隈研吾氏初の工場が福島市に完成、風景になじむ“ポエティックな曲面”の「東北日東工器」

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 機械工具メーカーの日東工器(東京都大田区)が福島市で建設を進めていた東北日東工器の新工場「おおざそう工場」が完成し、7月1日に竣工式が開かれた。新工場は、隈研吾氏が芦原太郎建築事務所と協働して設計を進めた。施工は安藤ハザマが担当した。
 

南から見る。メインの入り口は北西側だが、こちらの面も印象的(写真:宮沢洋)

 あらゆる建築用途をつくっていそうな隈氏だが、意外にも工場は初めてだという。

 新工場は、福島駅から車で20分ほど。東北中央自動車道の福島大笹生(おおざそう)インターチェンジに近い。「近い」というか、インターチェンジのループの内側にあるので、車利用者は外観がよく見える。何も知らずに見ても、何か先端的な企業の施設だな、と思うだろう。

西からの全景(写真:マツイコーポレーション)
(写真:マツイコーポレーション)

 ポイントは一にも二にもこの外観だ。隈氏は言う。「敷地を見に来たとき、山々が背後に見える美しい風景に惹かれ、それに合うような外観にしようと思った。それがこの工場で働く人たちの誇りになるだろう、と」。

隣地(北東側)の「道の駅ふくしま」の駐車場からもよく見える
メインエンドランスの軒下

 隈氏に依頼したのは、日東工器の小形明誠社長だ。小形氏と隈氏は大学時代のサークルの友人だという。竣工式の挨拶では小形社長が、「50年ぶりに突然、隈先生と連絡を取り、『名前だけでもいいから貸してほしい』と頼んだ」といきさつを語り、笑いを取った。もちろん、外観をひと目見れば、「名前だけ」でなかったことは伝わる。

小形社長(左)と隈氏(右)。2人の親密さが伝わる会見だった

 山形市の工場と白河市の工場の2拠点を集約し、生産体制の効率化と最適化を図った。敷地面積は2万8183㎡。S造・2階建て延床面積 1万9954㎡。仕入れから部品加工、組み立てまでの一貫生産体制を導入。自動倉庫や無人搬送車、複合加工機、5軸マシニングセンタなどの最新設備を多数採り入れた。

 総投資額(建物・設備)は約146億円と公表されている。設備のウエートはわからないが、建築コストは相当厳しかったことがうかがわれる。それでも、「ただの箱みたいな建築はここにふさわしくない。途中、実現があやぶまれたときもあったが、現実的な方法で曲面をどうつくるかを模索した」と隈氏は言う。

 線材の傾きを変えていくことで生まれる曲面(線識面)を使い、コストを抑えた。

 軒裏の木ルーバーは、福島県産のスギを使った。

 外壁面はアルミのルーバー。今では「隈研吾=木ルーバー」のようなイメージがあるが、2000年代は金属系のルーバーも多かった。筆者も久しぶりに見た気がするが、この建築は壁面が長いので、平面から曲面への変化がとても印象的だ。幾何学的なうねりは木ルーバーよりも金属の方が映える。こういう方向もいいなと思わせる。

 アルミルーバーのエッジは、この工場で製作している金属部材のシャープさ↓も連想させる。

こういう部材もつくっている

「ポエムのある工場」の時代へ

 建物内には、ゆったりとした展示スペースがある。幅広く機械部品をつくっており、ドアクローザーや防火扉など建築に関わるものもある。隣地に道の駅があって、ふらっと中に入って見学してみたくなるが、当面は関係者のみだという。

 見学コースから工場内が見える。工場内の省人化ぶりにもびっくりした。人の姿も見えるが、加工や搬送の実作業を行っているのはほとんどが機械だ。

工場内は撮影禁止だったので、写真をお借りした(写真提供:日東工器)

 休憩室は、福島市にある高湯温泉から名前を取って「たかゆ」と名付けられた。浴室はないが、名前もくつろぎにプラスする?

「そろそろたかゆ行く?」みたいな会話が想像されて楽しい

 すでに新卒採用にプラスの影響が出始めているらしい。さもありなん、である。

 隈氏は、「工場はこれからもっと重要な建築になる。ポエムのある工場がつくれる時代だと思う」と語った。「ポエムのある」という表現が隈氏らしい。建築家の中には「ナラティブ(物語)」という言葉を使う人が少なくないが、「ポエム」という言葉は建築家の口から初めて聞いた。

 歴史を振り返ると、工場建築は近代の合理化の象徴としてモダニズムの先陣を切ったわけだが(AEGタービン工場とかファグス靴型工場とか)、工業生産が大変革期を迎え、これからの工場建築の指標は「ポエティック」に向かう、ということか。そう聞くと、この曲面もポエティックに思えてくる。

 隈氏は昨年、福島県玉川村に「複合型水辺施設 乙(おつ)な駅たまかわ」」(こちらの記事)が開業するなど、福島との関係が深まっている。筆者がここ3年ほど協力している「ふくしま建築探訪」(福島県のWEBサイト、こちら)で、隈氏の福島愛を聞くインタビュー記事を遠からず掲載する予定だ。そちらもお楽しみに。(宮沢洋)

インタビューはすでに実施済み。現在取りまとめ中!