来春発刊に向けて、『TOKYO名建築図鑑』(仮題)という本を書いている。イラスト+写真の建築ガイドだ。その執筆のために、かつて見た都内の名建築をあちこち改めて見て回っている。
その1つとして訪れた八王子市の「大学セミナーハウス」で、「ユニットハウス復元プロジェクト」というものが行われていることを知った。今回の日曜コラムは、それについて書きたい。(実は、館の人にも「書いてほしい」と言われたので…)

多摩丘陵の森の中に大学セミナーハウスが開館したのは1965年。発案者は国際基督教大学の職員だった飯田宗一郎(1910~99年)だ。飯田はマスプロ教育が行われている日本の大学に疑問を持ち、「寝食を共にしながら議論し学ぶ、合宿研修センターのような施設をつくりたい」と募金行脚。多くの大学や経済人の協力を得て実現した。
設計は早稲田大学教授であった吉阪隆正と、吉阪が主宰するU研究室のメンバーが担当。段階的につくられていった。



1期(1965年):本館、宿泊棟(ユニットハウス)100棟、中央セミナー室、サービスセンター、職員宿舎。
2期(1967年):講堂、図書館。
3期(1968年):教師館(松下館)。
4期・5期(1970年):長期研修館(現・長期館)、大セミナー室(長期館セミナー室)B。



吉阪が掲げた「不連続統一体」を実践する建築群は、1970年までにほぼ完成。その後もU研究室の設計で6期(1975年)、7期(1978年)、8期(1989年)と続けられたが、その間の1980年に吉阪は63歳で亡くなった。
計100棟あったユニットハウスは、老朽化のため2006年に十数棟を残して解体された。

代わりに、新たな宿泊棟「さくら館」↓が建てられた。これにはU研究室のメンバーは関わっていない。

開館50周年を記念して建てられた食堂棟「DiningHallやまゆり」(2016年)は、U研究室出身の齊藤祐子と嶋田幸男が設計を担当した↓。これは『新建築』2017年11月号に掲載されている。

で、本題のユニットハウス復元計画である。以下は、大学セミナーハウスの公式サイトより(太字部/写真は宮沢)。
●大学セミナーハウス開館60 周年記念プロジェクト支援募金──ユニットハウス復元プロジェクト
大学セミナーハウス開館時には、自然の中で共に生活し、共に学ぶ学生たちの緊密なコミュニティを育むことを目的に、100戸のユニットハウスが建設されました。
しかし現在では経年劣化が進み、十数戸を残すのみとなり、このままではいずれすべての棟が失われてしまう恐れがあります。


そこで開館60周年を機に、1棟だけでも復元・保存したいとの思いから、クラウドファンディング・プロジェクトを立ち上げました。復元後は宿泊施設としてではなく、小グループの交流スペースとして活用し、皆さまからお寄せいただいた浄財は建物の修復費用に充てさせていただきます。開設当初の理念を感じ取っていただけるこの場を守るため、温かいご支援をどうぞよろしくお願いいたします。

ここで、【詳細をみる】のボタンをクリックすると、クラウドファンディングのサイトに飛ぶ。以下、そこからの引用(太字部)
(前略)シンプルでありながら機能的なこのユニットハウス群は、セミナーハウスが掲げる学びと経験の共有の精神を象徴的に体現したものでした。そしてセミナーハウス開館の中心的なコンセプトであり歴史的にも貴重な建築でもあります。
現在では経年劣化も激しく宿泊施設として利用されてはいませんが、私たちはクラウドファンディング・プロジェクトを立ち上げ、1棟だけでも復元・保存すべきと考えました。
理念をもトレースするのが「復元」
私たちの目標は、1棟だけでもユニットハウスを開館当時(1965年)の状態を再現することです。
しかし、建設当時の外観・意匠だけでなく理念をもトレースするのが「復元」であり、復元されたユニットハウスは以下のような役割を果たすことになると考えています。
・セミナーハウスの革新的な始まりと建築の歴史を具体的に想起させる。
・セミナーハウスの原風景を未来への学びの礎とする。
・復元後は宿泊施設としてではなく、小グループの交流スペースとして活用する。
60年の歴史を未来へ繋ぐためには皆様のご支援が不可欠です
開館60周年の2025年は、大学セミナーハウスの歴史を振り返り、今後永年にわたって人々にインスピレーションを与え続けることを保証するのに最適な瞬間です。
これらを実現するには、皆様のご支援が不可欠です。
どうかユニットハウス復元のためのクラウドファンディングにご協力ください。


ご寄付は、当ホームページ上の【寄付をする】をクリックして、お申し込みください。
寄付金の使い道について
皆様のご寄付は、金額に関わらず、以下の費用に直接充てられます。
・当時を知る建築家による6号棟修復作業 ・5・7号棟の自主施工による修繕工事材料費
大学セミナーハウスの歴史の一部を復活させ、ユニットハウスを交流スペースとして再生させるこのプロジェクトに是非ともご参加ください。
[大学セミナーハウス ユニットハウス6号棟 修繕工事]
■ 標準+屋根交換修繕 333,400円
■木工事 652,000円
■内外装工事 745,100円
■発生材処分運搬費 66,700円
■諸経費 165,000円
計 1,962,200円
消費税 196,220円
合計 2,158,420円
目標金額 2,158,420円
ネクストゴール 3,160,000円
6号棟の両隣にある、5号棟、7号棟について自主施工による修繕工事を行います。
材料費が各棟500,000円ほどかかります(合わせて1,000,000円)。ゴールを3,160,000円といたします。
税制上の優遇措置について
当法人へのご寄附は、税制上の優遇措置が受けられます。
領収書をご希望の場合は、申し込みフォームで「郵送」「PDFでメール送付」のどちらかをお選びください。お送りしたメール添付の領収書(PDF)については、ダウンロードのうえ、印刷して確定申告時にご利用ください。(PDFの領収書は、電子的控除証明書としてはご利用いただけませんので、印刷してご利用下さい。) 税制優遇措置の詳細はこちら
お問合せ・ご連絡先
◆お電話、メール、お問い合わせフォームをご利用ください。
192-0372 東京都八王子市下柚木1987-1
大学セミナーハウス 総務部 募金担当
TEL 042-676-3081(直通)
E-mail: soumu-g@seminarhouse.or.jp
サイトはこちら:https://iush.jp/general_donation/
時がたてば、人が替わり、考えも変わる
筆者が驚いたのは、このクラウドファンディングの募集主体が大学セミナーハウスの組織それ自体であることだ。2006年にはユニットハウスのほとんどを取り壊し、鉄筋コンクリート造の(極めて普通に見える)「さくら館」↓を建てた大学セミナーハウスが、今は自らクラファンを立ち上げてまでそれを守ろうとしているのである。

「なぜ今さら?」と言うつもりはない。時がたてば、人も入れ替わるし、同じ人間でも考えは変わるものだ。
実は約20年前の2006年3月、ユニットハウスの解体が始まるという話を聞いて、現・相棒の磯達雄や建築史家の倉方俊輔氏らと10人くらいでユニットハウスに泊まりに行った。行ってみたらすでに解体工事の真っ最中で、トラウマになりそうな光景だった。

理由はわからないが100戸のうちの十数戸は残った。20年たってそれらの老朽化がさらに進み、今度は壊すのではなく、「残そう」となった。

なぜそういうふうに考えが変わったか。想像するに、1つには、ユニットハウスが壊された2006年から始まった「ぐるぐるつくる大学セミナー・ハウス」の活動が大きい。年に1回、大学セミナーハウスに宿泊し、建築を楽しみながら、設計思想にふれ、メンテナンスを行うワークキャンプだ。齊藤祐子氏らが中心となって活動を継続してきた。毎年、そんな様子を見ていたら、協力したくなるのは想像に難くない。(活動の詳細はこちら)
もう1つには、一般の人たちの「建築」への関心の高まりがあるのではないか。前述したように、もともとこの施設は大学や経済人の寄付でつくられたのだから、単純に216万円を集めるだけなら、1口いくらとかで関係者に寄付を集めるのが普通だろう。そうではなく、クラファンという方法を採ったのは、「一般の人にもっと知ってもらうことが施設の未来につながる」という判断があったものと推測する。
クラファンの主旨の中に、「開設当初の理念を感じ取っていただけるこの場を守る」という一文がある。20年前に解体の決断を下した人たち、そしてユニットハウスに泊まって解体の様子を呆然と見ていた自分たちに聞かせたい。「建築を取り巻く社会の目は20年後、こんなに変わるぞ」と。
寄付(クラファンだから投資?)は11月8日現在、目標の5合目。それなら自分も、と思われた方は下記の画像をクリックしてほしい。受付は2026年3月31日まで。(宮沢洋)


