横浜美術館(1989年、設計:丹下健三)リニューアルの“セカンドステージ”を見てきた。設計を担当したのは、本サイトで2023年に1年間「よくみる、小さな風景」を連載してくれていた乾久美子氏と、グラフィックデザイナーの菊地敦己氏だ。乾氏には言いづらいが、予想以上に良かったので(乾さんすみません)、建築好きの皆さんにお薦めしたい。

リニューアル“セカンドステージ”とはなんぞやというと、今回のリニューアルは、丹下都市建築設計による「建築」のリニューアルと、乾久美子氏+菊地敦己氏による「空間構築設計」「サイン計画」などのリニューアルの2段階で行われたのだ。2021年3月から長期休館に入り、2024年3月に「第8回横浜トリエンナーレ」の開幕に合わせていったん第1段階がお披露目となった。そして閉幕後に再び休館して改修。2025年2月に第2段階がお披露目になった。第1段階は本サイトですでにリポートしている。

丹下健三の無念を晴らす横浜美術館、丹下都市建築設計により可動ルーバー復活、乾久美子氏によるリニューアルは折り返し点

2025年2月の第2段階お披露目を横浜美術館公式サイトでは「全館オープン」と呼んでいる。なぜ、2月に全館オープンしたものを今頃見に行ったのかというと、現在、同館で「佐藤雅彦展 新しい×(作り方+分かり方)」を開催中だからである(会期は6月28日〜11月3日)。佐藤雅彦氏は「ピタゴラスイッチ」 「バザールでござーる」 「だんご3兄弟」などを生み出したクリエイターだ。筆者のような“伝える”仕事をしている人間にとっては“神”である。


その神の展覧会が夏にあることを今年の初めに知って、「だったら夏に行こう」と思ってしまったのである。乾さん、本当にすみません。
全館オープン時のプレスリリースを引用しながら写真を見ていこう(太字部)。
横浜美術館は、2025年2月8日(土)より全館オープンし、だれもが思い思いに過ごせる美術館へと生まれ変わります
■だれもが思い思いに過ごせる美術館へ
だれもが無料でくつろげる「じゆうエリア」を拡充横浜美術館のエントランスホールである「グランドギャラリー」。ここを中心とした空間を「じゆうエリア」と名付け、無料スペースの楽しみ方を大幅に拡充しました。

飲み物を飲んでおしゃべりを楽しめる「まるまるラウンジ」、小さなお子さんが家族と一緒に安心して利用できる「くつぬぎスポット」、大階段の彫刻作品のまわりで座って本を読むこともできるスペースなどを新設し、美術図書室もリニューアルしました。

展覧会を見ない方でも、ぶらりと訪れてのんびりと過ごすことができる憩いの場がひろがり、開放的な美術館に生まれ変わりました。
■「じゆうエリア」のリニューアルに関わったクリエイターたち
空間構築、サイン計画:乾 久美子(いぬいくみこ)/建築家・横浜国立大学大学院Y-GSA教授
設計者・丹下健三が使った御影石に埋め込まれているさまざまな色を抽出し、オリジナルの什器をつくりました。横浜美術館の特徴である巨大な天窓が修復されたことをいかし、自然光の下で石の色と什器がお互いに引き立てあい、和らいだ雰囲気が漂う場所を目指しました。
入ってすぐ正面の「まるまるラウンジ」にはいろいろなサイズのテーブルと椅子を揃え、ひとりでも、みんなでいても居場所と感じられる場所になればと考えました。また、ユニット化した什器はシーンにあわせて組み合わせが変えられるようになっています。

什器の制作にあたっては、さまざまな障がいのある方たちと共にインクルーシブワークショップを実施しました。原寸大のモックアップを試しながら知見を得るという貴重な機会がなければ生まれなかった家具もありますので、ぜひお楽しみください。


空間構築、サイン計画、リニューアルロゴ:菊地敦己(きくちあつき)/アートディレクター・グラフィックデザイナー
サインやポスターなどのグラフィックデザインを手がけています。また乾久美子建築設計事務所と協働して空間のデザインにも取り組みました。
新しい美術館を立ち上げるのとは違い、既存の美術館建築やこれまでの活動を捉えた上で、どのようにアップデートしていくかが課題でした。
グランドギャラリーの階段は片側が四角、もう一方は丸をモチーフにした空間が特徴的です。新しいマークは、既存のマークの四角を同じ面積の丸に置き換えたもので、隙間がある風通しの良い組み合わせになっています。もともと存在する形が変化して、ひらいていく。このことは、横浜美術館がリニューアルで目指していることの象徴でもあります。

また、「YOKOHAMA MUSEUM OF ART」などのタイポグラフィにも、四角と丸を組み込み、違う形やイメージが同居しながら調和することを目指しました。展覧会を観に行くのはもちろんですが、グランドギャラリーで待ち合わせしたり、お茶を飲んだり、ぼーっとしたり、横浜美術館が公園のように身近な空間として、ひらかれていくことを期待しています。


柔らかくなっているのは展示室も
本人たちの口からは言いにくいのだろうと思うので代わりに言うと、劇的に空間が柔らかくなっている。筆者は『丹下健三・磯崎新建築図鑑』という本を書くために、工事前にも見に行った。このときとは印象が全然違う。元がフランスパンだとしたら、バゲット煮込みくらいに柔らかくなっている。
じゆうエリアも柔らかくなっているのだが、筆者がもっと驚いたのは、コレクション展の展示室内。展示室って椅子が変わるとこんなに柔らかくなるのか!



すでにおわかりだと思うが、統一感のベースはピンク色だ。ピンク色を使った現代建築なんてルイス・バラガンと吉阪隆正くらいしか思いつかないが、なぜピンクなのかは建築好きなら現地を見てピンとくる。もとの丹下建築の壁の石張りがややピンク味ががっているのだ(筆者は改修前にはそんな色だと認識していなかった…)。


正確に言うと、建物に使われている石から11色を取り出して家具類を構成している。また、乾氏と菊地氏は、什器やサインをデザインするにあたり2日間のインクルーシブワークショップを実施。視覚障害(全盲/弱視)・聴覚障害、高齢者、親子など多様な背景をもつ20人以上に意見を聞いたそう。(詳細は美術館のサイトのこちらのページへ)
そうやって意見をいろいろと聞くと、誰にもわかりやすいパキッとした色彩になりそうなものだが、それがこんなにも柔らかいものになるのは、つくり手の抽出能力の高さからだろうか。天国の丹下先生もきっと喜んでいるような気がする。

ところで、開催中の佐藤雅彦展は、単なる作品紹介ではなく、それらに通底する“つくり方のルール”を見せるというハイレベルなものだ(姿勢がハイレベルなのであって、個々の内容は超わかりやすい)。

筆者は展示を見ながら「絶対まねできない!」と思ってしまったが、それって、建築家・乾久美子にはかなり通じる部分があるように思う。ぜひ、2人の対談をやってほしい。実現するなら書記として参加します!(宮沢洋)
