コロナ夏の必見展05:「隈さんは誤解されている」と企画者の保坂健二朗氏、1年待ちの「隈研吾展」9月26日まで

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この記事を見逃した人のために、「コロナ夏の必見展05」として再公開する。初出は2021年6月17日。

 本来であれば、1年前の2020年7月~10月に開催される予定だった東京国立近代美術館の「隈研吾展 新しい公共性をつくるためのネコの5原則」が、明日、6月18日(金)から始まる。会期は9月26日まで。本日午前中に内覧会が開催された。

会場の東京国立近代美術館。建物は谷口吉郎の設計で1952年竣工。1階の大会場で建築家の個展が開催されるのは、約70年の歴史のなかで初めて(写真:宮沢洋、以下特記以外はすべて)

 この展覧会にタイミングを合わせようと1年がかりで書籍『隈研吾建築図鑑』を執筆した私(宮沢洋)が、この展覧会についてああだこうだと分析するのはバイアスがかかり過ぎだと思うので、今回はニュートラルに写真だけでリポートする。

 展示のゾーニングはこんな感じ↓。1階全体を使って行われ、有料ゾーン(第1会場)と無料ゾーン(第2会場)に分かれている。

無料配布される会場マップを宮沢が色分け。ピンクが有料ゾーン、水色が無料ゾーン。360度VR体験コーナーは幕開け時点では休み(コロナ対策のため)となっている

 まずは、有料の第1会場へ。

隈氏自身が選んだ公共性が高い建築68件を、時系列ではなく、「孔」「粒子」「斜め」「やわらかい」「時間」という5原則に分類して紹介する
最初は「孔」。「国立競技場」(2019年)のディテール模型
「アオーレ長岡」(2012年)を模型と映像で
「V&Aダンディー」(2018年、スコットランド)。ここまでが「孔」の展示
続いて「粒子」。「スターバックスコーヒー大宰府天満宮表参道店」(2011年)の木組み。実物ではよく分からない細部が分かる。この後、「やわらかい」「斜め」と続く
「やわらかい」。国立競技場の照明
「斜め」から「やわらかい」方向を見返す。手前左は「明治神宮ミュージアム」(2019年)、右は「東京工業大学 Hisao & Hriko Taki Plaza」(2020年)
有料ゾーン最後の「時間」
隈建築をたくさん見た私には、この「時間」ゾーンが一番ぐっとくる。「国立競技場」と分け隔てなく、「下北沢てっちゃん」(居酒屋、2017年)の断面模型が!

えっ、目玉の「東京計画2020」は無料で見れるの?

 そして、無料ゾーンへ。残念ながら、360度VR体験コーナーはコロナのためしばらくお休み。私はこれを制作したNHKエンタープライズで見たが、「TOYAMAキラリ」のVRはすごかった。(※開幕からしばらく後に 360度VR体験コーナーは見られるようになったが、コロナ禍なので、公式サイトで状況をご確認ください)

クライアントなどへのインタビューコーナー。ここは熊本市の「浜田醤油」(2019年)

 そして最後。なんと、本展の目玉である「東京計画2020 ネコちゃん建築の5656原則」は無料で見られるのか! 隈建築の実物を見過ぎている私には、むしろ無料ゾーンの方が新鮮だった。

猫の目線で、都市にザラザラがある場合とない場合を検証
屋根の上や路地裏なども猫目線で巡る。楽しい。Takramとともに作成

 と、こんな感じだ。良し悪しは皆さんの目でご判断ください。

「隈さんはオシャレな建築家と思われている」

隈研吾氏(右)と企画担当者の保坂健二朗氏(©Kioku Keizo)

 この日、ゲストキュレーターである保坂健二朗氏が囲み取材に応じた。保坂氏は2021年1月から滋賀県立美術館の館長(ディレクター)を務めているが、東京国立近代美術館在籍時に、主任研究員としてこの展覧会の企画の中心になった。私の感想の代わりに、保坂氏の言葉から、「そうそう!」と共感したところをピックアップして締めたい。

 「この展覧会は、東京国立近代美術館の1階で行われる“建築家の個展”としては第1回目となる。1952年に開館してもうすぐ70年。これまで、千数百㎡ある1階の広いスペースを、1人の建築家をテーマに展覧会を行ったことはない。故人、外国人も含めてだ。言い換えると、70年の歴史の中で初めて建築家を取り上げるのに誰がいいのか。我々として選んだのが隈さんだった」

 「もちろん2020年夏にオリンピックが開催されて、その中心となる国立競技場の設計に隈さんが参加しているということはあったがそれだけではない」

 「今回、公共性というテーマを考えた。単に芸術的な観点から評価される建築を考えることが美術館の役割ではなく、もっと本質的なところで建築を考えたい。そのときに隈さんを思い浮かべたのは、僕自身が隈さんのアオーレ長岡を見て感動したというのもあるが、もう1つ、これは隈さんご本人がいるところで言うのもなんだけれど、隈さんは誤解されているところがあるのではないか(笑)」

 「あまりに仕事が多すぎるので全貌をつかむのが難しいし、隈さんの建築は写真映えするので、オシャレな建築家と思われているところがある。でも、そうではないのではないか」

 「ルーバーを含めてなぜああいう小さいピースで建築をつくるのか。なぜ日本の建築になぞらえたくなる斜めの屋根を使うのか。それは“受け”を狙っているわけではなくて、もっとほかの理由がある。そうしたことを分かっていただける展覧会にしたいと思った」

 「隈さんには猫がゴロゴロしたくなるような建築をつくるという視点ある。だから居酒屋の内装もデザインできるし、依頼があれば国立競技場の設計にも参加できる。柔軟さがあるというのとはちょっと違う。出発点が違う。そういうところが隈さんがこれほど求められている理由だと思う」

 「僕自身、国内外の隈建築をいろいろ訪れて、本当にそれぞれに気付きがあった。それはこういう展覧会をやっていながら矛盾はあるけれど、“訪れないと分からないもの”が絶対にある。実際に訪れていただいたときに分析する一つのきっかけとして、建築ってこういうふうにすると理解できるんだなとか、隈さんの方法論はこういうことなのかと知ってほしい。分かったうえで見ると、さらに理解できる。そういうところに建築展の必要性があると思っている」(ここまで保坂氏の発言)

 これ以上、私に付け加えることはありません。

 1つ宣伝を。展覧会を見た後は、ぜひショップでこの本↓を手に取ってほしい。緊急事態宣言もようやく解除されそうなので、旅の計画を立てるのに必携の1冊です!(宮沢洋)

ちなみに左隣の「建築家になりたい君へ」の装丁イラストも宮沢が描きました
ショップは有料ゾーンの脇にあります!

開催概要◆「隈研吾展 新しい公共性をつくるためのネコの5原則」
会場:東京国立近代美術館 1F 企画展ギャラリー
会期:2021年6月18日(金)~9月26日(日)
休館日:月曜日[ただし7月26日、8月2日、9日、30日、9月20日は開館]、8月10日(火)、9月21日(火)
開場時間:10:00-17:00(金・土曜は10:00-21:00)(入館は閉館30分前まで)
観覧料:一般1300円、大学生800円、高校生以下および18歳未満、障害者手帳をお持ちの方とその付添者(1名)は無料
チケット:会場では当日券を販売しています。ただし、会場の混雑状況によって、当日券ご購入の列にお並びいただいたり、入場をお待ちいただく場合がありますので、オンラインでの事前のご予約・ご購入をお薦めいたします。
主催:東京国立近代美術館、文化庁、独立行政法人日本芸術文化振興会
協賛:成建設株式会社、大洋建設株式会社、株式会社長谷工コーポレーション、大光電機株式会社、大日本印刷株式会社、前田建設工業株式会社、株式会社イトーキ、株式会社大林組、鹿島建設株式会社、コクヨ株式会社、小松マテーレ株式会社、株式会社佐藤秀、清水建設株式会社、株式会社JR東日本建築設計、住友林業株式会社、太陽工業株式会社、大和ハウス工業株式会社、大和リース株式会社、株式会社竹中工務店、株式会社丹青社、TSUCHIYA株式会社、東急建設株式会社、TOTO株式会社、戸田建設株式会社、株式会社乃村工藝社、不二サッシ株式会社、三井住友建設株式会社、銘建工業株式会社、株式会社岸之上工務店
協力: エヌビディア合同会社、小松マテーレ株式会社、株式会社スノーピーク、富山市(富山県)、長岡市(新潟県)、株式会社 日本HP、浜田醤油株式会社、V&Aダンディー、真庭市(岡山県)、南三陸町(宮城県)、株式会社モデュレックス、株式会社モノファクトリー、株式会社YAMAGIWA、梼原町(高知県)
助成:公益財団法人 大林財団
美術館へのアクセス:東京メトロ東西線竹橋駅 1b出口より徒歩3分
〒102-8322 千代田区北の丸公園3-1
公式サイト:https://www.momat.go.jp/am/exhibition/kumakengo/