路面電車愛あふれる「エキ×デンスクエア」は衝撃、“越境”で駅前を激変させた「広島駅南口ビル」──みんなの建築大賞2026ベスト10から①

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 2026年2月1日から「みんなの建築大賞2026」の投票が始まった。ノミネートされた10件「この建築がすごいベスト10」の中で、本サイトでまだリポートしていなかったいくつかの建築を紹介していく。

(写真:宮沢洋、以下も)

 まずは「広島駅南口ビル」だ。商業施設の名称は「minamoa(ミナモア)」。ビルとしては2025年3月にオープンし、同年8月からここでの路面電車(広島電鉄)の運行が始まった。

 この賞の言い出しっぺである筆者(宮沢)は、今回、これが10選に残ったことが一番うれしい(いい悪いではなく「うれしい」)。なぜかというと、「ビル」だからだ。

 「みんなの建築大賞」は既存の建築賞へのさまざまな疑問が出発点となって生まれた。その1つが、「受賞するのが文化施設ばかりだ」というもの。建築家が建築物を選ぶと結果的に「非日常」のものばかりになるように思えたのである。自薦ではなく第三者が勝手にノミネートする前提とし、一般の人が投票して結果を決める──そういう流れにすれば、もっと日常に近い建築物が注目を浴びるのではないかと考えた。

 だが、これまでの2回の推薦委員会では「○○ビル」といったものは10選に残らなかった。候補になったものはいくつかあったが、「大賞に選ばれて恥ずかしくないレベル」となるとなかなか難しいのが現実だ。(この賞は10件を選んだあとは全く手出しができないので、選ぶ段階はシビアだ)

 そして、第3回にしてようやく「ビル」が選ばれた。それも、最も利用者が多い建築種の1つである「駅ビル」だ。本当にすごいの? 大賞に選ばれて恥ずかしくない? いや、すごかった。大賞に選ばれて恥ずかしくない。「路面電車がビルの2階に乗り入れる」というニュースは昨年8月にテレビで何度か見ていたが、この空間(「エキ×デンスクエア」と命名)の迫力は実物を見るまでわからなかった。

実施設計以降に関わった西日本旅客鉄道大阪工事事務所広島工事所の田原潤一所長(一級建築士)が案内してくれた

 まず、JRの改札(2017年に完成した橋状駅舎の地上2階レベル)を出て、海側(南)を向いたときの衝撃。うわっ、2階に路面電車がこっちを向いて並んでいる! みんな電車に向かって歩いてる!

 天井高っ! 壁が丸空き!

 電車近っ!

 1〜2分の間に5回くらいの「!」がつく。

 ヨーロッパの鉄道の始発駅では、列車を並列で出迎えるこうした大空間が少なくないが、日本では珍しい。駅を出た先の軌道が高架になっているのは世界的にも珍しいのではないか。まるで空に向かって旅立つ銀河鉄道999のようだ。

 そして、いわゆる「鉄道」ではマネができない魅力は、「改札」がないことだ。路面電車はバスと同じで車内清算が基本なので、乗らない人でも近くで車体を眺めることができる。

 上のフロアの階段状テラスからも乗り入れを見ることができる。この施設を計画した人たちの路面電車愛があふれまくっている。

西日本旅客鉄道・広島電鉄・広島市の3者共同事業

 広島駅南口ビルは既存の建物を解体後、地上20階、延べ面積11万m2超の複合施設を建設するプロジェクトだ。建て替えの目的は大きく3つあって、「路面電車と大州通りの平面交差による交通渋滞」「バス乗り場の分散による利便性の課題」「待ち合わせ・回遊性など、陸の玄関としての魅力不足」の改善だ。

路面電車のルート図。これまでは駅の手前で左旋回していたが、新ビルでは赤点線のルートとなり、正面に直交する形で駅に向かう(「広島駅建替え計画 広島駅南口広場の再整備等」広島駅南口広場の再整備等 推進協議会作成から引用)
路面電車がビルに乗り入れる部分の断面(「広島駅建替え計画 広島駅南口広場の再整備等」広島駅南口広場の再整備等 推進協議会作成から引用)
そして、こうなった

 路面電車がビルの2階に乗り入れるのは、もちろん単に面白いからではなく、地上部のごちゃごちゃを解消するためだ。以前を知っている人ならわかるが、なるほどこれはかなりすっきりした。

既存の路面電車乗り場を撤去した跡地

 巨大プロジェクトなので、経緯を含めてちゃんと書けば何万字も書くべきことがある。が、とてもBUNGA NETの手には負えない。なので、1つだけポイントを強調すると、このプロジェクトの魅力を生み出してるのは、さまざまな“越境”であり、そのどれもが言われなければわからないほどスムーズにつながっている、ということだ。

 事業主は、西日本旅客鉄道と広島電鉄と広島市。建物は区分所有で、複雑に貫入し合う専有部には当然、境界があるわけだが、仕上げが連続していて全くわからない。例えばエキ×デンスクエアでは、ざっくりいうと箱自体は西日本旅客鉄道だが、広場的な部分は広島市、軌道や案内表示などは広島電鉄だという。

この表示板は広島電鉄の所有とのこと

 設計者は、基本設計がジェイアール西日本コンサルタンツと東畑建築事務所の、実施設計が大林組と広成建設だ。広島に拠点を持つSUPPOSE DESING OFFI CEが西日本旅客鉄道から依頼されてエキ×デンスクエアや屋上庭園などのデザインを監修したが、その分け目も言われなければわからない。

 工事的には建築と土木の分け目も相当デリケートであったはず。実はまだ完全には完成しておらず、海側にテラスや大きな庇が加えられる。

路面電車がビルに入るときの見え方。中央のY字の柱は、庇を架けるためのもの。庇は広島市が整備するが、柱は広島電鉄の軌道をまたいで立っている

 「みんなの建築大賞」は1つの建築が何度もノミネートされることはない。なので、大きく変わったこのタイミングで多くの人に知ってもらおう、ということで今回のノミネートとなった。この記事を読んで「いいかも」と思った方は、下記から投票していただきたい。広島市民の方もぜひ。(宮沢洋)

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所在地:広島県広島市南区松原町2-37/発注者: 西日本旅客鉄道、中国SC開発、ジェイアール西日本ホテル開発、JR西日本不動産開発/設計者:西日本旅客鉄道、ジェイアール西日本コンサルタンツ+東畑建築事務所設計共同体(基本設計・設計監理監修)、SUPPOSE DESIGN OFFICE(中央アトリウム空間・屋上広場:デザイン協力)、大林組+広成建設(実施設計・工事監理)/施工者:大林組/構造: 鉄骨造、一部鉄骨鉄筋コンクリート造、鉄筋コンクリート造、一部CFT/階数: 地下1階、地上20階、塔屋2階/延べ面積:11万3688.47m2(増築部分)/施工期間:2021年2月〜2025年1月(仮使用認定)/開館日:2025年3月24日