話題の「大谷グランド・センター」を見た! 針谷將史氏が“廃虚ホテル”を生かしつつアート+飲食施設に

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 2026年もリノベーション建築が熱い。すでに報じた「SAKAKURA BASE」(旧上野市庁舎)や3月にオープンした「帝国ホテル 京都」(旧弥栄会館)」、6月下旬にオープン予定の「星のや奈良監獄」など、どちらかいうと西の方に話題作が多いのだが、関東の人がまず行くべきはこれだろう。1月5日に全面開業した「大谷グランド・センター」だ。

南側外観

 いわゆる“廃虚ホテル”のユニークな再生として、話題になっているこの施設。正直、建築的にはどうなのかなーと思っていたのだが、信頼を置く『新建築』の2026年3月号に載っているのを見て心を入れ替え、見に行ってきた。実に建築的なリノベーションだった。設計者は針谷(はりがい)將史氏。1980年生まれの若手で、隈研吾建築都市設計事務所の出身だ。隈事務所在籍時(2007〜2014年)には「浅草文化観光センター」(2012年)などを担当。独立後は「那須塩原市まちなか交流センター くるる」(2019年)を藤原徹平氏と共同で設計した。

 既存の建物は、「山本園大谷グランドセンター」。1960年代後半、山本山と呼ばれる石山の露天掘り場に建てられた。

南東からの遠景。右手方向に大谷観音や大谷石地下採掘場跡がある。いずれも徒歩圏

 竣工当時の図面は現存せず建設会社も不明だが、 かつて石の採掘が隆盛をきわめていた時代に、数人の石工(1人という説も)によって建てられたと伝えられている。正確に言うと「ホテル」ではない。大浴場や食事処として営業されていた。団体客がバスでやってきて入浴し、座敷で宴会をしてバスで帰る──そんな施設だった。昭和50年代にはにぎわったが、昭和の終わりに閉館。30年以上、廃虚になっていた。廃墟好きの間では、「廃墟の女王」と呼ばれるマヤカン(摩耶観光ホテル)に対して、「栃木のマヤカン」「東のマヤカン」と呼ばれてきた。

 それを地元の井上総合印刷が建物を取得し、大谷石の産地観光の新たな拠点として整備した。昨年12月12日にプレオープン。今年1月5日にグランドオープンした。

トータルマネジメント:井上総合印刷
総合プロデュース:bonvoyage
アートプロデュース:The Chain Museum
設計監理:針谷將史建築設計事務所
施工:ニチビル・DDD・大久保/電気工事:五十二電気工事/設備工事:東栄設備工業/鉄骨工事:日南鉄構・稲葉建設

ランドスケープ:ランドスキップ
家具・インテリアデザイン:コンテデザイン
ロゴ・サインデザイン:清水彩香/ サイン制作:jam(jam creative association)・陶遊舎(谷口勇三)
特別協力:やどプランニング株式会社・大谷資料館
施主:プロジェクトi

 施設は1階がアートスペースで、2階が飲食のスペースだ。どちらも、“すべてを一新”という感じではなく、既存建物の“廃墟感”を存分に生かして再生しているのが面白い。

 公式サイトの「STORY」の説明文(太字部)を引用しながら見ていこう。

01/HISTORY
 「山本園大谷グランドセンター」と名付けられたこの建物は、昭和後期に1人の石工によって建てられたとされています。当時は観光バスが訪れ、多くの人で賑わっていました。時代が変わり、人が建物から消えた平成時代を経て、現在。草木が生え育ち生い茂るほどの時間の経過は、岩に抱きつくこの建物に、神秘的とも感じるまでの清らかな空気を纏わせました。
 再び人がこの場所に集うことを願い「山本園大谷グランドセンター」という名を一部引き継ぎ「大谷グランド・センター」として、物語の続きが始まります。

建物に向かう東側の石段

02/SPACE
 長い年月を経て、自然と一体化した建物。画家のカール・ラーションが「正しく古いものは永遠に新しい」と残したように、その姿は時代を越えてさらなる魅力を纏ってきました。大谷グランド・センターとして時間の経過をこれからも愛でていけるよう、素材や手法を選定。足を踏み入れた瞬間に感じる神秘的な空気はそのままに、再び人がこの場所に訪れ、快適に楽しめるように、自然光を導き、風が通り抜ける環境を再構築しました。

エントランス
受付

大谷石のあたたかさに包まれる/OYA STONE
 大谷という町の中心には、いつも大谷石がありました。文化財建築や現代建築の礎として今なお輝き続ける大谷石。茶色の斑点はミソと呼ばれ、大谷石ならではの多様な表情を作り出しています。大谷グランド・センターも例に漏れず、様々なかたちで大谷石が建築当初より館内に存在していました。ブロック状に加工され建物の空間を整えるもの、でこぼことした表情が残され空間を彩るもの、さらには石として切り出さずに岩山ごと構造に取り込んでいるものまで。今回のリニューアルにおいても、その空間にある大谷石の存在意義を読み解き、新たな空間の中で変わらずその魅力を発揮できるよう、生かしています。

ギャラリー0
ギャラリー1
ギャラリー2、3に向かうブリッジ
ギャラリー2。アートスペースの目玉はこの先のギャラリー3(かつての大浴場)なのだが、写真を見てしまうと感動が薄れると思うので、現地でご覧ください

人為と自然のはざまに/PLANT
 大谷グランド・センターでは、木々や石、虫たちが存在するのと同じように、人も環境を作る一員として存在していると考えています。新たに加える手入れは、自然が本来の姿に移り変わっていくために必要な最小限の手助け。健やかな環境が生まれることで、敷地が穏やかに循環していくよう、謙虚なまなざしで風土と向き合っています。

自然の循環の中で/TERRACE
本建物を再開するにあたって、解体せざるを得なかった大谷石もありました。テラスでは、その一部をベンチやコーヒーテーブルとしてお使いいただけるよう整備しています。2階のカフェにてテイクアウトし、客席としてのご利用も可能です。長い時間をかけて育まれた植物に囲まれ、変わることのない大谷石の価値を感じていただけると嬉しいです。

2階のカフェ
カフェの奥にあるレストラン
東側の大開口の目の前に、切り立った岩が!

どんな人にもこの景色を/ROOFTOP
 本建物の屋上からは、大谷の町をご一望いただけます。春には青々と草木が茂り、秋には紅葉が色づく。見ているだけで胸がすくようなこの眺めをどんな方にもお楽しみいただきたく、屋上に続くエレベーターを新設しました。岩山をすぐ近くに感じていただける屋外階段からもアクセス可能ですので、ぜひ一度この景色をご堪能ください。

2階東側のテラス席
日本最古とされる(810年、弘法大師の作と伝えられる)大谷観音がよく見える

 建築計画上のポイントは、『新建築』の2026年3月号の針谷氏による解説文から一部を引用する(青字部)。

(既存の)躯体そのものは鉄筋コンクリート造の一般的なラーメン構造だが、柱や梁が直接岩の上に乗るなどアクロバティックな建ち方をしている。内外装に用いられた大谷石積みの壁には意匠的にも凝った加工が施されており、当時の石工の美意識を垣間見ることができる。この特殊なコンディションが持つ場のポテンシャルを活かすために余計な要素はなるべく付加せず、減築を主として石と躯体の距離感を整え、両者の新たな関係性を構築することに注力した。

間仕切り壁や天井などの木製部分、外部階段やサッシなどの鉄骨部分は損傷が大きいため、内部は大谷石積みの壁だけを残し、その他はすべて解体した。がらんどうになった状態でコンクリートの躯体を観察すると、西側のスラブが石の崖に直接差し込まれる形で架けられていることや、石の上に直接塗料が吹き付けられていること、各面を水平横連窓とするために、垂壁や腰壁が石を隠していることなど、石が建築の下地のように扱われているのに気が付いた。

西側

そこで、石にへばり付いていた仕上げや床スラブ、 垂れ壁の減築を行い、石と建築が互いに尊重し合い自立するような、既存の街が本来持っている関係性に近付けたいと考えた。

西側では石の崖に接していたヴォリュームを解体し、東側は大きな石に向けた開口部を拡張し西面と共に可動式の大きなスチールサッシを設ける。(中略)

東側

石の崖との間に新たに生まれた間隙によって、石とコンクリートの構造体は局所的な接点を持ちながらも自立し、石は下地や建材としての役割から解き放たれ、本来の物質として存在する時間を取り戻す。

 なるほど、もともとはこんなに自然の岩を主役にした空間ではなかったのか。建設時の石工たちへのリスペクトが、こういう“新築ではあり得ない空間”を導いたわけだ。

 ところでこのプロジェクトの中心になった、「井上総合印刷」という会社が気になったので、その説明も公式サイトから引用しておく。

運営
株式会社井上総合印刷

 1966年、栃木県宇都宮市に創業。北関東随一の設備を誇る。環境に配慮した「FSC®認証」(FSC® C195305)や、宇宙構造工学研究者である東京大学・三浦公亮名誉教授が考案した特殊加工「ミウラオリ」の特許商標を有する。最新鋭の設備と探究心から生まれる印刷技術は、美術館・博物館の図録やアート作品にも多く採用実績がある。地域の課題や文化、歴史に精通しており、地域情報サイト「とちぎイーブックス」や、レンタルスペース&カフェ「Café ink Blue」を運営し、大谷の景観を楽しむ店として「そば倶楽部 稲荷山」を開店。「大谷地区地域活性化計画」のセカンドステージとして、食とアートの文化創造施設「大谷グランド・センター」を開業。
http://www。inoue-gp。jp/

 「大谷町のあるここ宇都宮の地で、半世紀以上ものあいだ地域のお役に立つ会社になるべく、総合印刷業としてモノづくりの歩みを進めて参りました。いくつかの事業を行う中で気づいた事があります。それは、印刷とは五感のひとつであり文化であるということ。そして、印刷と観光は似ていると私たちは考えています。どちらも、伝え残していくこと。だからこそ、幼少の頃より親しんだ大谷という町を伝え残していくことは、私たちがやるべきことなのだと思います。この場所と出会い感じた、表現し難い美しさ。それは私たちだけでなく、きっと多くの人に何かをもたらしてくれると信じています。」

 「印刷と観光は似ている」「どちらも、伝え残していくこと」──。これは名言。井上総合印刷の今後にも注目だ。(宮沢洋)

入館料:
【入館パス】

大人(18歳以上)・中人:500円/小学生以下:無料 ※当日販売のみ
【グランドパス】
事前販売

大人(18歳以上):1500円/中人:1300円/小学生以下:無料
当日販売

大人(18歳以上):1800円/中人:1500円/小学生以下:無料
※レストラン、パティスリー、カフェ、ルーフトップテラス、ビューテラス、ショップのみのご利用の際にも入館パスが必要になりますので、ご注意ください。
開館時間:10時〜17時
定休日:火・水曜
公式サイト:https://oya-grand-center。com/