解体が決まっている旧香川県立体育館の再生活用を表明している旧香川県立体育館再生委員会が、8月26日に2回目の記者会見を開催した。

今回の会場はJR高松駅近くのJRホテルクレメント高松の小宴会場。用意された席は、新聞社や放送局の記者が20人ほど集まっていっぱいに。後ろにはテレビカメラが8台ほど並んでいる。関心の高まりがうかがえる。
2025年7月23日に行われた前回の会見では委員長、副委員長、理事の3人による会見だったが、今回はオンライン参加、VTR出演も含めて、登壇者が12人に増えた。登壇者は以下の通りである。
委員長:長田慶太(長田慶太建築要素代表)
副委員長:上杉昌史(経営戦略コンサルタント)
理事:青木茂(建築家/青木茂建築工房)
支援:後藤治(工学院大学総合研究所教授、文化庁文化審議会文化経済会建築文化ワーキンググループ座長)
支援:森俊子(ハーバード大学大学院教授/Toshiko Mori Architect PLLC建築事務所)※VTR出演
協力:斎藤公男(構造家/日本大学名誉教授)※オンライン登壇
支援企業:山口誠二(乃村工藝社ビジネスプロデュース本部)
支援企業:岡雄大(Staple代表取締役)※オンライン登壇
協力:中野優作(BUDDICA代表取締役)
協力:西山喬祐(弁護士)
協力:瀬口悠真(弁護士)
パブリックメッセージ:丹下憲孝(TANGE建築都市設計)※VTR出演
会見はテーマごとにその分野の専門性を備えた登壇者が発言するという形で進んだ。再生委員会が挙げた項目に沿って、要点をまとめてみよう。
まず委員長の長田氏が今回の会見を開くに至る経緯を説明。再生員会は8月5日、県に事業者の出資意向表明所や構造家による見解などの追加資料を提出したが、県側は提案の受け入れ拒否を通告、7日には解体入札の公告を行うに至る。
県のスタンスは「老朽化や耐震性がないことから、できるだけ早く安全を確保する」「平成26年の閉館以降、その在り方を慎重に検討してきた」「令和3年度に実施したサウンディング型市場調査で提案を求めたが、民間事業者による持続的な運営ができる利活用の提案はなかった」というものだ。
これに対して長田氏は、「慎重に議論してきたというが、議会でほとんど論じられていない。突然、解体の結論を出された」、「サウンディング調査をやったというが、たった2ケ月半の期間しかなく、実効性のある提案をつくることはそもそも無理だった」などと反論した。
続いて、耐震性の話。大地震の際に建物が倒壊し緊急輸送路をふさぐため早急に解体すべき、というのが県側の主張である。それに対して構造家の斎藤公男氏は、少し補強をすれば地震で崩れることは考えられないと説明。むしろ、解体の際にケーブルを切ることで、自重により崩れることの方が懸念されると言う。
次は事業性の話。ここではStaple代表の岡雄大氏が発言した。Stapleは尾道・瀬戸田、東京・日本橋、山口・長門などで、既存建物を再生したホテル事業を展開。資金の調達から開発、設計、運営、周辺のまちづくりまで、ホテルを通じて地域の活性化に一貫して取り組んでいる。旧香川県立体育館再生委員会には、ホテルに携わる複数の企業が事業参画を表明しており、そのひつとしてStapleが今回の会見に参加したとのこと。
岡氏はホテルへの転用が事業として十分に成り立つことを数字を挙げて説明。再生委員会で提案している案1(ブックラウンジ併設ホテル案)だと、初期コスト30億円のうち借入金は20億で、開業3年目から1.2億円超の収益が見込める。案2(1棟全体ホテル案)の場合、初期コスト60億円のうち50-60%を借り入れることになるが、開業3年目以降、4億円超の安定的な収益が見込めると想定する。(案1、案2については下記記事を参照)
また乃村工藝社の山口誠二氏もここで発言。乃村工藝社の創業が133年前の高松だったという縁に触れ、同社が関わった小学校をホテルへ転用した事例や、古民家をオーベルジュに活用した事例などから、空間活用の方法や助成金の認可取得などでノウハウを生かせるという。
ここで建築価値の再認識について、改めて触れられた。DOCOMOMO Japan、国立代々木競技場世界遺産登録推進協議会、日本建築学会、ニューヨーク近代美術館などから、保存・再生を求める嘆願書、要望書が出されていることをまず説明。そして、2人のビデオメッセージが流れた。

まず丹下健三アーカイブを所有するハーバード大学大学院の森俊子氏は、米国の研究者から香川県立体育館は丹下健三の作品の中でもマスターピースにあたるとの評価が上がっていることに触れ、これを再生できれば世界をリードする建築保存の例になりうると語った。また丹下健三の設計事務所を継承する丹下憲孝氏は、この時代の丹下健三作品の多くが壊されるかどうかの分岐点にあるが、公的な資金に頼らない民間の再生計画は新しい方法であり、ありがたい申し出である、と述べた。
テーマは、文化庁による支援の話へ移る。今回の会見で一番のインパクトと言えるのが、後藤治氏の登壇ではなかろうか。後藤氏は文化庁で登録文化財制度の導入に関わり、工学院大学の教授となってからも近現代建築の保存のあり方について、積極的に改革を推し進めてきた立役者だ。現在は、文化審議会文化経済会建築文化ワーキンググループで座長を務める。その立場から後藤氏は、近現代建築について、保存でも建て替えでもない第三の道が現在、探られているところであり、法制化を進めているところだが、それには時間がかかるので、旧香川県立体育館は先進的なケースとして重要文化財と同等の支援対象とすることを考えていると明かす。これが実現すれば、国内初の支援対象モデルとなるという。
世論と議員の状況についても報告が行われた。保存・再生を望むに署名が、県の内外から現時点で4万2135人も集まっている(8月26日時点)。また、アンケート調査でも、約70%の人が県に対して協議に応じるよう求めている。しかし、その一方で県議会議員に尋ねたものでは80%が無回答とのことで、まだまだ現状の方針を覆すには厳しい現状だ。
ここで地元県民の立場から、自動車販売会社のBUDDICA代表の中野氏が発言。県外から訪れる多くの知人が帰りがけに丹下建築に寄って帰る、残すべきという声がたくさん届いている、活用すれば地元経済にもプラスになる、いずれにせよオープンに議論してほしい、と述べた。
そして最後は、法的手段の話で、弁護士の西山氏が発言した。再生委員会が求めているのは、まず解体公告を止めて、県が協議の場に応じること。そのために、仮処分の申立てと住民監査請求を行うことを考えているという。

ここからは筆者(磯達雄)の私見である。
いったん決めたことは、その通りに進めるべきだ。それが大前提である。しかし根拠となるものが改まれば、判断を変えることは十分にありうるだろう。裁判の判決も、新しい重要な証拠が出てくれば再審の道が開かれる。
旧香川県立体育館の件で言えば、実績のある民間事業者の参画表明や文化行政からの支援の申し出が、その改まった根拠にあたる。戦後建築の保存再生を訴える活動はいろいろなところで取り組まれてきたが、これほど強力な後押しはほかに例がない。
加えて保存再生の外側に目を広げれば、建築界ではコンペを行なってつくると決めた設計案が、白紙に戻されるという事態を、幾度となく我々は見てきた。壊すと決めたものが、やっぱり止めたとなっても、それは十分に起こりうることだ。
旧香川県立体育館の運命について、注目したい。
なお、この会見の様子はYouTUBE(https://kpg-rebirth.jp)で見ることができる。
また、記者会見で示された資料は、旧香川県立体育館再生委員会のウエブサイト(https://kpg-rebirth.jp)からダウンロードできる。(磯達雄)
