11月に入った。今月中には旧香川県立体育館の解体入札の結果について何らかの動きがあるとみられている。現時点では合田工務店が約8.5億円で落札し、県議会の議決を待つ状態。県議会の定例会は年4回で、おおむね2月、6月、9月、11月に開会される。大きな波を控えたいま、旧香川県立体育館再生委員会代表、長田慶太氏のインタビューを掲載する。前編からの続きだ。(聞き手は宮沢洋)


■旧香川県立体育館再生委員会の主要メンバー
委員長:長田慶太(長田慶太建築要素代表)
副委員長:上杉昌史(経営戦略コンサルタント)
理事:青木茂(建築家/青木茂建築工房)
支援:後藤治(工学院大学総合研究所教授、文化庁文化審議会文化経済部会建築文化ワーキンググループ座長)
支援:森俊子(ハーバード大学大学院教授/Toshiko Mori Architect PLLC建築事務所)
協力:斎藤公男(構造家/日本大学名誉教授)
支援企業:山口誠二(乃村工藝社ビジネスプロデュース本部)
支援企業:岡雄大(Staple代表取締役)
協力:中野優作(BUDDICA代表取締役)
協力:西山喬祐(弁護士)
協力:瀬口悠真(弁護士)
──チームの中に、リファイニング建築で知られる青木茂さんが入っていますが、どういう経緯でメンバーに?

長田慶太(以下同):乃村工藝社の方が紹介してくれました。青木さんと何かのプロジェクトを一緒にやっていたと聞いています。
──青木さんをチームに巻き込んだのは、再生のリアリティとして力強いなと思いました。ただ、これはちょっと言いにくいのですが、長田さんも建築家ですから、再生案は自分でつくりたいという葛藤みたいなものはなかったのですか。
いいえ、全く。僕は最初から、活動の軸になる人は設計すべきじゃないと思っていました。自分の名前のためにこの活動を使うような姿にすべきじゃないと。
──それは素晴らしい。
青木さんが力を貸してくれることになったのは、本当に良かったです。青木さんがつなげてくれたネットワークも大きい。

──県に提出した提案書の「案①」、「案②」というのは、実際に興味を持ってくれた事業者が違うんですか。

はい、会見ではStapleさんだけ名前を出す了解をもらいましたが、名前が出せない何社かの要望を反映してつくったものです。東京の人がよく名前をご存じの会社もあります。その会社は全部ホテルにするパターン(案②)を希望されました。客室が30室くらいです。

もう1つの案は、やはりホテルとして使いますが、そこまで客室数がなくても収益が取れるということで、上はブックラウンジにすればほとんど体育館のままでいいだろうという案です。
──耐震補強も民間側でするんですよね。
もちろんです。県のサウンディング調査の前に、18億円という数字が出されましたけれど、僕らが読み解いていくと5億円ぐらいで直すことができそうです。
「耐震診断書」が解体へのきっかけと後押しになっていくことに危機感を持っているんですよ。耐震改修促進法というのは、阪神淡路⼤震災の後にできた法律です。建築を残すためにつくった法律なのに、あちこちで壊すべき理由として使われるようになっている。この体育館の問題に限らず、それも⽌めたいんです。
──オールスター体制ですよね。
この体育館の本来の力そのものが皆を動かしているように感じます。
構造は斎藤公男さんが協⼒してくれています。先⽇は、和⽥章さん(東京科学⼤学名誉教授)が⾒に来てくれました。
──知事は建物が折れて緊急輸送道路をふさぐと言っています。
耐震診断のIs値もラーメン構造であれば、比較的正確に出せると思うんですが、ああいう複雑な形の建物で、ルート1の2次診断までで本当に梁が持つのか持たないのかを判断することは難しい。そのレベルの診断を根拠に解体することになったら、「耐震改修促進法は一体何のための法律なのか」ということになりかねない。
BUNGANET編集部注(青字部):香川県は旧香川県立体育館が大地震で倒壊する危険性を解体の理由としており、その根拠としているのは、2012年、丹下都市建築設計(現TANGE建築都市設計)に委託して行った耐震診断である。
この診断では、建物の耐震性能を示すIs値(数値が大きいほど耐震性能が高い)が、1階でX方向0.501・Y方向0.475、中2階でX方向0.516・Y方向0.517と、安全の基準となる0.54よりも低い。2階はこれをクリアしている。

建築関係者ならばわかると思うが、耐震改修を急いでいる建築物は、たいていIs値が0.3台とか0.2台とか著しく低い。例えば、惜しまれながらも解体されてしまった羽島市旧本庁舎(設計:坂倉準三)のIS値の最低値は0.245だった。
地元のKSB瀬戸内海放送が旧香川県立体育館の耐震診断の資料を情報公開請求で入手して調べたところ、「災害時の輸送確保は可能」とされていたことが判明。また、KSBがTANGE建築都市設計に取材したところ、「地震によって建物にどのような被害・損害が生じるかについては耐震診断書で具体的な言及はしていない」という回答が返ってきたという。(KSBの報道はこちら)
──建築界全体として声を上げるべき問題だということですね。
はい。僕らもそういう視点から、国土交通省にも働きかけたいと思っています。
──文化庁出身の後藤治さんがああいうところに出てくれるんだというのもかなりびっくりしました。
僕もです(笑)。最初はそんなつもりはなかったんですよ。知人の紹介で後藤さんとちょっとオンラインで話ができる、みたいなところからだったんです、後藤さんの方から「これは日本初のモデルケースになりえる」と提案がありました。
──最初の会見は名前だけでしたが、第2回の会見ではご本人の姿がありました。

1回目の会見で県の反応が鈍かったので、2回目の記者会見は自分も行って発信するということで出られたという流れです。
──今後はどういうことになりそうでしょうか。もう1度議会で議論される可能性はあるんですか。
最後の11月の定例議会は「議決」なので、たぶん議論はありません。現在、住民監査請求を行っており、その結果によっては住民訴訟や仮処分の申立ても予定しています。これらの手続きを通じて、議会での議論や工事の中止を求めていくことになります。
あとは、国土交通省とか文化庁とか、そういう方向への働きかけでしょうか。
ChatGPTに聞いてみても、ここから逆転で勝った例が見つからなかったんですが、やれることをやっていきます。

それと、何よりも一番大きいのは民意です。皆さんの声が大事です。

──大メディアは首長の学歴詐称とかホテル密会とか、そんな話題を全国ニュースであんなに流している場合なのか、と思います。BUNGA NETは今後も注目していきます。
ありがとうございます。もちろん残せるという結末に行き着けるのが一番いいのですけれど、もしできなかったとしても、さきほど話した“耐震改修促進法の拡大解釈”みたいな流れに、どうにか一石を投じることができなかと思っています。
前編を読む↓。
