建築の愛し方03:「村野藤吾×建築ミニチュアギャラリー」で、誰もが「建築LOVER」!─橋爪紳也氏

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建築を楽しむ方法は無限にある。本シリーズ「建築の愛し方」では、「そんな方法があったのか!」「まさかそこまで!」と私(宮沢)が強く惹かれた建築LOVERたちを取り上げていく。2人目は“建築LOVER界の重鎮”、建築史家の橋爪紳也氏。万博グッズや絵葉書など、橋爪氏に語ってもらいたいテーマはいくらでもあるのだが、今回は、新オフィス(大阪市中央区瓦町)に設置した「建築ミニチュアギャラリー」を見たくてお邪魔した。しかも、オフィスが入る建物は村野藤吾の設計!

(写真:宮沢洋、特記をのぞきすべて)

──ミニチュアをきれいに並べたくて、新オフィスに引っ越したのですか?

 いやいや、違いますよ。前のオフィスのビルが建て替えることになり、蔵書が入りきらなくなったこともあって、オフィスを探していたら、たまたま村野藤吾の設計の建物に入居できそうだ、と聞いたんです。それはなんとしてもと思い、コロナ禍ではありましたが、5月に引っ越しました。

──このフジカワビルは、橋爪さんがリーダーを務める「イケフェス大阪(生きた建築ミュージアム フェスティバル大阪)」にも毎年、参加していますね。私も1階の楽器店でコンサートを聞いたことがあります。

 フジカワビルは、村野藤吾の設計で1953年に完成したものです。ファサードのガラスブロックがいいでしょう。両脇の謎のバルコニーみたいな部分も実に村野藤吾らしい。

(写真:橋爪紳也)

──戦後間もない頃のものとは思えない優雅さですね。さすが村野。外壁のガラスブロックを透過した光と、ミニチュアの背後の光壁を対比的に見せているオフィスのデザインもさすがです。これは、「ミニチュアをいかに魅力的に見せるか」からスタートしたのですか。

 全く違います(笑)。僕は本を並べるつもりだったんですよ。でも、設計を依頼した高岡伸一さん(高岡伸一建築設計事務所、近畿大学准教授、イケフェス大阪のキーマンの1人)が提案してきたのが、巨大なミニチュア棚だった。

──高岡さんがオフィスの設計者なんですか? なるほど、だからツウ好み(笑)。実際にできてみてどうですか。

 ここで打ち合わせをやると、本題に入る前に話が弾みますね。特に、建設会社の人と打ち合わせするときは、大体この棚に自社が施工した建物がありますから。それはよかったなあと思います。

 でも、ミニチュアがメインになってしまった。私が書いた本を中心に棚を展開しようと思っていたら、高岡さんに左の端に追いやられてしまった。それはどうなのかなあと思います(笑)。

「自分のためのお土産」がスタート

橋爪紳也(はしづめしんや)氏。大阪府立大学研究推進機構特別教授/大阪府立大学観光産業戦略研究所⻑。1960年大阪府生まれ。建築史家。専門は建築史・都市文化論。工学博士。著書に著書に「倶楽部と日本人」「明治の迷宮都市」「化物屋敷」「祝祭の『帝国』」「日本の遊園地」「飛行機と想像力」「絵はがき100年」「創造するアジア都市」「広告のなかの名建築 関西篇」「『水都』大阪物語」など(イラスト:宮沢洋)

──いつごろから建築ミニチュアを集めているんですか。

 30年くらい前からですね。昔から海外に出掛けることが多かったんですが、あるとき、「なぜ自分は人のためにばかりお土産を買っているんだろう」と気づいた。自分のために何か買おうと思って、海外に行くたびに「1都市1ミニチュア」の原則で買い始めました。

 数が増えだすと面白くなってきて、原則を度外視して集めるようになり…。近年はこれをテーマに原稿を書いたり、仲間と展覧会をやったりもしているので、欲しいものはネットオークションで落札することもあります。

──今は、鹿島の広報誌「月報KAJIMA」の中でも連載をしていますね。

 「ミニチュア・ワンダー・ランド」という連載を今年1月から始めて、年末まで12回掲載の予定です。今は、その連載の撮影のために、出張中のミニチュアがかなりあります。

 例えば、初回の2020年1月号では、「天を目指すタワー」のタイトルで、世界のタワーのミニチュアを紹介しました。

 最近の2020年7月号では、「神域と人を繋ぐ鈴」というタイトルで、日本各地の社殿や伽藍、塔などをかたどった「土鈴(どれい)」を紹介しています。

──なるほど、建築と関係のない「グッズとしての機能」の方でも歴史が語れるのですね。

 土産物もそうですが、竣工の記念に関係者に限定して配布された建築ミニチュアに、ユニークな機能を付加したものが多くあります。

 オーソドックスなのは貯金箱ですよね。ペン立てとか、ラジオとか、オルゴールとか、一輪挿しとか、時計とか。その形に合う機能を無理やり付けているようなものもありますが、僕は好きです。仲間の遠藤秀平さん(遠藤秀平建築研究所、神戸大学教授)は、「そういうのはピュアじゃない」って言いますが(笑)。

 1970年大阪万博のみどり館では、パビリオンをかたどったバターケースが配布されました。今、寄託いただけないかと関係者にお願いしているところです。

──建築ミニチュアに興味がある人に助言を。

 目の前に、気になるミニチュアがあったら迷わずに買うこと。次に来たときに買おうと思ってもないと思え。でしょうか。

──あ、それ、私も分かります! お土産品って、ほとんど再生産されないですよね。経験あります。ところで、橋爪さんは、全部でいくつくらいお持ちなのでしょうか。

 建築のミニチュアだと、800くらいでしょうか。そこの棚に置いているのは1軍で、400くらい。2軍以下は裏の部屋にあります。

──私も100くらい持っていると思うのですが、置く場所がなくて(笑)。最近は薄いものしか買いません。

 そう、ミニチュアは場所を取って困る。でも、ミニチュアを通して歴史を語るとなると、数が必要なんです。

──いつか、公的な建築ミニチュア資料館が必要ですね。今日はお忙しいなか、ありがとうございました!

※2020年秋のイケフェス大阪はオンラインで開催予定。フジカワビルは通常時、見学不可なので、リアル・フジカワビルの体験は来年以降に。