谷口吉生ファン感涙、ディープな葛西と中工場の過去を描く「みんなの建築をつくる」展@金沢建築館

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 “出遅れ巻き返し”の注目展リポート最終回(第4弾)は、最も行きたかった「みんなの建築をつくる-東京都葛西臨海水族園と広島市環境局中工場-」だ。金沢市の「谷口吉郎・吉生記念 金沢建築館」で2022年12月25日から始まった。結論から言うと、私(宮沢)の一番の推しはこれだ。私が谷口吉生ファンだからということもあるが、とにかく、知らなかった話が満載で、テンション爆上がりであった。

本展の中心になった学芸員の高木愛子さん。高木さんと比べると、中工場の模型の大きさが分かる(写真:宮沢洋)

 ちなみに年明けに、巻き返しで書いた展覧会リポートは下記の4本。よく頑張ったと自分を褒めたい。
<1> 考えずに委ねるが吉? 原広司展@国立近現代建築資料館の楽しみ方
<2> OMAの重松象平氏が全力で振り切った「ディオール」展@東京都現代美術館に目が点!
<3> 里山版「メイド・イン・トーキョー」にほっこり、「How is Life?」展@TOTOギャラリー・間
<4> この記事
<スピンオフ> 応募倍率10倍、伊東豊雄×内藤廣×妹島和世のスカイハウス座談会を見た!(会期は終了)

 金沢建築館に戻ろう。冬に来たのは初めてだ。

 2階の常設の展示室は、「游心亭」前の水盤が凍っている。この日は青天だったが、氷の上に雪が積もった光景もまた美しいという。

 まずは、水野一郎館長による開催主旨から。水野館長は「金沢市民芸術村」などを設計した金沢を代表する建築家でもある。

 「谷口吉生設計の2つの作品『東京都葛西臨海水族園』『広島市環境局中工場』は常識を超えたデザインを有する傑作で利用度の高い公共建築です。この2つの建築がなぜ傑作と評されるのか、そして、どのようにして生まれてきたのかを辿ることが当展のテーマ『みんなの建築をつくる』です。皆様に是非ご来館いただき、みんなの建築について考える機会になることを願っています。谷口吉郎・吉生記念 金沢建築館 館長 水野一郎」

 実は「みんなの建築をつくる」というフレーズが私には谷口建築と結び付かず、いまひとつピンと来ていなかった(水野館長すみません!)。実際に会場を見た印象では、「みんなで建築をつくる」の方が展示内容に近い。異なる立場の人が関わることで、建築の質がどんどん上がっていく。両名作のプロセスにこんなにも劇的な変遷があったなんて、本当にびっくりである。

 会場風景の撮影は取材に限りOKだったが、展示物の接写はNGということで、私の取材メモから想像していただきたい。まずは「東京都葛西臨海水族園」(1989年)から。

鈴木俊一知事の発言により大方向転換

検討段階では、東京湾から直接、敷地内に海水を引き込み、そこに建築が張り出すイメージだった。(初期のイメージ図ではスウェーデンの「森の墓地」の建築(設計:アスプルンド+レヴェレンツ)を水面にコラージュしていた)
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しかし、海水を引き込むことが困難であったことから、人工の水盤を設け、それをイルカプールとして、そこに複数のガラスのトンガリ屋根が張り出す形に。
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当時の鈴木俊一都知事から「これはどこが日本一なんだ?」と指摘され、運営側がイルカプールからマグロ水槽に方針変更。

元園長が生々しく振り返る動画。面白い!

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ほぼ現状の案である円形水盤(インフィニティプール)の中央に、ガラスドームの入り口を設ける形に。

 すごいな鈴木知事。「これはどこが日本一なんだ?」って、それはもう生半可な変更では許されない。既に朝刊各紙に完成模型が載った後の話である。設計側も運営側も大パニックだったと思うが、この発言が“名建築への飛躍”の原動力となったことは間違いない。水盤に複数のトンガリ屋根(うち1つが入り口)の案と、現状のドーム屋根1つの案を見比べれば、その象徴性(崇高さ)の違いは明らかだ。

中工場は巻き込みパターンで加速

 葛西が知事発言による巻き込まれパターンとすれば、もう1つの「広島市環境局中工場」(2004年)は、谷口氏の“ある発見”を原動力に、関係者たちが思ってもいなかった高みを目指してく巻き込みパターンだ。

当初、発注者(広島市)は、敷地の海側に、護岸に沿って斜めに建物を置くことを考えていた。

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谷口氏が、敷地前の通りを延長すると原爆ドームと慰霊碑の線につながることを発見。

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海側に広場を設け、建物を通り抜ける通路を提案。
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さらに、通り抜け通路から処理施施設内をガラス張りに見せることを提案。
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プラント会社も巻き込んで機械設備のデザインを検討。

プラントメーカーの技術者にもインタビュー

 なんと、「ドライブ・マイ・カー」で有名になった「平和の軸線」(こちらの記事参照)は、設計の与条件ではなく、谷口氏が気づかなければ存在していないものだったのか。

 処理施設内をガラス越しに見せると提案されたときの市の職員たちのインタビュー映像も面白かった。

当時の狼狽ぶりを語る市の職員

 ちなみに、この高クオリティーの動画(両施設約10分)は、テレビ東京「新・美の巨人」制作チームの全面協力によるものという。グッジョブ!

 2月以降は、両施設の設計図製本版↑が丸ごと閲覧できるようになる。図録は「もう少しお待ちくだい!」と、担当学芸員の高木愛子さん。

 会期は5月28日(日)までと、まだまだ長いので、話題の石川県立図書館(仙田満氏の設計で昨夏開館↓)を見がてらぜひ足を運んでほしい。

話題の石川県立図書館。確かに絵になる

第6回企画展「みんなの建築をつくる」-東京都葛西臨海水族園と広島市環境局中工場- 
会場:谷口吉郎・吉生記念 金沢建築館(〒921-8033 石川県金沢市寺町5-1-18)
会期:2022年12月25日(日)~2023年5月28日(日)
主催 : 谷口吉郎・吉生記念 金沢建築館(公益財団法人金沢文化振興財団)
監修 : 谷口吉生
企画:「みんなの建築をつくる-東京都葛西臨海水族園と広島市環境局中工場-」実行委員会協力 : 谷口建築設計研究所/金沢美術工芸大学