り盛りする2階建ての帽子店で、ソフィーの作業場やショップがあります。ヨーロッパの伝統的な木造建築技法であるハーフティンバー様式の外観が印象的です。中庭から建物の奥に進むと、ソフィーが帽子を製作する作業場をのぞくことができます。1階のショップ「ハッター帽子店」ではオリジナルのキャンディー缶や帽子を販売し、中庭から2階に上がると魔女や魔法にまつわる書籍が揃う本屋「魔女の本棚」があります」。グーチョキパン屋:「『魔女の宅急便』の主人公キキと黒猫ジジが暮らしたパン屋です。ヨーロッパの伝統的な木造建築技法であるハーフティンバー様式の2階建てです。1階のパン屋では実際にパンを購入し、お持ち帰りいただけます。キキやジジが寝泊まりした屋根裏部屋もあります。」
ハッター帽子店の側面に回ると、これは本当にハーフティンバーであると気づく。広葉樹を切り出して乾燥させる工程から取り組んできたとのこと。
注目してほしいのはハッター帽子店とグーチョキパン屋の間にある白い建物。物語には登場しない。これは両施設をエレベーターでつなぐためのRC造。言われなければわからない

③公園の活用法としても先進的。

 現地を見るまで全く知らなかったのが公園との関係。筆者はてっきり、万博跡地の「愛・地球博記念公園」が「ジブリパーク」に生まれ変わったのだと思っていた。違うのだ。今も「愛・地球博記念公園」はあって、その中に「ジブリパーク」の施設が点在しているのだ。公園全体は約200haで、「魔女の谷」は東側の約2.9haだ。

公園内の園内バスルートマップ。右のピンク色部分が魔女の谷
「愛・地球博記念公園」の中心にある広場
ここも無料の公園。左奥の「ジブリの大倉庫」に入るには料金がかかる。第1期で完成した部分で、既存の温水プールを改修してつくられた

 「点在」しているというより、レイヤーを重ねたように「共存」していると言う方が実感に近い。公園内にいる人を見てもジブリパークに来たのか、公園だけに来たのかわからない。これは大規模公園の活性化策として面白い。

ジブリパーク「魔女の谷」への投票はこちら→XInstagramGoogleフォーム

 第2回となる今回の「みんなの建築大賞」は、投票の参考として、ノミネート建築の設計者によるライブ解説の場を設けた(オンライン配信)。開催したのは2月1日(土)19:00~20:30で、すでに終わっているが、2月いっぱいは録画を見ることができる。日本設計建築設計群の大山政彦チーフ・アーキテクトと、西村拓真主幹も登場する。無料なので、下記をクリックしてみてほしい。出番は中盤あたりだ。

YouTubeURL→https://www.youtube.com/live/XieqK9uJVRM

もし第3期があるなら…

  ところで、本題から少し離れるが、プレスリリースに宮崎吾朗監督のこんなコメントが載っていた(太字部)。

「ジブリパーク施設説明会」での宮崎吾朗監督コメント(一部抜粋)

 「魔女の谷」は森に囲まれているので、周りの世界とは切り離されたような独自の空間を生み出せると思いました。ジブリ作品は日本を舞台にした和風な作品もあれば、ヨーロッパをほうふつとさせるようなファンタジックなものも多いんですよね。そこで、魔女をテーマにした洋風な世界観を作ってみました。(中略)

(もし第3期整備エリアがあるとしたら何をつくりたいですかという問いには…)「やれ」と言われたらご協力させていただきます。

 なんと第3期の可能性を匂わす発言…。中学生時代に『アニメージュ』で『風の谷のナウシカ』の原作をオンタイムで読んでいた世代としては、ここに何をつくってほしいかと問われたら、「公園の地下に腐海(ふかい)」と答える。ナウシカがジブリ創設前の作品であることは知っているけれど、ファンの多くはそれを望んでいるのでは? (宮沢洋)

■他のノミネート作はこちら↓