金沢市の谷口吉郎・吉生記念 金沢建築館で第11回企画展「谷口吉生の建築―静けさと豊かさの創造―」が7月6日(日)から始まる。会期は2026年1月18日(日)まで。7月5日に行われた内覧会に行ってきた。初代館長の水野一郎氏(建築家)から2代目館長の三宅理一氏(建築史家)に代わって最初の企画展となる。そして結果的に、昨年12月16日に亡くなった谷口氏の追悼展となった。





当サイトで何度も書いているように筆者(宮沢洋)はディープな谷口吉生ファンである。金沢建築館にもかなり足を運んでいる。筆者の知る限り、2019年7月にオープンした同館で谷口吉生展は3回目だ。過去2回も当サイトで記事にしている。
①「静けさの創造-谷口吉生の美術館建築をめぐる」 2021年11月16日(火)~2022年5月29日(日)
取り上げた建築:
1 資生堂アートハウス
2 土門拳記念館
3 長野県立美術館
4 丸亀市猪熊弦一郎現代美術館
5 豊田市美術館
6 東京国立博物館
7 香川県立東山魁夷せとうち美術館
8 ニューヨーク近代美術館(MoMA)
9 鈴木大拙館
10 京都国立博物館
11 谷口吉郎・吉生記念 金沢建築館
当サイトの記事:谷口吉生氏設計の金沢建築館で「谷口美術館11」展、シャンとした会場に漂う「場の空気」(2021年11月14日)
②「みんなの建築をつくる-東京都葛西臨海水族園と広島市環境局中工場-」 2022年12月25日(日)~2023年5月28日(日)
取り上げた建築:
・東京都葛西臨海水族園
・広島市環境局中工場
当サイトの記事:谷口吉生ファン感涙、ディープな葛西と中工場の過去を描く「みんなの建築をつくる」展@金沢建築館(2023年2月2日)
過去の2回を見て、「金沢市立玉川図書館はあえて残してあるんだな」と筆者は思っていた。1979年に完成した金沢市立玉川図書館は、地元金沢の公共建築であり、父・谷口吉郎との唯一の親子共同作だからだ。
満を持してその玉川図書館が登場する。本展で取り上げるのはこの3つだ。
・金沢市立玉川図書館
・鈴木大拙館
・谷口吉郎・吉生記念 金沢建築館
地元金沢の3作品である。






昨年末に谷口氏が亡くなって急きょ企画したように思ってしまうが、企画の草案は谷口氏自身によるものだという。企画監修を担当した白川裕信氏(白川アトリエ)は、「昨年の今頃に突然、谷口さんから声がかかり、『静けさと豊かさ』というテーマでやりたいと言われた」と明かした。タイトルも谷口氏によるものなのだ。「谷口さんはその時はお元気で、突然亡くなられた。谷口さんに見てもらいたくて進めていたのに、残念でならない」とも話す。
論評ではなく、谷口氏本人の言葉を拾う
突然、声をかけられた白川氏は誰かというと、かつて竹中工務店でプリンシパルアーキテクトを務め、「ギャラリーA4」の館長だった人だ。実際の設計では、日産自動車グローバル本社(2009年、 設計:竹中工務店、設計監修:谷口吉生)で谷口氏と共同したこともある。なるほど、そういう人なら谷口氏が突然依頼したのも納得がいく。

本展には、これまでの2回とは違う面白さがあった。それは、白川氏の狙いとも重なる。
白川氏の言葉を借りると、「第三者に谷口建築を論じてもらうのではなく、本人の残した言葉を丁寧に拾った」ことだ。
谷口氏は自らの建築を語らない建築家として知られた。「実物を見て体験してほしい」「どうぞ好きなように書いてください」というスタンスの人だった。金沢建築館での2回の展示も、模型や資料と客観的な事実から「自由に読み取ってください」という展示方法だった。
本展では、「谷口さん自身がこんな熱い言葉を口にしていたのか!」と、あちこちの展示や映像でこちらの胸が熱くなる。

例えば、導入部分の映像↑で流れる鈴木大拙館に関するこんな言葉。

「『無』を形にする──。『鈴木大拙館』は、私が設計した美術館の中で、最も難しい課題が与えられた建築だった。」

「終わることのない自然界のサイクル。その時間に身をゆだねて生きることを、大拙は『無』と表現したのではないか。」
この映像では、3施設以外も取り上げられる。MoMAについてはこんな言葉。

「設計前にMoMAの歴史やコレクションに対する哲学を調べ上げていた。私は建築的な表現をできる限り抑制し、観客が美術品と出会うための理想的な環境づくりを設計方針に定めた。」

「マンハッタンの魅力は古い教会や近代建築、摩天楼が混在する町並みだ。展示室を歩くにつれ外の景色が目に入り、N.Y.で作品を鑑賞する感動を味わい、流れるような視覚体験ができる工夫もした。」
筆者が特に衝撃を受けたのは、鈴木大拙館のスタディ図面の「言葉」だ。初期のスケッチは、池に浮かぶ方丈がない。

そして実施案に近いものになっていくのだが、それに書き込まれた文字の多さ!

書き込まれた手書きの文字は、谷口氏本人の字だという。字がうまっ! そして、指摘が客観的!



第三者が語る谷口吉生論は1年後でも5年後でもできる。亡くなって半年のこの展覧会で今回の方向性は大正解だと思う。

新館長の三宅理一氏は、「この展覧会をヨーロッパやアメリカの人たちにも見てもらおうと動いているところだ」と語った。確かに、これまでの3回分を合わせれば、かなりの規模の谷口吉生展ができる。ネットワークの広い三宅氏なので、きっと実現してくれるだろう。谷口ファンとしては、ニューヨーク近代美術館(MoMA)もその一つだと勝手に予想して、その時のために旅費を貯めておくことにしよう。
余談だが、この展覧会をすぐに見に行こうと思っている人は、実物の金沢市立玉川図書館と鈴木大拙館を見に行ってみてほしい。両施設とも徒歩圏だ。実は玉川図書館は改修工事のため、今年6月末から長期休館に入っている(再開館は2026年12月の予定)。それは知っていたのだが、行ってみたら、まだ仮囲いではなかった。



しかも、この施設、休館していても中庭は見える。現在の古びた状態が見られるのはあとわずかと思われるので(改修設計は谷口建築設計研究所なので悪くなることはないと思うものの…)、この姿は記憶に留めておきたい。(宮沢洋)


■展覧会概要
第11回企画展「谷口吉生の建築―静けさと豊かさの創造―」
The Architecture of Yoshio Taniguchi – Designing Tranquility and Plenitude
期間:2025年7月6日(日)~2026年1月18日(日)
開館時間:9:30 – 17:00 (入館は16:30まで)
休館日:月曜日 (月曜日が休日の場合は直後の平日)/年末年始 12月29日から1月3日※7月7日(月)および10月27日(月)は開館、10月28日(火)は休館いたします
企画展観覧料;一般800円[700円]、大学生・65歳以上600円、高校生以下無料 ※[ ] は20名以上の団体料金 ※本料金で常設展示もご覧いただけます。 ※学生の方は入場の際、学生証をご提示ください
主催 : 谷口吉郎・吉生記念 金沢建築館
監修 : 谷口建築設計研究所
企画協力 : 白川裕信(白川アトリエ)
協力 : 金沢美術工芸大学、金沢市立玉川図書館、鈴木大拙館
■関連イベント
第11回企画展 建築フォーラム1 「静けさと豊かさの継承」
谷口吉生と仕事を共に取り組んだ建築家と、谷口と「私の履歴書」をまとめ上げた記者とともに、谷口吉生の建築設計活動について振り返り、谷口の「静けさと豊かさ」という言葉で表される研ぎ澄まされた精神を分析する。
日程:令和7年7月20日(日)14:00~16:00
会場:金沢市文化ホール 大会議室
登壇者(敬称略):
飯田 善彦(元 計画設計工房所属、アーキシップスタジオ)
窪田 直子(日本経済新聞社編集委員兼論説委員)
三宅 理一(谷口吉郎・吉生記念金沢建築館館長)
定員:120名(事前申込・先着順)
参加費:1,000円(金沢建築館ファンクラブ会員は500円)
詳細・申し込み:https://www.kanazawa-museum.jp/architecture/exhibition/kikakuten11.html


