金沢市の谷口吉生展(@谷口吉郎・吉生記念 金沢建築館、こちらの記事)に行こうと思っている方は、そこから徒歩15分ほどの金沢21世紀美術館にも足を運んでほしい。建築デザインスタジオ ALTEMYによる「PARK IN PROGRESS」(入場無料)が10月5日(日)まで開催中だ。

本サイトを継続してご覧になっている方は「ALTEMY」という名前、聞き覚えがあるだろう。そう、「みんなの建築大賞2025」の候補作である「この建築がすごいベスト10」に選ばれた「まちの保育園 南青山」↓の設計者だ。

代表の津川恵理氏に、「まちの保育園 南青山」を案内してもらった記事はこちら↓を。
この保育園もそうだが、ALTEMYのプロジェクトはいつも「こんな方法で“建築空間”をつくれるのか…」という感想を抱かせる。今回の展示もそう。

今回の主役は、「スフェリコン」と呼ばれる数理モデルを元にしたオブジェクト。クッション素材でつくった大きな白いゴロゴロ物体だ。
スフェリコンとは、正方形の対角線に沿った回転体の半分を、回転軸にそって切断して90度回転させて貼り合わせた形を言う。1970年頃、イギリスのC.J.ロバーツ氏が発見した。丸くないのにスムーズに転がすことができる。(参照サイトはこちら)
これを子どもたちや女性が楽しそうに転がしている。押す方向とは違う方向に転がるのが面白い。それよりも何よりも、なんの説明も見ずに「転がしてよいものだ」と思わせるデザインがすごい。



見ていると、男性は転がす人が少ない。おそらくそれは身長に関係しているようだ。背が小さい方が、どちらに転がるかが見えないので、意外感が大きいのだ。
スフェリコンは無料で入れる交流ゾーン2か所のほか、手で持てる小型のものも含めてあちこちに置かれている。



目指すは「都市を魅力的にする小さな建築」
さて、これは現代アートなのか、建築なのか? 楽しめれば別にどっちでもいいわけだが、「建築ネットマガジン」としては一応知りたくなる。
この展示を美術館の公式サイトではこう説明している(太字部)。
建築デザインスタジオ ALTEMYは、建築と人との関わりを見つめ直し、私たちの日常に小さな驚きや豊かな変化をもたらしてきました。本展では、ALTEMYが金沢21世紀美術館の建築を再読することで生まれるささやかな“仕掛け”が、会期を通して少しずつ加えられていきます。それに気づいたとき、あなたとこの美術館との関係は、きっとこれまでとは少し違ったものになるはずです。


ニコラ・ブリオーが『関係性の美学』を著した1998年から、6年後の2004年に金沢21世紀美術館は開館しました。まさに関係性を築くアート作品が館内には散りばめられています。また、Instagramの登場は、SANAAが設計した通称「ウサギ椅子」が、撮影スポットとして人気を博すなど思わぬ効果も生みました。こうした来館者の抱く金沢21世紀美術館のイメージは、いまは広く浸透しています。
しかし、そうした“イメージ”の背後で、私たちは見過ごしてはいないでしょうか。たとえば、椅子に寝転ぶ子どもたち、ロッカーの鍵を手探りで探す来館者、ラッパに声をかけるのをためらう恥ずかしがり屋の誰か。そうした名もなき個々の体験こそが、この美術館の日常をかたちづくっています。
本展の“仕掛け”は、館内の様々な箇所にそっと潜み、20年かけて培った金沢21世紀美術館の公共性を改めて問い直すきっかけとなっています。これらの“仕掛け”と、地域の人や来館者などの間には、ゆらぎのある日常が生まれます。ここでは金沢21世紀美術館の公共性が、美術館によってではなく、訪れる人々によって日々つくられていきます。
その日々つくられる公共性が、その瞬間の特別な映像となって、デザインギャラリーに投影されます。
「PARK IN PROGRESS」を通して、金沢21世紀美術館の「21年目の公共」を一緒に考えていきたいです。
残念ながら、「建築なのか」に対する答えらしきものはなかった。
ALTEMYに声をかけた金沢21世紀美術館レジストラーの本橋仁氏に聞いてみた。
本橋氏は、「SANAAの建築(金沢21世紀美術館)の中に、ALTEMYによる“新しい建築”を入れ込むことを考えてもらった」と言う。ああ、やっぱり「建築」なのだ。本橋氏はすごく論理的に「建築」である理由を説明してくれたのだが、長くなるので割愛する(本橋さん、すみません)。
本橋氏はこのスフェリコンが初お披露目でないことも教えてくれた。2023年に試作バージョンが、大阪・日本橋の家で開催された展覧会「第9回 アーキテクツ・オブ・ザ・イヤー 2023」で『都市の共動態』として展示された。そのプロジェクト説明にはこう書かれていた(太字部)。
オブジェクトは静的な存在を超え、都市構造の中でインタラクティブな要素へと進化し、人々の行動や感受性に訴えかけます。この共生的な媒体は、展示空間における移ろいやすい関係性を育み、都市と建築が本質的に共生のダイナミックな本質と共鳴し、人間の存在と相互作用に応じて変化し、適応していくことを強調します。
筆者は今回の展示を見て、「もっと数を増やして、無味乾燥した都心の広場とかに置いたら空間が和らぎそう。あそことか、あそことか…」と思ったのだが、当初の企画意図はまさにそういうイメージだったようだ。これは、都市を魅力的にするという意味でも「小さな建築」だ。

この展示は5月20日から始まって1カ月ちょっとになるが、実はスフェリコンは2代目にバージョンアップされている。開幕時の初代スフェリコンは「重い」との声が多く、大幅減量し、かつ安全性を高めた2代目となった。膜屋根で知られる太陽工業グループの太陽テント北陸がバックアップしている。

ならば、耐水性や耐久性をさらに高めて、ピロティや外構に置けるようにしてほしい。もしかしたら、イサム・ノグチの遊具くらいに世界に広まる可能性を秘めている気がする。(宮沢洋)

展覧会名 ALTEMY PARK IN PROGRESS
会期 2025年5月20日(火)~10月5日(日)
休場日 月曜日(ただし7月21日、8月11日、9月15日は開場)7月22日、8月12日、9月16日
開場時間 10:00~18:00(金・土曜日は20:00まで)
会場 金沢21世紀美術館 デザインギャラリー、交流ゾーン
料金 無料
主催 金沢21世紀美術館[公益財団法人金沢芸術創造財団]
協力 太陽テント北陸
協賛 株式会社LINNAS Design、OMO5金沢片町 by 星野リゾート後援 北國新聞社
公式サイト:https://www.kanazawa21.jp/data_list.php?g=65&d=1835


