香川県が約10億円かけて解体することを決めている旧香川県立体育館(1964年竣工、設計:丹下健三+都市建築設計研究所、集団制作建築事務所)に対し、民間団体の「旧香川県立体育館再生委員会」が7月18日、買い取りなどによる保存と利活用について協議を始めるよう県教育委員会に申し入れた。「県は費用をかけずに保存可能」としている。その提案内容や今後の計画について説明する記者会見が7月23日午前11時から高松市のホテル、パールガーデン新館で行われた。


会見には再生委員会委員長で建築家の長田慶太氏(長田慶太建築要素代表)、副委員長で経営戦略コンサルタントの上杉昌史氏、理事で「リファイニング建築」で知られる青木茂氏らが登壇した。
再生委員会のメンバーには、「支援者」として建築家の森俊子氏(ハーバード大学大学院教授・Toshiko Mori Architect PLLC 建築事務所,CEO)や建築史家の後藤治氏(工学院大学理事長・文化庁,文化審議会、文化経済会、建築文化ワーキンググループ臨時委員)の名があり、「サポート企業・団体」として乃村工藝社などが名を連ねている。乃村工藝社は高松出身の乃村泰資(1873~1948年)が足袋職人から舞台の道具方に転じて興した会社である。後藤治氏はかつて文化庁で登録有形文化財制度の創設の中心になった人だ。

旧香川県立体育館は耐震改修工事の不落が続き、2014年に閉館した。県教育委員会は、今年8月にも解体工事の事業者を選定する一般競争入札の公告を行う準備を進めている。これに対し再生委員会は、民間の事業として建物と敷地を買い取るか借りるなどして全額自己資金で耐震補強や改修を行い、ホテルを核とする観光交流拠点として再生させる計画を提案している。一方、会見の前日22日には、香川県の池田知事が予定通り解体を進める考えを示しており、今後の民意の高まりが計画を左右することになりそうだ。。
この日、公表された資料からポイントとなる部分を引用する。
「旧香川県立体育館再生に向けた検討素案」(旧香川県立体育館再生委員会、2025/7/23)
◆香川県立体育館の再生活用に関する新たな提案について
香川県立体育館(丹下健三設計)は、老朽化と耐震不足を理由に解体が議決されているが、国内外からその文化的価値を再評価する動きが高まっている。今回、民間より自己資金による全額改修・保存・宿泊施設等としての利活用の提案が示され、過去の前提(県費負担前提)とは異なる現実的かつ持続可能な再生活用の道が見えてきている。
◆判断の前提の変更
民間資金による耐震・再生に加え、新たに収益事業としての保存・再生案が提示されることで、解体方針時の条件から変更

◆民間による再生案のスキーム図
各界で実績のあるプレイヤーに声掛けをし、すでに複数の企業が参画を検討
民間100%で、文化的価値を残しながら宿泊施設を中心とした収益施設へ再生

◆民間による再生案
案① ブックラウンジ併設ホテル案
観光客と県民を対象とした、宿泊・知・文化・建築を融合した複合施設
– 1,2階の低層部に、ライフスタイルホテル
–3階以上の大空間に、本が敷き詰められたブックラウンジ・カフェ、アートスペースを整備


案② 1棟ホテル案
主に、インバウンドを対象とした、1棟宿泊施設への転用案
新たに床を張り、屋上を開けることで、豊かな内部空間を創出し、余白部分に“ここならでは”の風景を演出
–1階は、バックヤード、レストラン、ロビー
–2階以上に複数の大きさの宿泊部屋
–大きく建物中央部を開け、光庭を整備することで、新たな余白空間を創出


◆事業性の確認
事業規模が小さい案①であっても、約1億円の営業利益が見込めるため、
民間事業者としても事業参画並びに事業の継続性を判断可能な一定の水準

◆保存ではなく「再生」を目指す理由
お金を生み出さない保存ではなく、
文化的価値を損ねない形で建築物を事業として“再生”することで、永続性を担保

◆保存ではなく「再生」を目指す理由
再生技術は、建築家青木茂によるリファイニング建築を活用

◆耐震改修の考え方
民間転用と技術進化により、合理的な耐震設計が可能となり、耐震改修費が減額
これまでの考え方(2014年) 耐震改修費:18億円
↓
新たな考え方(2025年) 耐震改修費: 6~10億円1
(注1)内部調査を実施出来ていないため、コンクリートの劣化等は今後詳細に検討。また、用途によって必要荷重が異なるため、今後の詳細検討により変更の可能性があります)

◆想定される効果(経済・地域振興)
宿泊施設等の利活用による経済効果は、初期投資に30億円超、年間経済規模で5億円程であり、高松の活況に一定寄与

◆想定される効果(経済・地域振興)
長期では、周辺文化資源との回遊性を高めることで、県のブランド価値向上に寄与

◆土地・建物の取り扱いに関する案
民間で土地・建物の取得を想定。土地は有償譲渡(売却)、建物は譲渡(無償または低額)とするスキームが適している

◆耐震に関する想定スケジュール
現解体工事完了予定の2027年度までに耐震補強工事は完了
並行して再生に向けた事業化を推進

◆香川県への要望事項
– 解体判断の前提条件が変わったことをご理解いただきたい
– 費用をかけずに「香川の遺産」を守る道を再検討していただきたい
– 次世代に残す価値ある選択として、再生・活用を選んでいただきたい
以上が資料のポイントである。会見の様子は本日18時以降Youtubeで配信される。こちら→https://www.youtube.com/watch?v=h6oDP1BiHzo

「誰がやるのか具体的なものになっていない」と知事、今後は世論の盛り上がり次第か
地元のKSB瀬戸内放送は、この会見の前日(7月22日)の知事定例会見で、池田豊人知事との間にこんなやりとりがあったことを伝えている。(元の報道はこちら)
<香川県/池田豊人 知事>
「誰がやるのかということも含めまして、具体的なものになっているという提案ではないと思います。そういうことで状況に変化はなく、安全確保のためにも予定通りの解体を進めてまいりたいと考えております」
<記者>
「(解体工事の)入札の公告をすると本当に動き出すんですけど、それを一旦止めて(検討の)猶予を持たせるということも今のところないということですか?」
<香川県/池田豊人 知事>
「安全確保のためには、予定どおりの解体をすることが一番望ましいというふうに考えております」
当サイトではこれまで何度かこの体育館の価値について書いてきた。そして、今年3月に上梓した拙著『丹下健三・磯崎新 建築図鑑』の旧香川県立体育館のリポートは、こんなイラストで締めた。

当サイトで今年に入って掲載した記事2本を以下に挙げておくので、よろしければ、あなたの判断の材料としてご一読いただきたい。(宮沢洋)
丹下からSANAAへ代替わり、香川県・新体育館の開館式で気づいた「船と島」のメッセージ(2025年2月26日)
重要文化財内定!「太陽の塔」の建築的すごさとは? 吉報でさらに高まる「旧香川県立体育館」の価値とは?(2025年5月17日)

