本来は「日曜コラム」であるが、皆さんに早くお礼をお伝えしたいので少し早く公開することにした。今年も「みんなの建築大賞」が無事終わった。投票いただいた方、推しの建築を拡散いただいた方、本当にありがとうございました。おかげさまで、2月16日(月)に開催した結果発表会&授与式は大変な熱気で、「これはお金が取れるのでは?」と思うくらいだった。

結果はすでに報じたとおりで、大賞が「null²」、推薦委員会ベスト1が「大屋根リング」、「JINS賞」が「ラビットホール」に決まった。今回は、ノミネートされた10作以外から「旧香川県立体育館」に特別賞が贈られた(結果の詳細はこちらの記事を→https://bunganet.tokyo/award2026-6/)。
筆者(宮沢)はこの賞の言い出しっペなので、必然的に事務局の中心として動いている。その調整業務はけっこう大変で、ノミネートされた方々に「建築の裾野を広げるためにどうかひとつ!」と善意頼みでいろいろなお願いごとをしなければならない。賞を取ったとしても賞金はない。票が少なければかえってマイナスイメージになるかもしれない。だから、ごくまれに冷ややかな反応もあり、ドーンと落ち込んだりもする。毎年、ノミネート作を発表する数日前には「なぜ自分はなぜこんなことを無報酬でやっているのか」と自問自答し始め、投票開始時にはロケットの発射を見守るようにドキドキハラハラし、得票が増え始めるとどっと安堵して、授与式を開催する頃にはクライマーズハイへと変わる。
そんな過程で毎年、「建築」というものについていろいろなことを考えさせられるのだが、今回、特に自分の心に刺さったことを2つ書きたい。
①「建築とそうでないもの」
この賞は、第1回のときから、実施の「主旨」をこう書いている。
既存の建築賞は、建築界の権威付けにはなっても、一般の人に全く伝わっていない。世界に誇る魅力的な建築の数々を一般の人に知ってもらう機会を逸し続けている(建築文化への理解が高まらない一因である)。そこで、メディアを介して確実に一般に発信され、またSNSによって選考過程自体が自然拡散される賞として、「みんなの建築大賞」を実施する。
「既存の建築賞が一般の人に伝わっていない」のは、一般のメディアが取り上げないからである。だから、「みんなの建築大賞」は、「メディアが取り上げなくても一般の人に伝わる」やり方にした。一般投票にすることで、その過程自体を一般の人が知ることができるようにしたのである。
ではなぜ、一般メディアは建築の賞を取り上げないのか。大きく言えば「関心が薄い」ということであると思うが、理由を細分化すると、「専門家が考える『建築』と、一般の人が考える『建築』との間にギャップがある」ということも大きいように思う。
それを強く感じるようになったのは、昨年、総得票数2位で「特別賞」に選ばれた「ジブリパーク 魔女の谷」だった。多くのジブリファンにとってはこれこそが「建築」だったのである。

ジブリパークの「魔女の谷」にある「ハウルの城」(写真:宮沢洋)

第3回となる今回は、それがさらに顕著に表れ、「null²」が圧倒的な得票で大賞となった。null²ファンにとってはこれこそ「建築」なのだ。おそらく「万博パビリオン大賞」ではなく、土俵が建築全般の「建築大賞」だから、「なんとしてもこの年の1位に」という盛り上がりが生まれたのだと思う。

(写真:宮沢洋)
推薦委員会ベスト1の「大屋根リング」も、狭義の「建築」ではない。推薦委員会で最も票を稼いだものなので、おそらく日本建築学会賞などでも現地審査になれば高い評価を得たと思う。しかし、すでにリングとしては現存しない。すでにないものは、通常の建築賞が扱う「建築」ではない。

(写真:高木伸哉)
推薦委員会で2番目に評価の高かった「横浜美術館 空間構築」もまた、狭義の「建築」ではない。普通なら什器デザインとかサインデザインとかに分類される仕事だ。しかし、それによって劇的に空間が変わっている。以前を知る人はびっくりすると思う。これはまさしく「建築空間のリノベーション」である。SNSの短い情報ではそのすごさがなかなか伝わらなかったようで、個人的にちょっと残念であった。

(写真:飯田彩、下も)

とはいえ、こういった「“建築でないもの”としてはじかれがちな建築」をノミネート対象に広げていくことが、この賞の責務の1つであると、今回強く感じた。
②「組織の思いと1人の想い」
「人1人の想い」であっても、建築への関心を急激に高めることができる。それも今回、強く感じたことだ。
1人目は「null²」の落合陽一氏。「最後くらいリングに勝ちたい」というタイトルのメッセージを落合氏がnoteに投稿したのは2月2日の12:46。投票開始から2日目の昼過ぎだ。偉そうに言うなと言われそうだが、この文章はなかなかに人の心を動かす(投稿内容はこちら)。
この投稿の時点までは、大屋根リングとnull²の投票数はほとんど互角だった。


落合氏のこの投稿からじわじわと差がつき始め、2日目はnull²6457票、大屋根リング6066票とnull²やや有利で終えた。その投稿はむしろ3日目、4日目に影響を与え、4日目時点でnull²1万1469票、大屋根リング7922票と、1.4倍の差となった。この票差をほぼ維持したまま10日間を終えた形となる(最終日:null²1万3750票、大屋根リング7922票)。
2人目は、「設計者プレゼン総選挙」で「広島駅南口ビル」の説明をした西日本旅客鉄道大阪工事事務所広島工事所の田原潤一所長だ。


(写真:菅原由依子)
現地からのライブ中継に挑み、短時間で見事に建築空間の魅力を伝えた田原氏については、番組中の書き込み(チャット)でも称賛の声が上がり、番組が終わってからも「広島のあの人がよかった」「広島駅の方、ファンになりました!」といったメッセージが何通も筆者のもとに届いた。わざわざ書いて送りたくなるくらいだから、相当多くの人の心に刺さったのだと思う。
田原氏は、この巨大プロジェクトの設計チームの責任者というわけではない。実施設計以降に施主側の設計スタッフとして関わった。チームのワンオブゼムであるのだが、それでも「この人があれだけ熱く語るならば見てみたい」と思わせるプレゼンだった。もし、設計チームの各者が1人ずつ登場して短くコメントする形のプレゼンだったら、あんなに人の心に届かなかったのかもしれない。
それを見ながら筆者は、建築の魅力を人の心に届かせるには、「組織の思い」<「1人の想い」なのかも…と思った。
投票期間が終わった後で知ったのだが、田原氏は、自分の顔写真入りの投票呼び掛けポスターをつくって、街で貼ってもらったらしい。


田原氏のような人がチームに何人もいて、それぞれに個人の「想い」を発信したら、もしかしたら広島駅南口ビルがnull²に勝っていたかもしれない。
ちなみに筆者の古巣の日経BP社では、「想い」という漢字はNGで、「思い」一択だった。今はどうなのかわからないが、それが日経新聞グループ全体の表記ルールであった。なので、フリーランスの今だからこそ、筆者のこの賞への「想い」を熱く書いてみた次第である…。おあとがよろしいようで。(宮沢洋) 結果の記事はこちら↓。

