「仮設建築はノミネートの対象になりますか?」「屋根がなくてもOK?」──2026年2月に投票が行われる「みんなの建築大賞2026」に向けて、推薦委員の一部からそんな質問があった。それはつまり、「大阪・関西万博の施設は『みんなの建築大賞』の推薦対象になるのか」という質問である。もちろん、なる。他の建築賞の対象になりにくい仮設建築あるいは広場(しかも「みんな」が関心を持つ)は、この賞で称える意味が大きい。
そんなこともあり、「次回のみんなの建築大賞は万博も対象になるよ」という告知も兼ねて、スピンオフ企画「大阪・関西万博マイベスト3」をやってみようということになった。万博会場をすでに見た委員に、「世の中に向けて熱く伝えたい大阪・関西万博の建築・その他」を3つ挙げてもらい、その理由(いつもと同様、原則90字以内)とともに全掲載する。
これから万博を見に行こう、あるいは見に行こうか迷っているという方は参考にしていただきたい。(ここまで文責:宮沢洋/みんなの建築大賞事務局長/画文家、BUNGA NET編集長)

■有岡三恵/編集者、Studio SETO
大屋根リング/会場デザインプロデューサーおよび設計:藤本壮介、基本設計: 東畑・梓設計共同企業体
万博という人類の諸行をゆったりと俯瞰しているかのような佇まいが圧巻。屋上の植物が公園のような空気感を助長している。国内ゼネコンの技術を結集した貫構法による木質空間が壮大で圧倒される。


シグネチャーパビリオン「Dialogue Theater-いのちのあかし-」/テーマ事業プロデューサー:河瀬直美、基本設計:SUO、実施設計:村本建設・SUO・平岩構造計画・総合設備グループ
奈良県と京都で廃校になった木造校舎を移築。ピカピカの新築パビリオンに囲まれて一際目立つ世界観を放っている。シアターの演目も必見。


シグネチャーパビリオン「null²」/基本設計:NOIZ、実施設計:フジタ・大和リース特定建設工事共同企業体
建築の表面がヌルヌルと動くというのにとにかく驚いた。どのような機構で動き、どのような素材なのか、と想像する楽しさがある。
■五十嵐太郎(推薦委員会委員長)/建築史家、東北大学大学院教授
大屋根リング/藤本壮介、東畑・梓設計共同企業体
圧倒的な存在感と象徴性。これまでにない視点場を提供する。開幕時は体感しなかったが、7月に訪れたら、海からの風が抜け、日陰をつくることで、リングの下が本当に涼しい。夏になって本領を発揮した。

シグネチャーパビリオン「Better Co-Being」/SANNA
樹木越しに外から眺めるとわかりにくいが、エリアに入ると、想像以上に大きいことに気づく。空中に浮かぶ、軽やかな立体格子の下に植栽がある風景から、万博の起源であるクリスタル・パレスを思いだした。

トイレ5/米澤隆
2億円トイレと呼ばれ、激しく炎上。本来は万博の広報が対応すべき案件なのに、設計者が自ら誤った情報に対し、説明を継続する姿勢に一票。結果的に、SNSの時代における万博で知名度を獲得した建築である。

■磯達雄/建築ジャーナリスト
シグネチャーパビリオン「null²」/基本設計:NOIZ、実施設計:フジタ・大和リース特定建設工事共同企業体
膜材の鏡面を歪ませたり振動させたりすることで、見る者の現実感を揺るがす。これまでにない建築の質感を実現。中に入らなくても、ある程度は楽しめるという点で、来場者に対する貢献度も高い。

ウズベキスタン館/設計:アトリエ・ブリュックナー
イスラムの幾何学パターンのように組まれた木材で、ナショナリティを表現。地下世界をイメージした内部展示室から、屋上の森へと至る展示の流れが、来場者にドラマチックな体験をもたらす。

アラブ首長国連邦館/設計:アーストゥイーサーデザインコレクティブ
UAEの伝統住居で材料に用いられるナツメヤシの木。その葉軸を束ねて、90本の柱を内部に林立させている。ファサードの飾りではなく、構造体の材料で地域性を表現しようとしたところを評価したい。

■加藤純/編集者、TECTURE MAG編集長
シグネチャーパビリオン「null²」/基本設計:NOIZ、実施設計:フジタ・大和リース特定建設工事共同企業体
鏡面の大小のボクセル集合体は風や重低音に応じて絶えずヌルヌルと動き、周囲の景色や円形のLEDパネル映像を歪ませる。人間とAI、自然とデジタルの融合する世界を体現した、新たな生命体。


バーレーンパビリオン/設計:リナ・ゴットメ アーキテクチャー
バーレーン王国の造船技術と日本の木工技術を再解釈し、長さ4mの無垢の木材を組んで船をイメージした建物を構築。柔らかな光に包まれるアトリウムや風が抜けていく館内の空間体験も心地よい。


サウジアラビアパビリオン/設計:Foster+Partners
背の高い建物が並ぶ、集落のような館。曲がりくねった路地を通り、庭から入る室内では国のリッチなPRが展開する。吹き抜ける風、差し込む光と影とともに、内外を行き来する体験は唯一無二のもの。


■倉方俊輔/建築史家、大阪公立大学教授
ポルトガル館/隈研吾建築都市設計事務所
今回最多の4パビリオンを手がけた力量がありありと。安い素材で、写真映え、大衆つかんで、施主笑顔。みんな登るので、だらりと垂れ下がっていたロープが、会期前半に切り揃えられちゃったのが残念。


EXPOホール/基本設計・監修:伊東豊雄建築設計事務所
上部の円盤に白い胴体が映り込み、まるで基幹施設プロデューサーを打破した「太陽の塔」のよう。一発芸のような作風で、われわれを抑圧する「建築」に常に抗ってきた伊東豊雄の健在ぶりを明示。


ランドスケープ/ランドスケープデザインディレクター:忽那裕樹
静けさの森にアートやプロダクトを配置。それが会場全体が散らばったようにして、歩いて楽しい万博に変えた。豊かであるとはこういうこと。大屋根リングと並ぶ、今回の万博の個性の立役者と見た。


■櫻井ちるど/編集者、建築画報
大屋根リング/会場デザインプロデューサーおよび設計:藤本壮介、基本設計: 東畑・梓設計共同企業体
世界最大級の木造建築としてギネスにも登録された話題のリング。その上を草花の景色を楽しみながら風にあたって流れる音楽と共にゆったり歩く気持ちよさに心を奪われた。全長2kmを歩きながら夜景に変わる夕暮れ時の散歩がおすすめ。


静けさの森/デザイン:藤本壮介、忽那裕樹(ランドスケープデザインディレクター)、長谷川祐子(アートディレクター)
大阪府内の公園から移植された約1500本の多様な樹木で構成された万博会場中央に位置する森。揺れる木漏れ日の中、虫の音色と共にまるで万博会場にいることを忘れるほどの静かな時間を過ごすことができる。

ポップアップステージ(西)/設計者:三井嶺 | 三井嶺建築設計事務所
1.7kgの松の丸太をボランティア参加者で建て起こす。万博という「祭り」を一緒につくり「参加すること」を重要視した三井氏の想いにより屋根の松葉の葺替えもワークショップで行われた。万博会場を一緒に施工できる他に類を見ない建築である。


■介川亜紀/編集者
トイレ8/設計:斎藤信吾建築設計事務所+Ateliers Mumu Tashiro
男子、女子、オールジェンダー3種のトイレが、矩形と多角形を混在させた一群の適所にレイアウトされている。群の形状のユニークさを保ちつつ3種のトイレをうまくゾーニングし、プライバシーを担保している点が見事。


トイレ5/設計:米澤隆建築設計事務所|米澤隆
積み木のような形状とカラフルな色調は万博の多様性、楽しさを端的に感じさせる。個室がリズミカルにレイアウトされる一方、利用者が顔をあわせないようにドア方向を調整するなどの細やかな配慮も。閉会後はユニット単位に解体・再利用予定とのこと。会場で筆者が来場者数名に「印象に残ったトイレはどれか」聞いたところ、全員がトイレ5との回答。


休憩所4/主用途:休憩所、トイレ/設計:Schenk Hattori + Niimori Jamison|服部
大祐+新森雄大
「静けさの森」に隣接、祈祷室も併設。敷地を掘削してつくられた緩やかな丘陵・ランドスケープとトイレ建物、周囲の木々が一体化している。丘陵付近でゆっくりと仲間を待つ姿も様になる。


■平塚桂/編集者、ぽむ企画
シグネチャーパビリオン「null²」/設計 全体ディレクションプロデュース:落合陽一、建築:NOIZ、構造:Arup、設備(基本):Arup、設備(実施):株式会社フジタ、展示内装・演出機器:乃村工藝社
「建築に対する情報技術の実装」を圧倒的説得力で実現。ロボットアーム16台と大量のウーファーで音と風に連動しミラー膜が振動。建物が常に「唸って」いて通りすがりの人を驚かすのも万博的。


休憩所1/設計:大西麻貴+百田有希|一級建築士事務所大西麻貴+百田有希/o+h
遊び場を内包したインクルーシブな休憩所。約40種のデッドストック生地をグラデーションになるよう手作業で取り付けたという膜屋根は、仮設だからこそ。風で揺れ光が透けとてもきれい


休憩所4/設計:服部大祐+新森 雄大|一級建築士事務所Schenk Hattori+Niimori Jamison
敷地条件から形と工法を開発し、前衛的かつ子どもが遊びたくなる空間を生み出している。地盤が弱く建物重量分の土を廃棄すべしという条件を逆算し敷地を造成し、地形を型枠として鉄筋の屋根を成形。


■宮沢洋/画文家、BUNGA NET編集長
住友館/基本設計:電通ライブ+日建設計、実施設計:電通ライブ+三井住友建設
東ゲートの目の前にあり、万博全体の施工品質の高さを印象づける。複雑な曲面に見えるが、合板を現場で曲げた双曲放物面。箱になりそうなプログラムに優美さを与える技ありデザイン。


シグネチャーパビリオン「Better Co-Being」/テーマ事業プロデューサー:宮田裕章、設計:SANAA
パビリオンなのに屋外、しかも繊細さで勝負するデザイン。丘の上に立って振り返ったときの光景に息をのんだ(ただし天気次第かも)。世界のSANAAの面目躍如。大御所なのに一番攻めている。


大屋根リング/会場デザインプロデューサーおよび設計:藤本壮介、基本設計: 東畑・梓設計共同企業体
開幕前のメディアデーで見たときには「本当に人がここを歩くの?」と思った。が、予想は外れ、みな歩く歩く(暑いのに…)。西洋型の広場が苦手な日本人の特性を見抜いた“長く伸びる広場”。


■森清/編集者、BUNGA NETプロデューサー
ウズベキスタンパビリオン/設計:アトリエ・ブリュックナー(ATELIER BRÜCKNER)
大屋根リングと呼応するかのように、屋上テラスで細やかなリズムを刻む独自の木造架構。コンパクトながら素材にこだわりのあるパビリオンだ。建材は日本産の自然材だが、解体後は自国で再構築する予定だというのも注目される。


シグネチャーパビリオン「Dialogue Theater-いのちのあかし-」/テーマ事業プロデューサー:河瀬直美、基本設計:SUO、実施設計:村本建設・SUO・平岩構造計画・総合設備グループ
廃校となった木造校舎3棟を移築して丁寧に組み上げた。鉄骨などを挿入して新旧を融合させた設計は巧み。SUOが高松市屋島で手掛けた「れいがん茶屋」を思い起こさせる。見学日、映画作家の河瀬直美氏が、対話シアター棟で自ら対話に臨んだのには感動。


大屋根リング/会場デザインプロデューサーおよび設計:藤本壮介、基本設計:東畑・梓設計共同企業体
会場を訪れた7月半ばの午前、降雨のうえ、雷雲も近づき、屋上に出るのは禁止。そんな中で本領を発揮したのは大屋根下の回廊。象徴性もさることながら、約2kmのこの空間の機能性と歩く楽しさを実感した。


■ロンロ・ボナペティ/建築ライター、編集者
大屋根リング/会場デザインプロデューサーおよび設計:藤本壮介、基本設計: 東畑・梓設計共同企業体
建築を学び始めて15年、やっと誰とでも話が共有できる国民的建築が生まれた。やったぁ! 本来何の取っ掛かりもない更地全体に展開されたシンプルな架構が、既存風景として効いている。


いのちパーク ミスト/設計者不明
単純に「わが街にもはよ!」と思ったデザイン1位。災害級の暑さの中、それでも避けられない屋外活動をいかにして継続するのか、もっといろんな都市インフラへの提案を万博では見たかった。

トイレ5/設計:米澤隆建築設計事務所|米澤隆
過熱したSNSでの批判コメントに真摯に応え続ける設計者の姿勢が多くの人の心を打ち、ファンを盛り立てるムーブメントを起こしている。「挑戦」する人たちへの愚直なエール。

■和田菜穂子/建築史家、東京家政大学准教授
ブルーオーシャン・ドーム/坂茂
2000年ドイツハノーバー万博で紙管を使ってサステナビリティを提示した坂茂は、今回の万博でも紙管、竹、CFRPを躯体にして、3つのドーム型パビリオンを設計。最初のドームAでは水滴が転がり、水の循環を示したインスタレーションが見もの。リサイクルに配慮したドーム設計は「海の蘇生」のテーマと合致している。


休憩所1/o+h
風にたなびくパオのような大屋根が特徴。赤、オレンジ、黄色など太陽を思わせる色合いが目を惹き、めくれ上がっている部分から内部に入ると、子どもたちが元気に中央の広場で走り回っている。その周りをトイレが取り囲んでおり、数も多く、それほど混雑していない。


スイスパビリオン/マヌエル・ヘルツ・アーキテクツ
空気圧構造の4つの球体が重なる特徴的な外観。軽量な素材でできており、万博終了後の再利用も検討している。内部空間はシャボン玉が飛び交う幻想的な展示からスタートし、AIを使ったコンテンツやインタラクティブな体験型の展示が楽しい。アルプスの少女ハイジにちなんだカフェが人気となっている。


万博企画はここまで。「みんなの建築大賞」のこれまでの結果はこちら↓を。
第3回となる「みんなの建築大賞2026」のスケジュールや推薦委員はこちら↓を。
