失敗が育てた建築家のいまを見る、「内藤廣 赤鬼と青鬼の場外乱闘 in 渋谷」開幕──内藤廣3連投①

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 本サイトで2024年4月からこの春まで連載を執筆いただいた内藤廣氏。苦しい連載を終えてひと休みどころか、今年の夏は“内藤廣サマー”の様相である。まずはこの展覧会の話題。会場の「渋谷ストリーム ホール」にたどりつく前に、渋谷駅から渋谷ストリームに渡るブリッジ部分の広告看板に目が点になった。

ちなみにこのブリッジは旧東横線渋谷駅のホームを再利用した部分で、坂倉準三が設計した通称「蒲鉾屋根」を模したデザインとなっている。渋谷ストリーム(2018年)の設計は東急設計コンサルタントと小嶋一浩+赤松佳珠子/CAt(写真:宮沢洋)

 かつて日本の建築展で、これほど社会に対して強いメッセージを放った広告看板があっただろうか。これだけでも建築史に残る!

 7月25日(金)から始まった「建築家・内藤廣 赤鬼と青鬼の場外乱闘 in 渋谷」である。会期は8月27日(水)までと短いので、気になる人は早く見に行った方がいい。

内藤廣氏

 実は筆者(宮沢)はこの展覧会に少しだけ関わっている。冒頭に触れた当サイトの連載「赤鬼・青鬼の建築真相究明」がこの展覧会に合わせて書籍化されたのだ。タイトルは『建築家・内藤廣 赤鬼と青鬼の場外乱闘』で、グラフィック社から発売になったばかり。この本を会場で売るということも聞いていたのだが、その販売コーナーにも目が点になった。

トルネード積み!

 グラントワ(島根県益田市)での展覧会を見た人は正直、少し騒々しく感じるかもしれない。が、それこそが渋谷なのだ。

盛況だったグラントワの展覧会(2023年)の渋谷版

 本展「建築家・内藤廣 赤鬼と青鬼の場外乱闘 in 渋谷」は、渋谷駅周辺の再開発において、2006年から建築デザインや景観を調整する「デザイン会議」の座長などを務める内藤廣が手がける全45のプロジェクトを展示する。2023年に島根県益田市の島根県立石見美術館(島根県芸術文化センター「グラントワ」内)で開催された展覧会「建築家・内藤廣 BuiltとUnbuilt 赤鬼と青鬼の果てしなき戦い」の渋谷版として企画された。グラントワでの展覧会は、1万2815名の来場者があった。

 公式サイトの内藤氏の言葉を引用する(太字部)。

2023年に島根県益田市で展覧会をやった時に、東京からもたくさんの方が見にきてくださいました。その中に私が関わっている渋谷の再開発に関係する方たち、とりわけ商店会のメンバーもいました。彼らから、「これをぜひ渋谷でやってほしい」との声があり、その熱意に応えるつもりで、この渋谷の展覧会を催すことにしました。内容は益田での展示を基にしつつ、美術館とは異なる場所での展示なので、展示の仕方も変え、大きく加えたのは渋谷に関する展示です。これから渋谷がこうなっていく、というまち造り全体を俯瞰する模型を多くの方に見てもらいたかったので新たに制作しました。

 会場は3フロアあり、普通は4階→5階→6階と進むが、6階が本展の目玉なので、そこから紹介する。公式サイトの説明文より。

◆6階:都市の対比:渋谷と益田

「渋谷」と「益田」という異なる都市をテーマにした新作模型と映像作品を展示。渋谷では、駅周辺を中心とした約300m四方を1/200スケールで俯瞰できる都市模型に加え、「東京メトロ銀座線渋谷駅」(2020年)や、「渋谷駅街区東口二階デッキ」(2012年)、計画中の「西口3階上空施設(仮称)」の1/20スケールの巨大模型を通じて、都市構造の複雑性やダイナミズムを視覚化します。

広角でも入りきらないのでパノラマで撮ってみた。左が渋谷、右が益田
益田側の展示。手前は200分の1、左奥が20分の1
渋谷側の展示。手前は駅周辺の200分の1模型
渋谷側の展示。銀座線渋谷駅や東口二階デッキの20分の1模型

◆5階:近年作・Unbuilt作品

2006年以降のUnbuilt(実現に至らなかった)プロジェクト8点に加え、「高田松原津波復興祈念公園 国営 追悼・祈念施設」(2019年)など復興関連のプロジェクト4点、さらには「多摩美術大学 新棟・講堂」(2026年予定)など最新プロジェクトを含め、2010〜20年代の9点を紹介いたします。さらに、撮り下ろしのインタビュー映像も上映され、内藤の現在進行形の建築思考に迫ります。

「多摩美術大学 新棟・講堂」(2026年予定、下も)

◆4階:学生時代から代表作まで

内藤の学生時代の卒業設計(1974年)を皮切りに、代表作である「海の博物館」(1992年)や「牧野富太郎記念館」(1999年)など、1990年代の主要プロジェクトを紹介。さらに、2001年の東京大学着任以降に手がけた「日向市駅」(2008年)をはじめとする4つの駅舎、そして「島根県芸術文化センター/グラントワ」(2005年)など、2000年代前半のプロジェクトも一挙に展示されます。また、未公開のインタビュー映像5本も本展で初公開します。

黒歴史(?)をわざわざ展示する内藤氏らしさ

 1/20スケールの巨大展示もいいのだけれど、自称“内藤廣ウオッチャー”でもある筆者がぜひ見てほしいのは4階の最初の方にあるこの模型だ。

 独立して最初に手掛けた「ギャラリー TOM」(1984年)である。視覚障害者も体験できる小さな美術館で、自然光の入る屋根がコーキングに頼りすぎた雨仕舞いだったため、竣工後にさんざん苦労した。…という話を本展でも赤鬼と青鬼が述懐している。

 内藤氏ほどの立場にある建築家ならば、普通はこういう“黒歴史”はプロフィルから消してしまうところだろう。それを「失敗だった」とわざわざ展示するのである。赤鬼・青鬼という対話形式もそうだし、「Unbuilt」を堂々と並べるのもそうであるのだが、“人間の創作活動は失敗の上に成り立っている”と言いたいのではないか。失敗を許容しない社会には本当のクリエーションは生まれ得ない、と。もちろん、自分への戒めの意味もあるのだろう。

 本展を動線どおりに下から上に見ていくと、なんだか気持ちが無駄に大きくなって終わってしまいそうなので、天邪鬼な筆者は上から下に見ていって、最後にこの「ギャラリー TOM」を見ることをお薦めしたい。

 「ギャラリー TOM」の実物は渋谷の松濤にあるので、見たことがない人はこの機に行ってみては? …と書こうと思ったのが、館のサイトを見たら、昨年秋からしばらく休館しているらしい。ちょっと心配である。コンクリートの非常に美しい建築なのだが、内藤氏がさんざんな目に遭ったこともリアルに想像できるので、いずれ再開したときにはぜひ見に行ってほしい。

 内藤氏は会場で、「渋谷と益田は対極だ」と言っていたので、渋谷の中にも「対極」があるなと思ってそんなことを書いてみた。(宮沢洋)

■開催概要
展覧会名:建築家・内藤廣 赤鬼と青鬼の場外乱闘 in 渋谷
開催期間 :2025年7月25日(金)~ 8月27日(水)
開催場所:渋谷ストリーム ホール 東京都渋谷区渋谷3-21-3
※JR渋谷駅 新南口改札から直結(徒歩1分)、東急東横線・田園都市線、東京メトロ半蔵門線・副都心線 渋谷駅 C2出口直結

購入方法・入館料
一般1,500円、:大学生以下1,000円、未就学児無料
※会場受付で学生証を提示頂く場合がございます。

【当日券】
会場で当日券を販売いたします。また、前売券の販売サイトでもご購入いただけます。
【前売券】
オンラインチケットMY Bunkamura(手数料無料)https://my.bunkamura.co.jp/Show/programFacilityList/index/03
ローソンチケット(別途手数料がかかります)
https://l-tike.com/event/mevent/?mid=751590
開館時間 :11:00 ~ 20:00 ※休館日無し

主催:「建築家・内藤廣展 in 渋谷」実行委員会
実行委員長:小林幹育(渋谷・東地区まちづくり協議会代表幹事 ・ 渋谷宮益町会相談役)
副委員長:大西賢治(渋谷道玄坂周辺地区まちづくり協議会代表幹事 ・ 渋谷道玄坂商店街振興組合理事長)
企画制作:株式会社内藤廣建築設計事務所
事業推進:東急株式会社
公式サイト:https://naito-shibuya2025.shibuyabunka.com/

■関連企画
内藤廣 特別講演
渋谷と益田、そして建築と都市を語る一夜限りの特別講演。
日時 2025年7月28日(月)18:00~19:30(開場17:30)

渋谷スクランブルスクエア(東棟)15階 SHIBUYA QWS内 スクランブルホール(渋谷区渋谷2-24-12)
※会場は渋谷ストリームではありません。ご注意ください。

観覧料 無料
入場方法 当日先着順(申込不要)
※満員の場合はご入場いただけない場合がございます。
※後日、アーカイブ配信を予定しております。
主催:「建築家・内藤廣展 in 渋谷」実行委員会

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