2025年に創設100年を迎えた大成建設設計本部。本連載では、その名作・近作をリポートする。第10回は「イノベーション編」として、青森市の「カクヒログループスーパーアリーナ(青森市総合体育館)」を訪ねた。(宮沢洋)

今回、リポートするのは青森駅から南東方向に約3kmほどの「青い森セントラルパーク」内に誕生した「カクヒログループスーパーアリーナ(青森市総合体育館)」である。2024年7月1日にオープンした。最大5000人収容のメインアリーナ(約2000㎡)とサブアリーナ(約920㎡)、県内最大級のキッズルーム(約760㎡)、多目的室(約560㎡)ほか、公園内の公募対象公園施設としてスポーツジム、カフェで構成される。
メインアリーナとサブアリーナの間に、半屋外の屋根付き空間「ヨリドマ」があるのが特徴だ。防災の新たな拠点ともなる。

メインアリーナは、プロバスケットボール「Bリーグ」2部(B2)の「青森ワッツ」のホームだ。東京在住の筆者は、教えてもらうまで知らなかったのだが、すでに「第17回ふるさとあおもり景観賞」公共建築物部門で最優秀賞を受賞するなど、地元での認知度はかなり高いようだ。
国立競技場の設計担当者が再集結
設計したのは、隈・大成・川島設計共同企業体。大成建設で設計の中心となった3人が案内してくれた。

写真中央が大成建設設計本部設計プロジェクト・マネジメント部部長の川野久雄氏、右が建築設計第7部室長の堀川斉之氏、左が同第7部プロジェクトアーキテクトの高岩遊氏だ。
設計共同企業体の名称で「隈」とあるのは、隈研吾氏率いる隈研吾建築都市設計事務所。「川島」とあるのは、地元・青森市を拠点とする川島隆太郎建築事務所だ。
「大成建設と隈研吾氏」と聞くと、建築好きは2019年に竣工した「国立競技場」を思い浮かべるだろう。そのときの設計チームは、大成建設・梓設計・隈研吾建築都市設計事務所共同企業体だった。実は、このカクヒログループスーパーアリーナを担当した川野氏と堀川氏は国立競技場の設計にも参加していた。そのプロセスを通して意気投合していた大成建設と隈事務所のメンバーが、同競技場の竣工後ほどなく行われた公募型の事業プロポーザルで、「また一緒にやってみよう」ということになったという。そこに地元の気候や生活に詳しい川島隆太郎建築事務所が加わった。

「スーパーアリーナ」という名前を聞いて、非日常でスペクタクルな施設を思い浮かべていたのだが、実際に訪れた印象は全く違っていた。もちろん、Bリーグの試合などではスペクタクルなのだと思うが、訪れた日は大きなイベントのない平日だったので、穏やかで平和な日常だった。主役はキッズルームを楽しむ小さな子どもとその親たちだ。

まずは、大成建設からもらった資料の説明文(太字部)を引用しつつ、全体を見てみよう。
コミュニティの交流の核となる、環境型スポーツ施設
青森市の中心部に近い旧国鉄の操車場跡地を敷地に、スポーツコンプレックスと一体となった複合的な公園としてデザイン。南側の日当たりのよいオープンスペースのどこからでも八甲田山や連なる山々を望める開放型のスポーツ施設とした。



建物は公園を散策しながら自然と建物へつながる配置とした。外装は青森産のホタテ殻をアップサイクルした素材を用いており、景観になじむやわらかく穏やかな茶系色をベースに、白く輝くホタテ殻のかけらが表情に奥行を加えている。

平面計画は、公園を縦断する庇付きの『コミセ』からつながる屋根付き広場『ヨリドマ』に、各機能が面するストリート型の構成とした。

ヨリドマからは主要空間であるメインアリーナ、サブアリーナ、エントランスホールへとダイレクトに出入りができる。ヨリドマに面する可動建具を開放すると、2つのアリーナを貫通し、人工芝のイベント広場につながる最大奥行140m、街区規模の一体的空間が現れる。スポーツやコンサート、お祭りなど、様々なイベントへの柔軟な対応が可能な空間となる。

コミセの天井には、地元産の木を使ってひとつながりに編み込む『リンゴかごパターン』を施した。ヨリドマにも同様のパターンを展開し、ウォーカブルでインティメートな空間構成とした。
外装だけでなく、内装にも木材を活用し、温かみと親しみやすい室内コーディネートとしている。メインアリーナの天井は鉄骨梁下端に杉集成材を使用し、Y字ブレース側面と柱側面もスギ材により仕上げ、2階ランニングコース上部の壁面にも音響を考慮した杉材の木ルーバーを設置。

サブアリーナにおいても針葉樹の合板を活用した内装とし、ガラス越しに広場が見渡せる計画とした。1階のコネクトホールには、青森のねぶた師、北村麻子氏作成のリンゴの照明が設置されており、にぎわいを演出している。


事業プロポーザルならではの運営面のイノベーション
事業プロポーザルなので、大成建設は代表企業としてソフト面の提案にも初期から関わっている。正確に言うと、この事業はPark-PFIとDBOを併用したもので、公園内に青森市アリーナ(募集当時の名称)とPark-PFIによる収益施設(公募対象公園施設)を建設し、併せて園内に緑地や広場、駐車場などの特定公園施設を整備するという条件。完成後は公園全体の維持管理・運営を担う。応募した3グループの中から最優秀提案者に選ばれたのが、大成建設を代表とするグループだった。
<最優秀提案者>
代表企業 大成建設東北支店
構成企業 川島隆太郎建築事務所(地元企業)
構成企業 藤本建設(地元企業)
構成企業 豊産管理(地元企業)
構成企業 オカモト
構成企業 青森放送株式会社(地元企業)
協力企業 隈研吾建築都市設計事務所
協力企業 青森市緑化事業協同組合(地元企業)
協力企業 アール・エー・ビーサービス(地元企業)
協力企業 AKcompany(地元企業)
協力企業 MiK(地元企業)
事業主体として市と契約した「青森ひと創りサポート」は、大成建設、オカモト、豊産管理、青森放送、川島隆太郎建築事務所、藤本建設の6社が出資。役割分担としては、設計を前述の3社JV、施工を大成建設と藤本建設、完成後の運営や維持管理をオカモト、青森放送、豊産管理などが担う。運営の契約は2024年4月から15年間だ。
昨今、各地の大型スポーツ施設で、「イベントのない日」の使い方がさまざまに模索されている。平日のこの施設の使われ方を見ると、“運営面でのイノベーション”はかなり成功しているように見えた。


国立競技場の「木・鋼ハイブリッド」を応用
“技術面でのイノベーション”はいろいろあるのだが、大きく3つ挙げておきたい。
1つ目は「ヨリドマ」の木・鋼ハイブリッド部材だ。ヨリドマの陸屋根を支える架構は、メインアリーナ、サブアリーナと一体の構造となっている。トラス下弦材を斜交配置した木・鋼ハイブリッド部材で構成され、地震時の水平力を伝達する役割を果たす。

下弦材にはBT形鋼を用い、ウェブの両面から集成材で挟み込んだ木・鋼ハイブリッド部材とした。それにより、圧縮耐力および軸剛性を向上させている。これは国立競技場の屋根架構を応用したものだ。




2つ目は、メインアリーナとサブアリーナがヨリドマを介して大開口でつながること。メインアリーナはヨリドマ側の面(南側)の半分程度が可動フラッシュ戸で、スライド開閉できる。サブアリーナはヨリドマ側(北側)がすべて可動ガラス建具だ。しかも、ヨリドマと段差がない。イベント時に一体利用が可能だ。イベント広場に面した南側の半分程度も可動ガラス建具で、こちらも屋外と一体利用ができる。





3つ目はヨリドマの西側に用いた「かっちょ」。かっちょとは、地元の集落家屋や街道を地吹雪から守るために冬の間だけ現れる仮設的な板塀を言う(参考→こういうもの)。季節に応じて形態を変化させる工作物で、春が来れば取り外し、夏は爽やかな風が抜ける。先人から受け継がれる地元の叡智だ。
この発想を基に、夏の卓越風の方向に大きく開いて爽風をヨリドマに取り込み、冬は閉じて穏やかな空間に整える仕組みとした。





「産みの親がほぼ同じ」「技術の一部を継承している」という意味では、このアリーナと国立競技場は“兄弟”といえる。だが、瓜二つの兄弟ではない。こちらはこちらで北国の体育施設の今後に影響を与えそうな“できる弟”に見えた。(宮沢洋)
■建築概要
カクヒログループスーパーアリーナ(青森市総合体育館)
所在地:青森県青森市大字浦町字橋本335-17
発注者:青森市
設計:隈・大成・川島設計共同企業体
監理:隈・川島工事監理共同企業体
施工:大成・藤本特定建設工事共同企業体
敷地面積 :5万1547.12㎡
建築面積 :9792.71㎡
延べ面積:1万2063.17㎡
構造:鉄骨造 一部鉄筋コンクリート造
階数: 地上3階
竣工:2024年3月


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