11月22日(金)~24日(日)に行われた「神戸モダン建築祭」リポートの後編である。前編は、「盛り上げに貢献するために会期中に公開しなきゃ!」ということで、伝わりやすそうな安藤忠雄建築3件に絞って書いた。だが、建築好きにとって「建築祭」の本当の面白さというのは、「当然知っている有名建築」よりも、「えっ、これってそうなの?」「ここにあったの?」みたいな建築に出会う面白さだ。ネット書店の検索性ではなく、リアル書店の出会い性と似ている。
後編は、筆者自身が「えっ、これってそうだったの?」「ここにあったの?」と思った建築を4つリポートする。
まずは六甲方面から。今回一番テンションが上がったのが、この「神戸市立美野丘小学校」。えっ、何それ? と思った人が多いだろう。筆者も神戸モダン建築祭のパンフレットを見るまで存在すら知らなかった。以下、建築祭の公式サイトより(太字部)。
全国でも数少ない円形校舎を使用している「神戸市立美野丘小学校」。設計した坂本鹿名夫は円形建築にこだわった建築家で、校舎や病院など全国に100以上の円形建築を手がけましたが、現存する数少ない作品の一つです。建物中央のらせん階段を取り囲むようにして教室が配置され、バームクーヘンのように区切られたユニークな造りになっています。
補足すると、設計者の坂本鹿名夫(かなお)は1911年生まれ、1987年没。筆者も名前は知っていたが、現役の円形校舎を見るのは初めてだ。中央のらせん階段がかっこいい! もっと固い感じのものをイメージしていたのだが、こんな遊び心に満ちた建築だったのか。
20分ほど東に歩いて、「神戸松蔭女子学院大学」へ。女子大のキャンパスに入れる(しかも写真をバシバシ撮っても怪しまれない)って、滅多にない機会。今回は1981年に竣工したチャペルが公開されている。以下、神戸モダン建築祭公式サイトより(太字部)。
切妻屋根と茶色いタイルで統一された「神戸松蔭女子学院大学」キャンパス。建築家・永田祐三の竹中工務店勤務時代の名作で、「中世のヨーロッパの丘に建つ街のイメージ」として建てられました。今回は、キャンパスの中心部に建つチャペルをパスポート公開します。高い天井、聖書の物語をテーマとしたステンドグラス(作者・立花 江津子)も壮観。
補足すると、永田祐三氏は、竹中工務店を辞めた後に「ホテル川久」(1991年)を設計した人だ。
このチャペルやキャンパスにもかなり通じるものがある。サラリーマン時代から只者でなかったことは間違いない。
海の方に移動。公開対象の建築ではないが、倉方俊輔氏が兵庫県立美術館(設計:安藤忠雄)でガイドツアー(有料、事前予約制)をやるというので、冒頭だけ話を聞いた。
【兵庫県立美術館】安藤忠雄氏が手がけた日本を代表する美術館建築へ、倉方先生が特別案内
日本を代表する建築家・安藤忠雄氏が手がけた「兵庫県立美術館」へ。氏が設計した美術館建築では、世界でも最大規模。北は六甲山系をのぞみ、目の前に広がる海と巨大迷路のような建築が一体となり、多彩な光の変化を演出しています。美術館の見どころを巡り、安藤ギャラリーの展示品を解説しながら、美術館建築の楽しみ方を、世界の安藤建築を知る建築史家・倉方先生がご案内します。
いつもながら、立て板に水の解説。ちなみに倉方氏は現在、安藤氏の初期住宅にお住まいです(詳細は間もなく本サイトの連載「ポストモダニズムの歴史」で!!)。
海沿いを西に移動して神戸港の門番、「神戸税関」へ。外観はよく目にしていたのだが、中に入るのは初めて。保存した旧館のエントランスホールが素敵過ぎる! 1927年(昭和2年)に竣工した旧館の設計は大蔵省営繕管財局神戸出張所だ。当時のインハウス設計(営繕)の能力の高さがわかる。以下、サイトより(太字部)。
貿易港・神戸の繁栄を象徴する堂々たる建物です。圧巻は、4階分を吹き抜けた巨大な玄関ホール。円柱が立ち並ぶさまは、さながら古代ヨーロッパの神殿のよう。かつて貴賓室として使われていた2階の部屋を公開します。また、広々とした中庭を抜けた先にある新館では、普段は非公開の屋上へも立ち入ることができます。
公式サイトには書かれていなかったが、新館(1999年)を設計したのは日建設計だ。筆者は以前『誰も知らない日建設計~世界最大級の設計者集団の素顔』という本を書いたので、日建設計にはちょっと詳しい。と言いながら、外観だけしか記憶になく、こんな中庭とか、こんな屋上庭園があることを初めて知った。
そして、神戸税関から5分ほど北に歩くと、「神戸商工貿易センタービル」。ここにあったのか…。
と思ったのは、このビルの設計者も日建設計で、先ほどの『誰も知らない日建設計』の中に自分で書いたからだ。神戸港の方にあるんだな、とは思っていたが、行ったことはなかった。
地上26階建てのこのビルは「西日本初」の超高層ビルだ。竣工は1969(昭和44)年12月。東京の霞が関ビルディングは1968年4月竣工。建設途中で「日本初」の栄誉と話題をさらわれてしまった涙のビルなのである。以下、サイトより。
神戸開港100年を記念して、霞が関ビルディングに次いで、日本で2棟目となる超高層ビルとして1969年に建設。近未来的なモダンデザイン、対角線上に配された複雑な空間が特徴的。かつて展望室だった26階会議室を公開。神戸の港の風景を一望できます。
「近未来的なモダンデザイン」というのは、おそらくエントランスホールのこの天井のことを言っていると思われる。ひぇー、近未来!
他にも見学した建築はあるのだが、そろそろこの記事のまとめに入る。
筆者が実行委員を務める「東京建築祭」も含め建築公開イベントが増えている中で、この「神戸モダン建築祭」が特にすごいと思ったのは、それぞれの公開建築に「たてものガイド」として地元の建築士が常駐していること。首から「たてものガイド」という名札を下げた人が何人かいて、聞くといろいろ教えてくれる。常に説明しているわけではなく、「聞くと教えてくれる」というのがちょうどいい。これは、東京でやろうと思っても人が多すぎて難しいだろうなあ。
最後に個人的な要望。無料でもらえるパンフレット(サイトでダウンロードもできる)に、各施設の設計者名を書いてほしい。書かないのは、「コアな建築ファンだけのためのイベントにはしない」という姿勢を示したいからかもしれない。サイトを見ればデータ欄に書いてあるし、ということなのだろう。でも、円形校舎も神戸松蔭女子学院大学も、当日の朝にサイトで設計者を知って「これは行かなきゃ」と見学ルートを考えたので、最初から書いてあったらだいぶスケジューリングが楽だったろう。
とは言ったものの、東京建築祭のパンフレットを見たら、やはり設計者名は書いてなかった。情報量があまりに多いから、仕方ないのかなあ…。そんなふうに参加者となって気づくこともあるので、あれこれ感じたことを次回の東京建築祭にもつなげていきたい。(宮沢洋)
前編はこちら↓。