谷口吉生氏(1937~2024年)の初期代表作である「資生堂アートハウス」が2026年6月末で閉館することが発表された。2017年に耐震改修して再オープンしたばかりだったので、このニュースにはかなりびっくりした。


以下は、公式サイトの発表文だ(太字部)
資生堂は2030中期経営戦略のもと、企業使命BEAUTY INNOVATIONS FOR A BETTER WORLDの実現に向け、当社の企業活動から生み出される文化資産や美術品などのコレクションをより多くの国内外の方々に発信するため、アート支援活動は銀座の「資生堂ギャラリー」に集約します。
これに伴い、資生堂アートハウスは2026年上期の展覧会をもって、6月末に閉館します。展覧会の内容と日程につきましては決定次第、当ホームページにてお知らせいたします。(2025/11/12、公式サイトはこちら)

谷口吉生氏の原点にして「完成度100%」
「資生堂アートハウス」は静岡県掛川市・JR掛川駅から徒歩20分ほどの東海道新幹線沿い(南側)にある。 谷口氏が高宮真介氏とともに「計画・設計工房」を設立した4年後の1978年竣工に完成した。同じ年に父・谷口吉郎との共作である「金沢市立玉川図書館」も完成している。

完成時、谷口氏は41歳。この建築は高宮真介氏との連名で、1980年に日本建築学会賞作品賞を受賞した。それ以前には「雪ケ谷の住宅」(1975年)と「福井相互銀行成和支店」(1976年)があったくらいで、一部の人にしか知られていなかった。それがいきなりの建築学会賞受賞でスター建築家の仲間入りを果たした。
筆者のまわりの人間に聞くと、「土門拳記念館」(山形県酒田市、1983年)以降の美術館は見たことのある人が多いようだが、この資生堂アートハウスを実際に見たという人は少ない。理由は明白で、いつでも開いている美術館ではないからだ。いつ見られるかをちゃんとウオッチしていないと見られない美術館なのである。
だが、これは建築好き、谷口吉生好きはマストで見るべき美術館だ。谷口氏の原点にして、完成度100%。

資生堂アートハウスは1978年に開館した。磁器質タイルで覆われた外観は、東海道新幹線の車窓からもよく見える。
2002年のリニューアルを機に美術館としての機能を高め、近現代の優れた美術品を収集・保存すると共に、美術品展覧会を通じて一般公開する文化施設として活動している。コレクションの中核は、資生堂が東京・銀座の資生堂ギャラリーを会場に開催してきた「椿会美術展」や「現代工藝展」などに出品された絵画、彫刻、工芸品だ。


展示スペースには、半円形の黒い階段を上って入る。わずか数段の段差で気分が切り替わる。階段を上った後は左手に折れて東側の展示室に向かう。スロープで徐々に上ったり、階段で下りたりしながらS字形の内側と外側を一筆描きで巡る。自然で変化のある流れだ。



この施設を見て筆者が強く感じたのは、巧みな高低差だ。美術館としてさほど大きなものではないし、展示室がいくつもあるわけでもない。それでも、高低差を含む動線の設定と景色のトリミングによって、これだけ変化のある空間がつくれるのか、と感心した(平面形が知りたい方はこちら)。
2017年の耐震改修は谷口氏自身による設計
2016年9月から施設を一時休館し、谷口建築設計研究所の改修設計、フジタの施工により、2016年10月から2017年6月までの工期で改修を実施した。
工事の中心は、耐震補強。施設のある静岡県は、2017年から建築基準法が定める地震力を1.2倍に割り増す独自の地震地域係数を新築工事に義務化することに先立って、この施設では静岡県の地震地域係数「1.2」を満たすよう強度を確保した。
2017年7月4日にリニューアルオープン。補強した部分は、説明されなければほとんど分からない。
それから8年での閉館の発表。閉館の理由や今後については、今のところ、資生堂の「2030中期経営戦略」によるということしかわかっていない。
前述のとおり、開いている確率が決して高くないこの施設だが、今現在、展覧会を開催中だ。会期は11月29日(土)まで。
■美術館で、過ごす時間 2025 後期
秋の油彩画名品展
「現代工藝展」1975-1995の軌跡 第二部
会期:2025年 9月 4日(木)~ 11月29日(土) <入場無料>
休館日:日・月・火・水曜日(祝日の場合も休館)
開館時間:10:00-16:30(入館は16:00まで)
会場:資生堂アートハウス 〒436-0025 静岡県掛川市下俣751-1
https://corp.shiseido.com/art-house/jp/exhibit/project.html
開いているのは木・金・土だけなのでご注意いただきたい。
これを逃すと、最後の展覧会である「2026年上期」を待つことになる。これまでの例に倣うと、会期は3か月程度だ。つまり2026年4月ごろの開幕。本サイトでもう一度リポートしたいと思っているが、「体験」に勝るものはないので、ぜひ自分の目で見てほしい。(宮沢洋)


