「(エンジニアリング)」に注目! 静岡県立中央図書館はC+A・アイダアトリエ・日建設計(エンジニアリング)が妹島氏に勝利

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 静岡県は3月7日、「新県立中央図書館整備事業」の設計者を選定する公募型プロポーザルで「C+A・アイダアトリエ・日建設計(エンジニアリング)設計企業体」を最も優れた技術提案書に特定したことを県のホームページで公表した。次順位は妹島和世建築設計事務所の提案書だった。

県がホームページに掲載した「最も優れた技術提案書の概要(事務局による抜粋)」より

 県の発表はこちら

 静岡県は、2段階方式の公募型プロポーザルを昨年秋に公示し、昨年12月の1次審査で6者を選定。今年2月19日に6者の公開プレゼンテーションと2次審査(非公開)を行い、その結果を3月7日に公表した(以下、引用)。

◆特定結果

(1)最も優れた技術提案書を提出した者

・C+A・アイダアトリエ・日建設計(エンジニアリング)設計企業体 

(2)次順位の技術提案書を提出した者

・株式会社妹島和世建築設計事務所 

(3)その他の提案書を提出した者

・有限会社マル・アーキテクチャ

・株式会社平田晃久建築設計事務所

・遠藤克彦建築研究所・RIA設計共同体

・石本・畝森・針谷設計共同体

◆今後のスケジュール(予定)

令和4年3月   最も優れた技術提案書を提出した者と契約について協議

令和4年3月末~ 設計業務委託契約の締結

基本・実施設計 令和4年3月から令和5年9月

※提案内容がそのまま設計案になるものではありません。

◆審査員

審査委員長 長谷川 逸子 長谷川逸子・建築計画工房(株) 代表取締役

副委員長 北山 恒  横浜国立大学 名誉教授

千葉 学 東京大学大学院工学系研究科 教授

貝島 桃代 スイス連邦工科大学チューリッヒ校 教授

古瀬 敏 静岡文化芸術大学 名誉教授

岡本 真 アカデミック・リソース・ガイド(株) 代表取締役

是住 久美子 田原市図書館 館長

難波 喬司 静岡県副知事

県がホームページに掲載した「最も優れた技術提案書の概要(事務局による抜粋)」より

 3月7日に、審査委員長の長谷川逸子氏の審査講評も公表された。

 6作品はそれぞれ新しい考えを導入し優れた作品でした。 二次審査の後に審査委員で議論を繰り返した結果、22番を選びました。 最も優れた技術提案で総合的に優れている点や取組体制等を評価しました。 「静岡県の公共建築はできる限り県産材を使う」という県の方針があります が、図書館としての構造耐火や経済性から公募資料で強要しなかったにもかかわらず「天竜杉のハイブリッド木質構造の採用」に努力したいと記してあるこ とをはじめ、静岡の気候にあった外読書空間と内部との一体化や、静岡県を代 表する植物(旧東海道、三保)の松林等、この場からの歴史や地域性を捉え快 適さと関わるランドスケープデザインの導入など、静岡県の図書館をつくると いう意志が全体に貫かれていました。また審査時、発表者の明確に話す姿勢か ら、これから設計してゆくのに大切な“コラボレーションのためのコミュニケ ーション”も重要ということを合わせ考え、22番を一番に決定しました。(2022年2月21日 審査委員長 長谷川逸子)

設計JVの組み方と「(エンジニアリング)」に注目!

 と、この結果自体はいろいろなメディアが報じると思う。このBUNGA NETが注目したいのは、最優秀チームの設計JVの組み方だ。赤松佳珠子氏を中心とするC+Aと会田友朗氏率いるアイダアトリエのアトリエ系2組、そして、日本最大の設計事務所、日建設計のチームである。県の正式発表にある「日建設計(エンジニアリング)」という書き方に注目してほしい。これは「日建設計はエンジニアリング面のみで参加します」という意味だろう。

 それでも普通なら「C+A・アイダアトリエ・日建設計設計企業体」だ。なぜ、わざわざ「C+A・アイダアトリエ・日建設計(エンジニアリング)設計企業体」と書くのか。

 筆者は、昨年11月、『誰も知らない日建設計』という書籍を出した。住友財閥の営繕部門を起源として約120年の歴史を持つ日建設計が、初のデザイン戦略「日建デザインゴールズ」をまとめるまでのプロセスを描いたものだ。その取材の過程を踏まえ、筆者の書いてよい範囲でその意味を推測すると、この「(エンジニアリング)」という表現は、「これから日建設計はエンジニアリングだけでも仕事をとっていきますよ!」という対外的な宣言であると思われる。

 初版の「日建デザインゴールズ」には、計52のゴールズがあって、その中の1つにこういうものがある。

日建グループを開放系の組織に変え、プロジェクト単位で外部の人材を 積極的に取り入れたり、外部の人と仕事をすることで刺激を受け、 日建を内部から揺さぶる仕組みを デザインする(『誰も知らない日建設計』から引用)

 これ、まさに今回のJVの組み方ではないか。このゴールズの文言が実際に機能し始めたのだ。これまで、諸事情により日建設計がエンジニアリング面だけを担当することはあったものの、積極的にエンジニアリングだけを引き受けたことを明示することはまずなかった。そう、アトリエ建築家もこれからは、日建設計のエンジニアリング部門と組めるのである(多分)。

 うーん、いろいろ書きたいのだけれど、後はゴールズの文面から想像するか、日建設計と直接仕事の交渉をしてみてください。とにかくこれは、日建設計120年の歴史の中でも、結構大きな転換点であると日建設計ウオッチャーの筆者は思うのである。果たして「(エンジニアリング)」はこれからどうなっていくのか。もちろん、この図書館がどんな建築になるのかも注目だ。(宮沢洋)