パルテノンはなぜ美しいのか? 佐々木睦朗氏との共著『構造の美、建築の美』から「前略、アテネにて」を全公開!

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 「構造家・佐々木睦朗と画文家・宮沢洋によって、建築構造の歴史と技術の流れをビジュアルに俯瞰できる1冊」──という力強い売り文句の新刊が盆休み明けに発売になる。タイトルは画文でわかる 構造の美、建築の美だ。(アマゾンなどで予約受付中

カバーの検討段階でつくったイメージビジュアル。なかなかの出来なので、蔵出し。左上の似顔絵は佐々木睦朗氏。他の似顔絵は実際のカバーを参照(写真・イラストとも宮沢洋)
『画文でわかる 構造の美、建築の美』佐々木 睦朗(文)、宮沢 洋(画)、. 120ページ、 2,530 円(税込)

 自分の単著は自画自賛になってしまうので言いづらいが、この本は「間違いなく面白い」。言い切れるのは、佐々木睦朗氏の原作がめっぽう面白いからだ。構造家の佐々木氏が構造の枠を越えて「建築の美」について真正面から論じているのである。

本書の序盤の一部

 この原作をイラスト化した経緯については同書の「はじめに」に書いたので、発刊記念としてまるっと引用する。

はじめに──「前略、アテネにて」

 本書は、「画文でわかる」シリーズの第3弾である。今回は、構造家の佐々木睦朗氏が2003年に『「建築学」の教科書』(共著、彰国社)のために書いたテキスト「建築は美しい―技術と芸術の融合」を原作とし、画文家の宮沢洋がイラスト化。佐々木氏へのインタビューを「補講」として加えてまとめた。

 この「はじめに」を書いているのはイラスト担当の宮沢である。理由は後述するが、今、ギリシアのアテネでこれを書いている。

佐々木睦朗氏が建築の美の規範として挙げる「パルテノン神殿」。行ったことがある人はわかると思うが、写真で想像するよりずっと大きい。内陣が破壊された“廃墟”の状態だからこそ、技術力が伝わるようにも思える(2025年6月撮影、写真:宮沢洋)

 「画文でわかる」シリーズは、専門教育を受けずに“重度の建築好き”になってしまった筆者(宮沢)が、「建築を面白く感じるスイッチ」となる本をつくりたいと出版社に持ち掛けて実現した。なので、専門情報のノウハウ書ではない。

 第1弾は、建築家兼建築史家である藤森照信氏のテキストをイラスト化した『モダニズム建築とは何か』。これは筆者が会社勤めだった時代に、藤森氏の著作『人類と建築の歴史』(筑摩書房)に感動。特に面白かった第6章「二十世紀モダニズム」を取り出してイラスト化したものだ。

 第2弾の『建築超入門[歴史と創造]』はイラスト・文章ともに筆者が書き下ろした単著である。これは時系列に建築の歴史を学ぶのではなく、“話題頻度”の高い順に歴史を知りたい、という筆者の経験をベースに書いた。

 この2冊までは、出版社に企画を持ち込んだときに決めていた。2冊目の執筆が進み、3冊目をどうしようかとなったときに、編集担当であるKさんに薦められて読んだのが、佐々木氏のテキストだった。これが載っている『「建築学」の教科書』という本は、前述の藤森氏も寄稿しているし、安藤忠雄氏や内藤廣氏といったスター建築家の名も並んでいる。2003年に発刊されたとき、すぐに手に取った。だが、失礼ながら佐々木氏の部分は記憶がない。

 読んでびっくりした。「構造設計の心得」が書いてあるのかと思ったら、「構造の美」あるいは「建築の美」を真正面から論じているではないか。

 これはぜひやりましょう、とすぐに担当Kさんに答えた。構造を説明しているのに決してノウハウ書ではなく、主眼は“これから建築に向き合う人の姿勢”を説くものだ。書きぶりもわかりやすい。まるでこのシリーズのために書かれたようなテキスト。どストライクだった。

 もしかしたら発刊当時も読んだのかもしれない。そうだとしたら、筆者があらためて読んだタイミングがよかった。1週間ほどバルセロナに滞在し、アントニ・ガウディの建築を見て回った後だったのである。

巻末のインタビューページのイラストの1枚(イラスト:宮沢洋)

 本書の巻末のインタビューで、佐々木氏が憧れのフェリックス・キャンデラに「ガウディが苦手だ」と口をすべらせ、怒られたエピソードを語っている。これには笑った。そして共感した。筆者も嫌いというほどではなかったが、「ガウディってどうなのよ」くらいに思っていた。しかし、実物を見て回った後は、とても呼び捨てにはできず、「ガウディ先生」と言っている。そのすごさは佐々木氏が本書で書いている一言一句まさにその通りである。

逆さ吊り実験をベースに設計された「コローニア・グエル教会堂」の入り口部分。柱は斜めに立つ。天井面はアントニ・ガウディが初めて双曲放物面を建築に用いたものとされる
(2023年7月撮影、写真:宮沢洋)

 イラストを描く作業はとても楽しかった。佐々木氏の名誉のために言っておくが、それぞれのイラストは佐々木氏が細かく指示を出しているのではなく、筆者が「ここはこういう絵がほしい」という絵を専門書やWEBで調べて勝手に描いている。「美」をテーマにする本なので、どれも美しい。断面を切っても、部分を取り出しても美しい。

あの安藤忠雄氏が若き日に何度も訪れたという「パンテオン」。無筋のコンクリートで直径43 mの巨大な半球をつくる構造技術もすごいが、ガラスのない天窓から入る雨を排出する設備技術もすごい(2025年6月撮影、写真:宮沢洋)

 佐々木氏やKさんのサポートもあって、今までにない本になったのではないかと思う。ただ、一つ問題があった。資料だけでイラストを描いたパルテノンやパンテオンがどうしても見たくなったのだ。本書を読んで、あなたが筆者と同じ気持ちになることを願っている。(宮沢洋)

『画文でわかる 構造の美、建築の美』
佐々木 睦朗(文)、宮沢 洋(画)

発行:彰国社
A5変型判 縦208mm 横150mm 厚さ11mm 重さ 220g 120ページ
定価 2,300 円+税 2,530 円(税込)
ISBN978-4-395-32223-7

目次
第1章 建築の美とは何か
1-1 桂離宮と日光廟(びょう)の建築美について考えてみる
1-2 語源をたどると「技術は芸術である」

第2章 古典建築の技術と芸術
2-1 建築はどのようなプロセスでつくられるか
2-2 建築の最大要素は「機能と構造と美しさ」
2-3 さまざまなメッセージを投げかけるパルテノン神殿
2-4 石の柱は木製のダボで地震時の横力を吸収
2-5 微妙なむくりや斜めに立つ柱も

第3章 近代建築の技術と芸術
3-1 エンジニアリングが生み出す建築の登場
3-2 近代のモニュメント―エッフェル塔
3-3 ヴィオレ・ル・デュックが近代建築に与えた影響
3-4 ヴィオレから構造合理主義を継承したガウディ
3-5 永劫(えいごう)のカテドラル―サグラダ・ファミリア大聖堂

第4章 20世紀の近代建築へ
4-1 あのグロピウスですら、細い部材になじめず
4-2 鉄骨軸組構造で完全な建築美を実現したミース
4-3 地震にも耐えるファンズワース邸の構造

第5章 再び建築の美について
5-1 美の判断基準を持つ重要性
5-2 建築の美は歴史のみがその真実を語りうる

補講
佐々木睦朗塾長に聞く
キャンデラに怒られ、ガウディに目覚める―「シェル」をめぐる私の冒険

おわりに 佐々木睦朗