全国いろいろな建築を見て回っているが、こんなに「見たぞ!」と自慢したくなる建築は久しぶりだ。
早稲田大学西早稲田キャンパス(東京都新宿区大久保)の「52・53・54号館建替工事」のうち、52号館の増築部がほぼ完成した。工事中から気になっていた“あの部分”はこうなっていた!


早稲田大学は「2032年に早大創立150年」、「2033年に理工創設125年」を迎えるにあたり、西早稲田キャンパス(建築学科などの理系校舎が集まる)の再整備を10年計画で進めている。
その第一期となるのが、「52・53・54号館建替工事」で、2020年に指名プロポーザルで選ばれた日建設計が設計を担当している。2023年9月に着工。工期は約5年で、2028年11月頃に完成の予定だ。先行して工事を進めていた西端の52号館は今年4月から利用を開始する(研究室などはすでに使用している)。1つの節目ということで、プロポーザル時の中心となった亀井忠夫会長と、実施段階の中心となっている設計部門設計グループダイレクターの團野浩太郎氏に案内してもらった。

このプロジェクトについては、さすがは早稲田大学!と言いたくなる建築的にかなり詳しい公式サイトが存在しており(https://www.waseda.jp/top/news/93550)、そこからポイントとなる部分を引用させていただく(太字部)。通常書体の細字や写真キャプションは筆者の補足である。
新52・53・54号館の特徴
<配置とスパンの継承>
大隈記念講堂の塔の伝統に呼応し、理工学部の新しさの象徴として、さらにキャンパスの建物構成の核としてキャンパス中央に51号館(注:1967年に竣工した18階建ての高層棟のこと)は配置されています。
この51号館とその建物群にはキャンパスを設計した安東勝男教授(注:建築家の傍ら、長く早稲田大学理工学部建築学科で教育に当たった/1917~1988年)の思想が深く刻み込まれています。

このたび、一連のキャンパス再整備計画を検討するにあたり、二面採光の教室やその構造が極めて特徴的である現52号館を、生きた教材:ヘリテイジとして残すこととしました。

この52号館の空間性の基軸となる通り芯寸法(スパン)を下敷きとして継承します。2,300mmのスパンを踏襲することで空間スケールとシステムの保存へつながる第一歩として考えています。
既存52号館を跨ぐように新52号館を増築します。




構造は既存52号館を挟んで立つ新設コアを結ぶ最上部のハンガートラスから各階床を吊り下げる架構形式とし既存52号館に荷重をかけないダイナミックな構造を用いて既存52号館自体をヘリテイジとして残す計画です。

既存52号館上部4階に設けられるラーニングコモンズです。
学生(学部生を中心とした)院生・教職員が自然と交流する西早稲田キャンパスの新たな学生の居場所となります。





<仮設校舎なしの計画>
学生にとっての重要な4年間(または6年間以上)過ごすことになるこのキャンパスを整備するにあたり、建設工事期間は、短くても9年になります。学部生が大学院修士課程に進学したとしても、そのキャンパス生活は6年間です。そのためこのキャンパス整備にあたっては、入学して仮設校舎で学び、仮設で学生生活を過ごし、卒業してしまう学生がいること、しかも数年間に渡りその状況をつくりだしてしまうことは避けるべきと考えました。
本来の教育空間で本当の教育を受けるべく、仮設教室なし、かつ今建っている52号館を使いながらのローリング計画とします。

<5つの空間性の保存と再解釈>
「51 号館(塔)を核とした建物群の構成」、「中庭とそれを構成する校舎配置」、「規律あるキャンパスグリッド」、「バッファーゾーンとしての隙間空間」、「ネットワーク動線(立体街路)」を個々に解くのではなく、総合的に再解釈し新たな空間として提案します。
正門と51 号館の中心性から計画建物配置を検討し、旧52 号館の通り芯(2,300 mm)を踏襲し、各建物との接続、特徴ある4F(パークフロア)の230 mの連続空間などはいずれもこの5つの空間性の保存と強く結びつきます。(中略)

最終的に第2期59号館完成後に4階パークフロア(延長230m)が完成し、西早稲田キャンパスのアメニティ空間として新たな学生・教員・研究者の集いの場を創出します。
この4階の壁面緑化も環境に配慮した 緑化計画の一つとなります。

既存52号館はこれから“画竜点睛”
起工式での亀井氏の挨拶も公式サイトに載っていたのでこれも引用する。
本日、総長の田中(愛治)先生ご臨席のもと、早稲田大学「西早稲田キャンパス52・53・54号館建替計画」の地鎮祭が、厳かな雰囲気の中、滞りなく執り行われ、いよいよ着工の運びとなり、誠におめでとうございます。心からお慶び申し上げます。
弊社はこれまで早稲田大学様より、総合学術情報センター、14号館、8号館、早稲田大学高等学院 普通教室棟・講堂棟・体育館、早稲田大学本庄高等学院 体育館の設計監理をご下命頂き、さらにこの度、52・53・54号館建替計画もご下命頂きました。この場をお借りして改めて御礼申し上げます。
2020年に本計画のプロポーザルコンペが行われました時、世の中はコロナ禍の真っ只中でした。小生も参加させて頂きましたプレゼンテーションでは、全員マスク着用でした。弊社をご特定頂きました後、そのようなコロナ禍の環境下で、人と人がリアルに集うことの意味を真摯に問いながら設計を練って参りました。「大学は授業を受けるだけの場所ではなく、教員や友人と出会う場所。ともに集い、学ぶ場所である」。聞きなれたことばではありますが、当時はそのことの重要性がより一層強く感じられました。




今回、ヘリテイジとして保存する52号館は、安東勝男先生や松井源吾先生の設計による建築ですが、合理を突き詰めた設計がなされており、私もそこで授業を受け多くを学びました。この52号館そのものをヘリテイジ、生きた教材として残すことに強い意味があると思っております。まさに百聞は一見に如かずです。



今回の計画では、その既存52号館を含む低層教室階と高層研究室階の間に「パークフロア」と名付けた開放的で緑にあふれた空間を配置しました。ここにカフェテリアやラーニングコモンズを設けました。この「パークフロア」で学生、教職員がくつろぎ、議論し、知が育まれる場所になればと願っております。田中総長先生が「文理横断」ということを強く仰っておられますが、この空間が様々な意味での「横断」に寄与することになればと思います。

計画や設計中は絶えずキャンパス企画部のご関係の方々から、懇切なご指導とご助言をいただきました。ここに改めて厚くお礼申し上げます。
今回、既存52号館を残して使用しながらその上部に新築するというたいへん難しい工事になります。私どもは引き続き監理を担当させて頂きますが、工事を担当される清水建設様をはじめ、九電工様、新菱冷熱工業様、城口研究所様の皆様と力を合わせ、期日までに品質の高い建築をお引き渡せるよう、鋭意励んで参る所存です。引き続き、ご指導とご鞭撻の程、よろしくお願い申し上げます。(亀井忠夫、2023年9月18日)
■西早稲田キャンパス整備 第1期 概要(予定)
所在地 東京都新宿区大久保3-4-1
施設名称 早稲田大学/西早稲田キャンパス52・53・54号館(仮称)
敷地面積 44,353.82㎡
建築面積 4,170.30㎡
延べ面積 27,058.10㎡
高さ 39.99m
階数 地下2階/地上9階
構造形式 鉄骨造・鉄筋コンクリート造、鉄骨鉄筋コンクリート造
建築主 学校法人早稲田大学
総合監理 学校法人早稲田大学キャンパス企画部
設計監理 日建設計
施工 清水建設
電気設備工事 クラフティア
空調設備工事 新菱冷熱工業
衛生設備工事 城口研究所
工事期間 2023年7月上旬から2028年11月下旬
主な利用者 早稲田大学理工学術院所属の学部生、大学院生、研究者、教職員

保存された52号館を設計した安東勝男は1967年、同館を含む「早稲田大学理学部校舎」において構造家の松井源吾とともに日本建築学会賞作品賞を受賞している。もし新52・53・54号館が同賞を受賞したら、同一建物での二度目の受賞となる。史上初。理系ではないが早稲田OBの1人としてそんなことを夢想してしまう。続きが楽しみだ。(宮沢洋)
