コルビュジエが設計した難民船、日本の支援でパリ・セーヌ川の水中から浮上──3月12日にライブ報告会

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 ル・コルビュジエが設計した難民避難船「アジール・フロッタン」が、ついにパリ・セーヌ川の水中から引き上げられた。

再浮上し、泥の排出がほぼ終わった船底(写真:日本建築設計学会)

 その船「アジール・フロッタン」は、「アラブ世界研究所」(1987年、設計:ジャン・ヌーヴェル)からセーヌ川の西岸を南東に進み、文化施設「ドック・アン・セーヌ」に向かう途中、「オステルリッツ高架橋」(シャルル・ド・ゴール橋の手前の古いアーチ橋)のたもと(南西岸)にある。なぜそんなに詳しく書けるかというと、2018年秋にパリに出張したときに、この船を見たからだ。といっても、船体のほとんどは水の中だった。こんな状況だ。

2018年10月撮影(写真:宮沢洋)

 「アジール・フロッタン」とは何か。なぜ水の中なのか。

 アジール・フロッタンという名称は「浮かぶ避難所」を意味する。第一次世界大戦後の混乱期に生まれた難民を収容するため、コルビュジエの設計で石炭を運ぶコンクリート船を改修し、住居とした。コルビュジエに弟子入り中の前川國男も設計に参加し、1929年に完成した。

 この難民避難船は1929年に完成し、90年代後半まで使われていたという。その後、長らく放置されていたが、2018年1月のセーヌ川の増水によって船の下部が水の中に沈んでしまった。

水没後。知らなければとてもコルビュジエ設計とは…(写真:宮沢洋)
水没後。2018年10月撮影(写真:宮沢洋)

水没から2年10カ月、ついに浮上

 日本の遠藤秀平氏(建築家)や五十嵐太郎氏(建築史家)、日本建築設計学会などが、文化施設としての再生を目指して活動。2019年3月、国際文化会館が助成することが決まり、浮上へのプロジェクトが動き出した。その後、関係各所との調整やコロナ禍など曲折があったが、水没から2年10カ月たった2020年10月19日、ついにセーヌ川に再浮上した。

引き上げ前(写真:宮沢洋)
引き上げ中。ポンプで水を排出している(写真:日本建築設計学会)
引き上げ後(写真:日本建築設計学会)
引き上げ後(写真:日本建築設計学会)

引き上げの早送り動画↓
https://www.youtube.com/watch?v=u4KunYeMt24

 浮上工事は10月19日現地朝9時からポンプ排水作業を開始。13時ごろには無事浮上した。コロナ禍であるため、日本の関係者はモニターの画面越しに見守った。

船内(写真:日本建築設計学会)
船内。この後、船底の泥を排出した(写真:日本建築設計学会)

 遠藤秀平氏は、今後の活用についてこうコメントしている。

 「船全体が3つのコンパートメントで構成されていることから、船首の空間は1929年のコルビュジエのオリジナルデザインへ復元し、ベッドが並んでいる当時の状態を体験できる空間とする。中央部は救世軍が運営していた時からレストランだったが、今後はレセプション機能とし訪問者の受け入れやコルビュジエの資料展示そしてカフェなどが提供できる場としたい。最後に船尾は、展示が行えるイベントスペースとして日仏の建築家展やデザインやファッションなどのイベントのために貸し出す」。

 「今後も復元後も運営資金が必要となるが、この企画スペースのイベント利用料により維持費の捻出や寄付を募り、安定的な運用を目指したい。修復と復元にはまだ数年を要するであろうが、今後の世界のありかたを想定しながら活用の可能性を設定し、奇しくも所有することとなったコルビュジエの作品を活かしながら日仏交流の場として後世に引き継ぎたい」。

なるほど、こうして見るとコルビュジエらしい?(写真:日本建築設計学会)

 浮上までの紆余曲折や今後については、3月12日(金)14時から国際文化会館で開催される「アジール・フロッタン第二回報告会」で報告され、ライブ配信される。視聴無料。当日、下記にアクセスを。

■アジール・フロッタン第二回報告会配信URL(3月12日14時~)
https://youtu.be/AxiOHsVMlCc

 コロナがなければ私も、今年はパリに行こうと思っていた。見たいものがまた1つ増えた。すぐには難しいと思うが、次のステップ、「日仏交流の場」としての準備が進むことを願う。(宮沢洋)