2025年は「建築展」のゴールデンイヤーだ。この記事は、3月19日から始まる「ジオ・ポンティの眼」展と「リビング・モダニティ」展の内覧会リポートだが、その前に、今年開催される主な建築展を一覧にしてみたのでご覧いただきたい。
2025年の主な建築展リスト(開催中・閉幕後のものを除く)
会期 | 展覧会名 | 会場 | 詳細 |
3/19~ 31 | ジオ・ポンティの眼:軽やかに越境せよ。 | 21_21 DESIGN SIGHT | こちら |
3/19~6/30 | リビング・モダニティ 住まいの実験 1920s-1970s | 国立新美術館 | こちら |
3/20~7/21 | 安藤忠雄展 | 青春 | VS.(グラングリーン大阪) | こちら |
4/1~6/8 | 美術館建築―アートと建築が包み合うとき | 茅ヶ崎市美術館 | こちら |
4/17~6/22 | 篠原一男 空間に永遠を刻む | TOTOギャラリー・間 | こちら |
7/2~ 11/9 | 藤本壮介の建築:原初・未来・森 | 森美術館 | こちら |
7/24~10/19 | (仮)1980年以降生まれの建築家展 | TOTOギャラリー・間 | こちら |
7/25~8/27 | 建築家・内藤廣 赤鬼と青鬼の場外乱闘 in 渋谷 | 渋谷ストリーム ホール | こちら |
夏ごろ | 山本理顕展 | 横須賀美術館 | 未公表 |
夏ごろ | 谷口吉生展 | 谷口吉郎・吉生記念金沢建築館 | 未公表 |
10/4~11/30 | ナイン・ヴィジョンズ:日本から世界へ 跳躍する9人の建築家 | 尾道市立美術館 | こちら |
11/1~2026/1/25 | 磯崎新展(仮称) | 水戸芸術館 | こちら |
どうだろう。20代の人にはこれが当然なのかもしれないが、バブル世代の筆者にとっては90年代を思い浮かべると隔世の感がある。あの頃、美術館で行われる建築展なんて年に1回あるかどうかだった。
さて、3月18日、六本木・乃木坂方面で2つの内覧会が行われた。上の表の頭の2つだ。

もっと知ってほしいジオ・ポンティ、会期はわずか12日間
午後イチに行われたのが、21_21 DESIGN SIGHTギャラリー3で開催された「ジオ・ポンティの眼:軽やかに越境せよ。」展。公式サイトの趣旨文(太字部)と内覧会の写真でリポートする。

20世紀イタリアのモダニズムを代表する建築家、ジオ・ポンティは、スプーン1本から高層ビルまでデザインし、部分から全体を統合的に捉える「眼」を備えていました。1960年竣工の「ピレリ高層ビル」、そして1957年発表の超軽量の椅子「スーパーレジェーラ」は、薄さ、軽やかさを表現した名作です。さらに近年、知られざる名作家具やプロダクトの数々が復刻され、巨匠の多面的な魅力が浮き彫りになってきました。


ジオ・ポンティの眼で世界を視ると、大量生産に対するアートと工芸、またミニマリズムに対する装飾、という世の中に横たわる二元論を軽やかに超えた、住まいの風景が未来に向けて開かれてきます。ポンティは87年の生涯で2つの世界大戦を生き抜き、ウィーン分離派、イタリア合理主義、モダニズム、など時代のイズムに留まることなく、また建築、プロダクト、グラフィックなど分野の細分化にも与せず、統合的に自身の「眼」を追求しました。その軽やかに越境する表現、幸福感が、現代の私たちが必要とするものと共振しはじめます。約70年を経たデザインが現代に、ノスタルジーからではなく、新鮮な魅力を放つ理由は、そこにあるのではないでしょうか。
ジオ・ポンティの特徴を語るとき、「スプーン1本から高層ビルまで」というフレーズがよく使われる。筆者はこの名コピーが彼の建築家としての評価をかえって貶めている気がしている。筆者がキャッチコピーをつけるなら、「高層ビルからスプーン1本まで」だ。
というのは筆者自身がこのビルを↓見るまで、ジオ・ポンティのことを「ああ、スーパーレジェーラがヒットして建築にも手を伸ばした人だな」くらいに思っていた。正直、舐めていた。

10年ほど前に、ミラノで「ピレリ高層ビル」の実物を見て、なんて美しい、なんてスタイリッシュな超高層なのかと驚愕した。1960年竣工って信じられない。今でも筆者が見た世界の超高層ベスト3に入る。構造設計が、筆者の好きなピエール・ルイジ・ネルヴィだと知ればさらに納得感が増す。



今回展示されていた図面を見て、こういう構造なのかと初めて知った
内覧会でキュレーターの田代かおる氏が、「ジオ・ポンティには当時のモダニストたちと違う魅力があり、それがいま再評価されている」と語った。そう、確かにこのビルってなんだか、色っぽいのである。やり過ぎていないモダニズム。だけど人の心に刺さる。そういう点では、筆者の好きな吉村順三と通じるところがある。デザインのテイストが全然違う? いや、そうではあるけれど、吉村の「青山タワービル」(1969年)はピレリ高層ビルに似ているではないか。
かなり脱線した。脱線ついでに、これ↓についても。

ジオ・ポンティといえば、イタリアの建築・デザイン雑誌「ドムス」を創刊した人としても知られる。創刊はモダニズムがよちよち歩きだった1928年。ひえー。その超老舗雑誌に、筆者はイラストを寄稿したことがある。それも表紙の「背」に1年に渡り、だ。えっへん。(下記の記事参照)

この安藤忠雄氏の似顔絵が好評だったのだろうか。3年後に別の巨匠から同じオファーがあった。誰なのかは右の写真でご想像いただきたい。
話がそれてしまったので本題に戻る。
■開催概要
ジオ・ポンティの眼:軽やかに越境せよ。
会期 2025年3月19日(水)- 31日(月)
会場 21_21 DESIGN SIGHTギャラリー3(東京都港区赤坂9-7-6)
休館日 3月25日(火)
開館時間 10:00 – 19:00
入場料 無料
主催 Molteni&C、株式会社アルフレックスジャパン
監修 サルヴァトーレ・リチトラ /ジオ・ポンティ・アーカイヴス
フランチェスカ・モルテーニ / ミューズ・ファクトリー・オブ・プロジェクツ
キュレーター 田代かおる
会場構成 トラフ建築設計事務所
公式サイト https://www.2121designsight.jp/gallery3/gio_ponti/
ジオ・ポンティ展はとにかく会期が短いので、お早めに。(もっと長くやればいいのになあ…)
「リビング・モダニティ」はミースの未完住宅を原寸展示、しかもタダ!
同日夕方に行われたもう1つの内覧会、国立新美術館の「リビング・モダニティ 住まいの実験 1920s-1970s」の方は、展示の規模が比べものにならないくらい大きい。

こちらもまずは、公式サイトの趣旨文(太字部)から。
1920年代以降、ル・コルビュジエやミース・ファン・デル・ローエといった多くの建築家が、機能的で快適な新しい住まいを探求しました。その実験的なヴィジョンと革新的なアイデアは、やがて日常へと波及し、人々の暮らしを大きく変えていきました。本展覧会では、衛生、素材、窓、キッチン、調度、メディア、ランドスケープという、モダン・ハウスを特徴づける7つの観点に着目します。そして、傑作と称される約14邸を中心とした世界各地の住宅を、写真や図面、スケッチ、模型、家具、テキスタイル、食器、雑誌やグラフィック、映像などを通じて多角的に検証します。



本展覧会でご紹介する住宅建築のモダニティは、今も息づいています。本展覧会は、私たちの暮らしと住まいを見つめ直す機会にもなるでしょう。
監修:岸和郎
ゲスト・キュレーター:ケン・タダシ・オオシマ
アソシエイト・キュレーター:佐々木啓
会場構成:長田直之
対象となる住宅が第二次大戦の前後をまたぎ、かつ日本と海外両方ある。こんなに風呂敷の大きい展覧会はあまり見たことがない。中には筆者の知らない住宅もあった。14の住宅をすべて書くと見に行く楽しみがなくなってしまうと思うので、2つだけお薦めを。1つは会場導入部のこの窓に注目。

モダニズムだから横連窓? だとしても、ちょっと大げさすぎない? と思ったのだが、会場内に入って振り返るとこうなっていた。

筆者は人に言われてやっとわかった。これは、展示の1つ、「ヴィラ・ル・ラク」(スイス、設計:ル。コルビュジエ)を模していたのだ。相当、センスのいい人でないと気づかないと思うので、お教えしておく。
もう1つは、「ミースの未完プロジェクト、ロー・ハウスの原寸大再現」。それが本展の目玉だと聞いていたのだが、有料展示のエリアを探しても見つからない。なんとそれは2階の無料展示コーナーにあった。

再び公式サイトより(太字部)。
建築家ミースの未完プロジェクト「ロー・ハウス」の世界初となる原寸大展示
本展覧会の大きな見どころとなるのが、2階の天井高8メートルの会場に設置される、近代建築の巨匠ルートヴィヒ・ミース・ファン・デル・ローエ(1886-1969年)の未完のプロジェクト「ロー・ハウス」の原寸大展示です。そのスケールは幅16.4m×奥行16.4mに及び、原寸大での実現は世界で初めての挑戦となります。ミース・ファン・デル・ローエは、「ロー・ハウス」に関する多くの計画案を残していますが、建物として “実在する” ものは世界にひとつもありません。参考となる写真や映像のない中で、残された図面や資料をもとに模型を作り、原寸大で実現します。

また、本展示の制作にあたっては、国立新美術館では初となるクラウドファンディングで資金を募りました。488名の方々からご支援をいただき、ご支援総額は目標金額を超えて11,117,672円にのぼりました。頂いたご支援は、本展示の制作費用に充てられます。

そうか、クラウドファンディングでお金を集めたから無料展示にしたのか。それにしてもクラファン、1000万円を超えたとは…。それも90年代とは隔世の感だ。
展覧会は有料(一般1800円)だが、無料の2階エリアだけでも十分お金が取れる内容だ。2階を見ないで帰る人がいそうなので、これも強調しておく。
■開催概要
リビング・モダニティ 住まいの実験 1920s-1970s
会期 2025年3月19日(水) ~ 2025年6月30日(月)
休館日:毎週火曜日
※ただし4月29日(火・祝)と5月6日(火・祝)は開館、5月7日(水)は休館
開館時間 10:00~18:00
※毎週金・土曜日は20:00まで
※入場は閉館の30分前まで
会場 国立新美術館 企画展示室1E、企画展示室2E(東京都港区六本木7-22-2)
主催 国立新美術館、東京新聞、独立行政法人日本芸術文化振興会、文化庁
観覧料 一般1,800円、大学生1,000円、高校生500円
※中学生以下は入場無料
※障害者手帳をご持参の方(付添の方1名を含む)は入場無料
※2階企画展示室2Eの展示はチケットをお持ちでないお客様も無料でご覧いただけます。
巡回情報 兵庫県立美術館 2025年9月20日(土)~2026年1月4日(日)(予定)
監修 岸和郎
ゲスト・キュレーター ケン・タダシ・オオシマ
アソシエイト・キュレーター 佐々木啓
会場構成 長田直之
アート・ディレクション 田中義久
公式サイト https://living-modernity.jp/
2会場は徒歩5分ほどなので、3月中に行く人は必ずセットで訪れたい。(宮沢洋)