大阪・関西万博には、158の国・地域と、9つの国際機関が参加している。海外パビリオンは、敷地渡し方式の「タイプA」、建物渡し方式の「タイプB」、共同館方式の「タイプC」などがある。これらのうち、建築的な観点から注目すべきは、参加国がそれぞれ独自に建物を設計して建設する「タイプA」である。これが大阪・関西万博では42棟、建てられた。いずれも、各国の地域性や文化を反映したていて興味深いのだが、その中でも建築のデザインとして特に面白いものを10件、選んで紹介しておこう。

ただし入館に予約が必要で入れなかったパビリオンは、ここには挙げていない。なので今後、また万博会場を訪れることがあれば、入れ替わる可能性も大いにある。あくまで暫定版ということで、そこのところはよろしく。
ルクセンブルクパビリオン/設計:STDM

分割された展示室群の上に架かるのは、白いテント膜の屋根。張力のかけ方が明快で、膜構造の面白さがそのまま表れている。壁の外装も、型枠用のパネルがそのまま使われ、解体してそのまま転用が可能だ。仮設であることを突き詰めた、優等生的な博覧会建築と言えよう。

設計はルクセンブルクのSTDM(シュタイン/メッツ/デメイエール)が、日本のみかんぐみと組んで担当。みかんぐみは2005年の愛・地球博でもトヨタパビリオンでリサイクルをテーマにしたパビリオンに取り組んでいたので、この分野をリードする建築家と言えるかもしれない。構造設計者としてネイ&パートナーズが参画している。
クウェートパビリオン/設計:LAVA

屋根が滑らかに変形して、手前で鳥が翼を広げたような格好を見せる。膜構造なのだが、ルクセンブルクパビリオンが張力膜構造なのに対して、こちらは骨組み膜構造である。ただし骨が見えないようになっていて、外から見ている限りは、構造方式と屋根形状の関係がよくわからない。そこがこの設計のミソである。

内部には、寝転がって映像コンテンツを楽しむドーム空間があって、それが人気を得ているようだ。設計したのは、ドイツのLAVA(Laboratory for Visionary Architecture)。構造設計は、同じくドイツのシュライヒ・ベルガーマン・パートナーが担当した。日本側の設計協力者として、徳岡設計や斎藤公男が関わっている。
スイスパビリオン/設計:マヌエル・ヘルツ

1970年の大阪万博で、お祭り広場の大屋根や黒川紀章のユニット建築以上に、世界の建築界に衝撃を与えたのが、富士グループパビリオン(設計:村田豊、川口衞)だった。今回の大阪・関西万博で、それを参照したと言えるのが、このスイスパビリオンだ。二重の空気膜構造で、外側はエチレンテトラフルオロエチレン(ETFE)、内側はポリ塩化ビニル(PVC)が素材として用いられている。

軽量であることを究め、支えるモジュール式の鉄骨構造も含めて、リサイクルの可能性を追求している。京都工芸繊維大学 KYOTO Design Labが共同して、転用法を検討しているとのこと。全体がシャボン玉がくっついたような格好になっているが、内部には本物のシャボン玉を使った展示もあり。上部の球は「アルプスの少女ハイジ」をテーマにしたカフェである。設計者はスイスのマヌエル・ヘルツ。構造設計は、こちらもシュライヒ・ベルガーマン・パートナーが担当している。日本側の設計事務所としてMORFが協力している。
チェコパビリオン/設計:アプロポス・アーキテクツ

螺旋状のスロープが入り口から屋上まで続く。その内側に現代アートの作家によるペインティングが描かれ、外側は全面をガラスが覆っている。チェコといえば、ボヘミアン・ガラスが有名。そのガラスの技術を、このパビリオンでも大々的にフィーチャーしたというわけだ。外装に使われたガラスはすべてチェコから運び込んだもの。スロープは上に行くにつれて幅が変わり、外側へと張り出す。このダイナミックな形状が、CLTパネルによる木造で成り立っている。

設計を担当したのは、チェコなどを拠点とするアプロポス・アーキテクツ。ヘルツォーク&ド・ムーロン、ギゴン&ゴヤー、ハンス・コルホッフの下で働いていたスタッフが集まって設立された事務所である。日本で活動するオランダ出身の建築家、フランク・ラ・リヴィエレが設計に協力している。
サウジアラビアパビリオン/設計:フォスターアンドパートナーズ

近年の万博では中東の国が存在感を増している。筆者が取材した15年前の上海万博ではUFOが宙に浮かぶようなデザインで人気を集め、2020年のドバイ万博では巨大なディスプレイが斜めに立ち上がる外観で目を引いた。今回もクウェートやUAEとともに規模が大きなパビリオンを出展している。

設計したのはフォスターアンドパートナーズ。得意とするハイテック風ではなく、伝統的な集落を連想させるデザインとなっている。迷い込んだ旅人のように、入場者は展示を体験する。内部では、実際に建設中の未来型都市「ネオム」について、一室を割いて解説している。
〈前編〉として、以上5つの海外パビリオンを紹介した。残り5つは〈後編〉↓で。(磯達雄)