アーケード街にたたずむ地形のような建築、図書館などを融合した平田晃久氏設計の「ホントカ。」──みんなの建築大賞2025ベスト10から③

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 2024年7~9月に東京・練馬区立美術館で開催された建築家・平田晃久氏(平田晃久建築設計事務所、京都大学教授)による建築展「平田晃久─人間の波打ちぎわ」。同展を見ていくつか気になっていたプロジェクトがある。その1つが、新潟県小千谷市に完成間際だった「小千谷市ひと・まち・文化共創拠点 ホントカ。」だ。

 24年9月28日にオープンしたこの建築は、図書館や公民館、子育て支援施設などからなる複合公共施設で、住民から挙げられた100以上の活動をネットワーク分析することからスタートして平面を解いた。最終的に9つに集約された活動空間を「アンカー」と呼び、それらの関係性をネットワーク図に反映して平面配置を決めている。例えば、楽器の練習に使う空間は、イベントを開催することから考えれば広場の近くに置いたほうがいい。一方、書架を配した空間からは離したほうがいい、という具合だ。こうしたプロセスをコンピュテーショナルな方法で解いたという建築は、いったいどんな感じなのかとても気になっていた。

「小千谷市ひと・まち・文化共創拠点 ホントカ。」は、小千谷市街のアーケードから連続するように立つ。設計は平田晃久建築設計事務所(写真:以下は森清)
アーケードを曲がると屋根付き広場が現れる
アーケードに面した北側ファサード。楽器の練習などに使える「響アンカー」を配置した

 24年12月中旬、現地を訪れる機会を得た。JR小千谷駅から10分ほど歩き信濃川に架かる橋を渡ると、商店街のアーケードが見えてくる。アーケードに面したファサードは、知らなければ通り過ぎてしまうぐらいひっそりとしている。アーケードから曲がると屋根付き広場が現れ、徐々に存在感を増していく。エントランスを入ってインフォメーションコーナーを通りすぎると、その先に開架スペースが広がっている。南側にはガラス開口が続き、遠くに越後三山を望む。

 細長く延びる開架スペースは、フロートエリアと呼ばれている。フロートとは、動く書架や展示台を指す。書架を移動させることで、資料と資料の関係性を自由に組み替えられる。さらに、書架の移動によってオープンスペースをつくり、イベントを開くことも可能だ。開口に面した南東の一角はこどもとしょかんに充てている。

 フロートエリアに面して配されているのが、4つのアンカーだ。アンカーにはそれぞれの活動を象徴する漢字一文字の名前が付けられている。「知」「和」「博」「食」の4つで、例えば「知アンカー」は知の世界と出会い、没入していくことのできる場として、書架や閲覧テーブルが並ぶ。知アンカーの2階にはフロートエリアに面する形で、L字形に閲覧テーブルが連続している。ここからフロートエリアを眺めると、山谷形状の天井が連続しているのがよく分かる。これは新潟の地形や、麻織物である小千谷縮(おぢやちぢみ)を表現したものだ。天井の仕上げには不燃加工した和紙を用いている。

「知アンカー」の2階からフロートエリアを見下ろす。天井は周囲の山並みや信濃川の地形を逆さ吊りしたような山谷形状を持つ
「知アンカー」の2階に、フロートエリアに面して設けられた閲覧テーブル。天井は麻織物である小千谷縮(おぢやちぢみ)もイメージさせる。不燃加工した仕上げの和紙は安東陽子氏のデザイン
フロートエリアの南西の奥からエントランス方向を見返す。正面が「知アンカー」
フロートエリア。32台の書架が5本のレール上に配置され、企画内容に応じて移動して利用できるようになっている
「知アンカー」の2階。フロートエリアとは対照的に落ち着いた空間とされている

 平屋のフロートエリアを覆うようにルーフが広がり、ルーフの上から周囲の風景やイベントが眺められる。施設全体が信濃川の河岸段丘と一体化して土地に溶け込み、風景を取り込む。アンカーの関係性から導いたプランがそれと相まって、機能性も高い変化に富んだ空間を生み出している。利用者が自分の居場所を見つけられる建築だ。

 説明はこれくらいにして以下に、その他シーンの写真をまとめておく。ぜひ現地で空間を体験していただきたい。小千谷市は全国有数の豪雪地帯として知られており、雪を冠した姿を見るのもいいだろう。降雪状況を確認のうえ、出かけることをお勧めする。小千谷市から近い新潟県上越市には、平田氏の実質デビュー作である「桝屋本店」もある。

 ちなみに筆者は、実家のある長野市からJR飯山線を使って現地まで行った。この路線は3時間以上かかるうえ、大雪で列車が一部運休する場合もあるので、時間に余裕のない人は避けたほうがいいだろう。(森 清)

南側に続くガラスファサード
フロートエリアの南西に位置するブラウジングコーナー
南側の開口まわり。無垢の鉄骨柱を連続させている
南東に位置するこどもとしょかんのエリア。テキスタイルは安東陽子氏のデザイン
インフォメーションコーナーを通り過ぎるとフロートエリアの全容が見渡せる。右手は「和アンカー」
屋上には河岸段丘のような起伏を持たせている
屋上とつながる2階の「創アンカー」。中高校生などの若者が活動する場を想定している。
エントランスを入って左手に続く屋内広場
駐車場に面した北側ファサード
信濃川に架かる橋から望む。橋を渡って数百メートルの場所に「ホントカ。」が位置している

■投票はこちら→XInstagramGoogleフォーム

 第2回となる今回の「みんなの建築大賞」は、投票の参考として、ノミネート建築の設計者によるライブ解説の場を設ける(オンライン配信)。開催日時は2月1日(土)19:00~20:30。平田氏も出演予定だ。施設の規模順(小さい順)にしており、無料で登録も不要なので、2月1日(土)19:00になったら下記をクリックしてほしい。

YouTubeURL→https://www.youtube.com/live/XieqK9uJVRM

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