『湯けむり建築五十三次』発刊! 隈研吾氏のデビュー作「伊豆の風呂小屋」独占ルポ&対談一部公開

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数十年ぶりに「伊豆の風呂小屋」を訪れたという隈氏に同行(写真:宮沢洋)

 筆者(宮沢)の書き下ろし書籍『イラストで読む 湯けむり建築五十三次』が11月8日に青幻舎から発刊となる。建築家が設計した全国53カ所の温浴施設を画文でリポートする同書。最も多い3件を収録している建築家が3人いる。隈研吾氏、坂茂氏、岡昇平氏だ。隈氏は、「モダニズムと浴室」をテーマにした対談にも登場してもらった(対談相手は建築史家で銭湯にも詳しい米山勇氏)。ここではその中から、隈氏がデビュー作の「伊豆の風呂小屋」(静岡県熱海市、1988年竣工)について語っている部分を公開する。対談後に隈氏と訪れた実物の様子も、書籍未掲載の写真付きで。これは貴重!!(以下、聞き手は宮沢洋)

『イラストで読む 湯けむり建築五十三次』(青幻舎、A5判、オールカラー、224ページ、2530円、11月8日発刊)
【湯けむり建築対談】隈研吾(建築家)×米山勇(建築史家)「風呂の歴史は近代の抑圧との闘い 異空間から“都市のエンジン”へ」の最初の見開き。対談場所は江戸東京たてもの園の「子宝湯」

──隈さんは、デビュー作が「伊豆の風呂小屋」(静岡県熱海市、1988年竣工)です。当時、私はなんて変わったタイトルを付ける人なんだろうと思った記憶があります。普通の建築家なら、「伊豆の望洋楼」とかではないかと。当時から風呂の時代が来る、という読みが?

隈:そうではないですが、あの建築のタイトルが自分の出発点になったことは確かです。

「10宅論」(ちくま文庫)の表紙

 僕の原点は、著作でいうと『10宅論』です。住宅の神格化、例えば篠原一男(「住宅は芸術である」と宣言した建築家、1925~2006年)の住宅論があってそれが安藤忠雄(コンクリート打ち放しを日本に広めた建築家、1941年~)に引き継がれていくみたいな構図、個人住宅の神格化みたいな流れをものすごく気持ち悪く感じていて、それを批判したのが『10宅論』だった。なぜ個人住宅を自分の思想とからめてそんなに偉そうに語るんだろうと。

 実際には個人住宅の私有というのは、近代の資本主義の中にどっぷり飲み込まれていて、20世紀資本主義の最も効率的な道具としてあった。にもかかわらず、社会に対する神聖なる抵抗、一種のゲリラとしてたてまつること (注:安藤氏は自作を「都市ゲリラ住居」と呼んでいた)のおかしさを笑い飛ばそうと思った。僕が一番ひねくれていた時代です(笑)。

 『10宅論』と、「伊豆の風呂小屋」は一対になっているんです。伊豆の風呂小屋を頼んできたのは、友達の友達で、自分は別荘を頼みたいわけじゃなくて、風呂場と脱衣場を設計してほしいんだと。温泉の出るところに安い土地を買ったから、脱衣場がでかくなったみたいなものを設計してほしいという奇妙な(笑)オーダーだった。

対談の2週間ほど後に隈氏と実物を訪れた

──もともと風呂重視の依頼だったんですね。

隈:そう。これは僕が『10宅論』で言おうとしていたこととぴったり同じだなと。それで、彼のオーダーそのままに「伊豆の風呂小屋」というタイトルで発表しました。

 建築のデザインも、当時人気だったコンクリート打ち放しに対して、どれだけ逆をやれるかっていうことを考えました。そういう意味で風呂っていうのは僕にとっては反近代であり、モダニズムをさらにマッチョに進化させた「日本式モダニズム」に対する批判の拠点であったと思います。

──なるほど。運命的なお施主さんと出会って、風呂が実作への入り口になったんですね。

隈:「伊豆の風呂小屋」でデビューしたので、その前に篠原的な住宅とか安藤的な住宅を望む施主と出会っていたら、全く違う建築家になっていたのかもしれない(笑)。

<ここまで対談から引用>

 対談の前後や、53件のリポートは、ぜひ書籍でご覧ください。詳細はこちら。風呂好きも、建築好きも、どちらも楽しめるガイド本です!(宮沢洋)

[本書に登場する建築家]
東利恵/有馬裕之/安藤忠雄/伊東豊雄/石山修武/磯崎新/内井昭蔵/岡昇平/菊竹清訓/隈研吾/黒川紀章/坂倉準三/高松伸/竹原義二/谷口吉生/原広司/坂茂/橋本夕紀夫/藤森照信/内藤廣/中村拓志/長坂常/西山卯三/吉村順三/吉村靖孝 etc.(五十音順)

[本書で紹介する建築]
PART1【東京】
01 黄金湯(東京)
02 両国湯屋 江戸遊(東京)
03 神田ポートビル SaunaLab Kanda(東京)
04 五色湯(東京)
05 天然温泉 久松湯(東京)
06 ハラカド 小杉湯原宿(東京)

07 狛江湯(東京)

PART2【西へ、南へ】
08 湯河原惣湯 惣湯テラス(神奈川)
09 ホテルニューアカオ スパリウムニシキ(静岡)
10 オーシャンスパFuua(静岡)
11 星野温泉 トンボの湯(長野)
12 大田区休養村とうぶ(長野)
13 山田温泉 大湯(長野)

14 東急ステイ飛騨高山 結の湯(岐阜)
15 加賀片山津温泉 総湯(石川)
16 山代温泉 古総湯(石川)
17 山代温泉 総湯(石川)
18 VISON 本草湯(三重)
19 ホテル川久(和歌山)
20 カンデオホテルズ南海和歌山(和歌山)
21 延命湯(大阪)

22 箕面観光ホテル(大阪)
23 ナチュールスパ宝塚(宝塚市立温泉利用施設)(兵庫)
24 兵庫県立先端科学技術支援センター(兵庫)
25 城崎温泉 地蔵湯(兵庫)
26 東光園(鳥取)
27 玉造温泉ゆ~ゆ(島根)

28 長門湯本温泉 恩湯(山口)
29 川棚グランドホテルお多福 山頭火(山口)
30 仏生山温泉(香川)
31 奥道後壱湯の守(旧ホテル奥道後)(愛媛)
32 オーベルジュ土佐山(高知)
33 大正屋(佐賀)
34 別府温泉 杉乃井ホテル 棚湯(大分)
35 温泉療養文化館 御前湯(大分)
36 ラムネ温泉館(大分)
37 クアパーク長湯(大分)
38 神水公衆浴場(熊本)

39 ホテル京セラ(鹿児島)

PART3【東へ、北へ】
40 中国割烹旅館 掬水亭(埼玉)
41 まるほん旅館 風呂小屋(群馬)
42 国民宿舎 鵜
の岬(茨城)
43 塩原温泉湯っ歩の里(栃木)
44 越後妻有交流館キナーレ 明石の湯(新潟)
45 Snow Peak FIELD SUITE SPA HEADQUARTERS(新潟)
46 女川温泉ゆぽっぽ(宮城)
47 鳴子・早稲田桟敷湯(宮城)
48 銀山温泉共同浴場 しろがね湯(山形)
49 ショウナイホテル スイデンテラス(山形)
50 KAMEYA HOTEL 龍宮殿サウナ(山形)
51 tower eleven onsen & sauna(北海道)
52 界 ポロト(北海道)
53 キトウシの森きとろん(北海道)