神出鬼没の「こども図書館船 ほんのもり号」を見た! 船の改修はコルビュジエへのオマージュ? ──世界のANDO国内注目作②

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 「建築」というものは基本的に大地から立ち上がっているものなので、休館日とか天気とかを予測することはあっても、「出会える場所」を予測することはまずない。しかし、この「こども図書館船 ほんのもり号」は名前のとおり「船」である。寄港予定地は2か月後程度までしか公開されておらず、10月の3連休に筆者が予測した香川県内に寄港することが発表されたときには、思わず1人でガッツポーズした(他の予定もあり、この日に四国に行くことが決まっていた)。

航行中の「こども図書館船 ほんのもり号」。動いている写真はたぶんかなりレア(写真:宮沢洋)

 「こども図書館船 ほんのもり号」(以下、ほんのもり号)は、安藤忠雄氏が既存の船を図書施設に改修して香川県に寄贈したものだ。10月12日(日)の夕方、香川県とさぬき市津田地区まちづくり協議会が連携して開催した「ほんのもり号寄港記念フェスタ」で、実際のほんのもり号を見てきた。場所は高松市の東隣、さぬき市津田にある津田港だ。

 筆者がほんのもり号を知ったのは、今年3月19日に大阪で行われた「安藤忠雄展|青春」の内覧会(こちらの記事)でだった。瀬戸内海を航行するこの船の模型↓である。

2025年3月20日~7月21日にグラングリーン大阪内の「VS.」で開催された「安藤忠雄展|青春」にて(以下の2点も)


 
 知らなかった。「こども本の森」シリーズ(安藤氏が自治体に寄贈してきた児童図書施設/前回記事参照)で、こんな計画が動いていたのか。

安藤氏

 展覧会でこのプロジェクトを説明する際、安藤氏は「振り返ってみると50年間、ずっと『反対』との戦いだった」と口にした。

 通常は小型バスを使う「移動式図書館」を船のリノベーションでつくって、瀬戸内の島々を回るという。安藤氏が工事費を出すとはいえ、そんな夢物語みたいなアイデアを持ち掛けたら、やれ受け入れる港はどうするだの、運航の費用は誰がどう集めるだの、いろいろな方面から反対の声が上がることは想像に難くない。

ほんのもり号に飾られていた寄付者リスト
「こども図書館船 ほんのもり号」の公式ページに、筆者作の似顔絵(ハンコにしたのは安藤氏)を発見。筆者も実は協力者?

 しかし、さまざまな支援者・協力者を得て、それは実現した。もとの船は全長約20mほどの高速船。安藤氏がそれを改修し、絵本や児童書、図鑑など、5つのテーマに沿って収集した約3000冊の本を積み込めるようにした。定員は12人だが、12歳未満の子どもなら20人ほどが乗船可能。

告知されたこどもたちの乗船(読書)時間が終わった後に、大人たちが入れ代わりで乗船体験。筆者はその最後に乗った
入り口のある後部のデッキ

 外観は、白とマリンブルーの鮮やかな対比になんとなく安藤風を感じる程度。だが、中に入ると、楕円のテーブル兼書棚を中心に、カーブした書棚で周囲を囲まれる構成に、「これは間違いなく安藤建築!」と言いたくなる。

両側を書棚に挟まれた空間を抜けて階段を下りると、メインの閲覧室
船内の案内図

 運航期間は春~秋。公式サイトの運行表を見ると、月に6~7回出港し、瀬戸内海の港に寄港している。県外の広島などにも現れる。ちなみに、出港予定のない日は高松港の人目に触れないところに係留されているとのこと。

 乗船対象は「子ども優先」としているので、寄港地がわかっても地域と関係のない大人は見づらい。今年初めに県が計画を発表したときには、「期間は5年ほど」と報じられており、実物を見る機会はかなり限られそうだ。なので、この記事で気分だけでも味わっていただきたい。

2階デッキに向かう階段
2階デッキ
津田港での出港前の夕景

 この夕景↑を眺めていて、筆者は「あっ、そうか」と思った。建築好きはご存じと思うが、ル・コルビュジエは若い頃、「アジール・フロッタン」(1929年)という船を設計した。これはもともと石炭の運搬船だったものを難民避難船に改修したものだ(詳細は下記の記事)。

放置され、ほぼ水没していた頃の「アジール・フロッタン」(2018年に筆者が撮影)

 コルビュジエを尊敬する安藤氏がこれを知らないわけはなく、ほんのもり号は“アジール・フロッタンへのオマージュ”の意味もあるに違いないと筆者は思うのである。(宮沢洋)

■「こども図書館船 ほんのもり号」基本情報
開館日 来島日
利用対象者 こども優先
入館料 無料
入館制限 12名(船の定員)
運航情報はこちら→https://www.honnomori-gou.com/event/

①を読む↓。

③を読む↓。(10月21日公開予定)

https://bunganet.tokyo/ando2025-3/