【取材協力:朝日新聞社】
京都国立近代美術館で「分離派建築会100年展 建築は芸術か?」が1月6日に開幕する(主催:京都国立近代美術館、朝日新聞社)。前日の5日午後に行われた報道内覧会の様子をリポートする。会期は3月7日までの2カ月間。コロナ第3波の拡大で先が読みにくい状況だが、今のところ事前予約の必要はなく、当日行けば入れる。
東京展の約3倍の展示面積
「分離派建築会」は1920年(大正9)年、東京帝国大学建築学科の卒業を目前に控えた学生6人が結成したグループ。日本で最初の近代建築運動とされる。結成メンバーは、石本喜久治、瀧澤眞弓、堀口捨己、森田慶一、矢田茂、山田守の6人。彼らは東京帝国大学(現・東京大学)の卒業を控えた1920年2月に学内で卒業設計の自主展示を行い、続いて7月に白木屋(のちの東急百貨店日本橋店)で第1回作品展を開いた。メンバーに大内秀一郎や蔵田周忠、山口文象を加え、1928(昭和3)年の第7回まで作品展を重ね、出版活動を展開する。
当サイトで10月に報じた東京・パナソニック汐留美術館での「分離派建築会100年展」の巡回展だ(関連記事:「結成から100年「分離派建築会」を再検証する展覧会がまず東京で」)。「巡回」と言っても、会場面積は約3倍となり、展示物の数も増え、格段にパワーアップされている。
展示の基本的な流れ(全7章)は変わらないものの、印象が全く違う。本展の第一印象はとにかく「ゆったり!」。個人的に東京展で一番心を惹かれたのは、分離派の結成メンバー6人の卒業設計の図面のうまさだったのが、会場が広くなり(そのスペースだけで東京展が収まってしまいそう…)図面の点数が増えたので、そこを見るだけでも「来てよかった」感がある。
私見だが、実務経験のほとんどない若者たちの活動が当時なぜ注目されたのかを考えるに、この図面のうまさは大きな要因であったと思う。特に、石本喜久治の図面はアートのよう。アールデコ風の画面構成の素晴らしさに加え、近寄って見ると、ルーペが欲しいくらい細かいところまでディテールが描き込まれている。
会場内で投影されている動画では、建築家の内藤廣氏が「学生が描いたとは思えない」と絶賛していた。全く同感。おそらく、この図面のうまさは当時、1つの「芸術」として見る者に訴えたのではないか。
「ブンリ派」のロゴは誰が描いた?
会場が広いと、小さな展示物もじっくり見たくなる。じっくり見てほしいものの1つが、当時、彼らがつくった展覧会のポスターや招待状。どれもプロの装丁家が描いたようなうまさ。
ちなみに本展の図録(右の写真)の表紙に使われている「ブンリ派」というタイトルは、第5回作品展の会場(下の写真)で使われたロゴだ。筆者はこの図録を手にしたとき、本展のために現代のデザイナーが描いたのかと思った。
本展の担当者である本橋仁・京都国立近代美術館特定研究員に聞くと、「記録は残っていないが、山口文象(逓信省で製図工をしながら後に分離派建築会に加わった)が描いた可能性が高い」とのこと。さすが東大のインテリたちが認めたブンゾウ、やるな…。
当時の勢いを伝える会場構成
そもそも分離派建築会は、設立主旨のメッセージ性がすごい。
宣言
我々は起(た)つ。
過去建築圏より分離し、総て(すべて)の建築をして真に意義あらしめる新建築圏を創造せんがために。
我々は起つ。
過去建築圏内に眠つて居る総てのものを目覚さんために溺れ(おぼれ)つつある総てのものを救はん(すくわん)がために。
我々は起つ。
我々の此(この)理想の実現のためには我々の総てのものを悦び(よろこび)の中に献げ、倒るるまで、死にまでを期して。
我々一同、右を世界に向つて宣言する。
文章だけ読むと、学生たちが何を大げさなとも思うが、京都展の会場内に身を置くと、彼らが「命をかける」想いで「発信する」ことにかけたエネルギーが伝わってくる。立て看板を使いまわしたような本展の会場構成は、木村松本建築設計事務所によるもので、当時の分離派のエネルギーを伝えている感じがする。
CG再現された造形にびっくり
もちろん、分離派建築会のメンバーは、発信のうまさや勢いだけで評価されたわけではない。それが改めて分かったのが、「SYMPHONY OF VOLUMES」という動画。
これは7人の建築案(『分離派建築界の建築 第三』に収録されたもの)を3DCG化したものだ。どれも造形が今っぽい。特に、瀧澤眞弓の「公館」がいい。アーチ形の平面に、アーチ窓、その中にアーチ模様の装飾。しびれる…。
実はこの動画は、東京展にもあったらしいのだが、小さくて気づかなかった。お恥ずかしい…。京都展では、この動画を椅子に座り、大画面でじっくり見られる。全部で5分ほどの動画なので、絶対に見てほしい。
山田守の孫、Y田Y子さんの漫画配布も
すぐには会場に行けない方が多いと思うので、この記事を読んでうずいた人は、今週末に開催されるオンラインシンポジウムをご覧いただきたい。本展の中心になった「分離派100年研究会」の代表である田路貴浩・京都大学教授らが参加するシンポジウムだ。
過渡期の時代を考えるシンポジウム「分離派建築会 ─ モダニズム建築への道程」
日時:2021年1月9日(土)午後2時~4時30分
登壇者:田路貴浩(京都大学教授)、足立裕司(神戸大学名誉教授)、加藤耕一(東京大学教授)、梅宮弘光(神戸大学教授)
ウェブ配信の詳細は公式サイトで(↓)。
https://www.momak.go.jp/Japanese/exhibitionArchive/2020/440.html
最後にもうひとつ。東京展では関係者以外、WEB経由で見るのみだった「マンガで見る!分離派建築会」が、京都展ではB5版の冊子として会場で無料配布される。作者は山田守の孫である漫画家、Y田Y子さん。冊子の配布は平日限定で先着2000人。これも、待ちきれない人は上記のサイトからダウンロードを。(宮沢洋)
※分離派展応援シリーズの第2回は建築家・大西麻貴さんのインタビューです。ぜひ下記をクリック!
分離派に注目02:建築家・大西麻貴さん――堀口捨己の「紫烟荘」は学生時代からずっと好き!(2021年1月7日公開)