今年4月に岡山市の中心部に開館した現代美術館「ラビットホール」を見てきた。設計者は青木淳氏(AS共同主宰)だ。

青木氏の良さがわかりやすく発露しているキレキレの建築だった。この夏にはるばるヴェネチアまで見に行った青木氏の日本館展示がなんだかよくわからず、以来悶々としていたので(見る者の能力によると思う→リポートはこちら)、ラビットホールでは展示室に入るなり「これぞ青木淳!」と小躍りした。
以下、開館時のプレスリリースから概要を引用する(太字部)。
★石川文化振興財団初の現代美術館「ラビットホール」が岡山中心部に 4月6日開館!
この度、公益財団法人石川文化振興財団(本部:岡山県岡山市中区住吉町、理事長:石川康晴)は、岡山城や後楽園、林原美術館などが立地する岡山市中心部のカルチャーゾーンである北区丸の内に、財団として初となる現代美術館「ラビットホール」を新たに開館します。

■「イシカワコレクション」を常設展示する新美術館で開館記念展を開催
2011年から蒐集を開始した現代美術のプライベート・コレクション「イシカワコレクション」は彫刻や大型インスタレーションをはじめとした国内外のコンセプチュアルアートで構成され、現在で総数約400点を数えます。この美術館はそれらの貴重な「イシカワコレクション」がいつでも見られる場所となります。

■林原家の旧文化施設を建築家青木淳がコンバージョン改修
建築は、元々岡山で絵画や工芸品を蒐集した実業家の林原家(株式会社林原 ※現ナガセヴィータ株式会社)がゲストハウスとして建てたルネサンスビルで、近年は岡山映像ライブラリーセンターとして使用されてきたものです。
この既存建築を、この度、青木淳の手によって美術館へとコンバージョン改修しました。場所が持つこれまでの歴史や当財団のビジョンを織り込み、新しい価値観を常に提示し続ける現代美術というジャンルに特化した空間として、”work in progress”で壊されていく過程をもコンセプトとした、生きた美術館が誕生します。

■ラビットホールディレクター体制について
異なる専門性とネットワークを有す4名から成る「ディレクター・コレクティブ」によって美術館づくりに取り組みます。
黒澤浩美(くろさわひろみ)ディレクター/ボードメンバー
青木淳(あおきじゅん)ディレクター/ボードメンバー
那須太郎(なすたろう)ディレクター/ボードメンバー
石川康晴(いしかわやすはる)ディレクター/ボードメンバー、公益財団法人石川文化振興財団 理事長

■建築について 青木淳コメント
2023年1月、「岡山映像ライブラリーセンター」を、石川さんのコレクションのための展示空間に改修する相談を受け、建物を拝見しに、岡山に伺いました。もともとは、林原美術館のアネックスとして、1990年代に建てられた建築で、林原美術館の庭から直接、アクセスすることも可能なつくりでした。
魅力的だったのは、この建築が建つ敷地が、林原美術館の敷地より1階分低く、その段差が石垣になっていたことで、1階の奥の大きな開口の先にすぐのところに、それが見えることでした。建物自体は、西洋古典建築を模したポストモダンスタイルの建築で、展示空間として使用するには余計な装飾が多かったので、仕上げを剥いで、まずは裸にする必要があるだろうと考えました。


普通なら、一度裸にした上で、そこに展示用の壁などを建てていくわけですが、しかしここではそれをやめて、展示空間として使用するのに、法的また物理的に、最低限必要なことだけをすることにしました。展示のたびに、必要なら壁を立てれば良いし、場合によって床に穴を開けるなど、アップデートし続ける空間になる方が良いと考えたからです。





期待しているのは、そうやって、次第にこの建物が壊されていき、最後には建物全てがなくなる、という未来像です。そういう意味では、その空間には「完成」という概念はなく、ずっとwork in progressの、しかも作られていくのではなく壊されていく過程を生きる空間としようとしたということになります。
そうなのか…。てっきり戦前の由緒ある洋風建築を改修したのだと思っていたのだが、「1990年代に建てられた」「西洋古典建築を模したポストモダンスタイルの建築」だったとは…。
ちなみに、改修する前の「岡山映像ライブラリーセンター」はどんなだったのだろうと思って調べてみたら、なかなかにキッチュな感じだった(ご興味のある方はこちらの記事を)。

改修によって格段に知性が増しているが、外観についてはドラスチックに変わっているわけではない。もし自分が設計者だったら、まず、外装をゼロから変えてしまうと思う。そうではなく、「あえて変えずに変えている」のがすごい。正直に言うと、中に入る前は外観にはピンとこなかったのだが、中を見て「すごかった」という強い印象が残り、外観の当初の印象が上書きされてしまうのだ。


青木淳氏の美術館といえば、「青森県立美術館」(2005年)と「京都市京セラ美術館」(2019年)だ。磯崎新アトリエ時代の「水戸芸術館」を含めても“本塁打率10割“。今回のラビットホールもそれらに匹敵する、あるいは「それらを経験したからこそできた美術館」だと言ったら褒めすぎだろうか。
■「ラビットホール」施設概要
施設名称:ラビットホール(英語名:Rabbit Hole)
一般開館日:2025年4月6日(日)
住所:岡山県岡山市北区丸の内2丁目7-7
開館時間:10:00〜17:00(16:30 最終入場)
休館日:月・火・水曜日(但し祝日の場合は開館)、および年末年始(12月28日〜1月3日)、展示替期間
入館料:大人1,500円(18歳以下無料)

ところで、次回の「みんなの建築大賞」が近づいてきたが(2026年2月頭に一般投票予定)、今年は美術館の新顔が多かった。「万博しか思い出せない」という人のためにBUNGAの記事をおさらいしておく。どれも力作。 (宮沢洋)
■鳥取県立美術館
■横浜美術館リニューアル
■直島新美術館
