前田節全開の「モダン建築の京都」展が開幕、お宝を値踏みする骨董市のごとき建築展

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 京都市京セラ美術館の開館1周年記念展「モダン建築の京都」が9月25日(土)から、同館の新館「東山キューブ 」で始まる。会期は12月26日(日)まで。建築好きのあなたは、この展覧会の企画者で同館キュレーター前田尚武氏(この人↓)のプロフィルを知ってから見た方がいい。

キュレーターの前田尚武氏。9月24日午後に行われた報道内覧会で撮影(写真:宮沢洋、以下も)

 以下、前田氏のプロフィルだ。

前田尚武:一級建築士/学芸員。京都市京セラ美術館企画推進ディレクター。
1970年東京生まれ。1994年早稲田大学大学院建築計画専攻修士課程修了。1998年森ビルに入社し「六本木ヒルズ」の設計に従事。2003年森美術館開館より同美術館にて主要な展覧会の展示デザイン、建築展企画、国内外の美術館・博物館のデザインやコンサルティング、都市再開発計画のパブリックアート企画などを手掛ける。企画した展覧会に「メタボリズムの未来都市展」(2011年)、「建築の日本展」(2018年)など。法政大学兼任講師、愛知県立芸術大学非常勤講師、環境芸術学会理事、クールジャパン協議会顧問。2019年より京都市美術館に移籍し、京都と東京を拠点に美術館・博物館の企画やデザインを中心に活動している。(株)ニューアートディフュージョン取締役。「現代美術館における建築展の企画・開催による建築文化の向上」に対して、2019年度日本建築学会文化賞受賞。

 私(宮沢)と前田氏は以前からの知り合いなので、氏ではなく「さん」にする。プロフィルを要約すると、前田さんは「設計ができるキュレーター」なのである。今回の展覧会も、会場構成者の名前がプレスリリースに見当たらなかったので、前田さんに尋ねると、「僕が図面引きました」とサラリと言う。なるほど、そうでなければ、こんな“骨董市”のような展示は難しい。展示品を収集しながら、頭の中で置き方をシミュレーションしているのだろう。前田さんは、建築学科出身であるが、アートにも詳しい。というか、関心が「建築」の枠に収まらない人だ。建築界の荒俣宏だと思ってほしい。

 開館1周年記念展が「建築展」。前田さんを知る人なら否応なく期待が高まる。展覧会のタイトルからして、前田さんらしいな、と思った。「モダン建築の京都」である。アカデミックな研究者であれば、「京都のモダン建築」だろう。そうではなく、「モダン建築あっての京都の文化ですよね」という力強い言い切り。これは、前田さんが森ビル時代に企画した「建築の日本展」(2018年)のときにも思ったことだ。建築の面白さを一般の人に伝えるには、そういう押しの強さ、広げ方が必要なのである。私も学ばねば…。

 展示内容も前田さんらしい。7セクション、36プロジェクト、資料数は400点以上。「ほとんど自分で交渉してお借りしました」という展示品の数々は、建築と結びついたあらゆる創造物の集積だ。「これが目玉です」と、一言では言いづらい。人によってツボが違うと思う。私がはまったのは、環境住宅の先駆けと言われる「聴竹居」(1928年、京都府大山崎町)の展示。

左手前が聴竹居の模型

 模型の近くに置かれたこの焼き物。何の関係が?と思って説明を読むと…。

 なんと、設計者の藤井厚ニの作品なのだ。藤井は、自ら焼き物の作品集をつくるほど、陶芸にのめり込んでいたのだという。だから何?と言われるかもしれないが、建築の面白さというのは、そういうところにどんどん広がっていくものなのである。たぶん、東京で開催する全国区の展覧会では、こういうのはやりにくい。近所にある「気になるあの建物」の謎を明かしていく感覚だ。本サイトの「池袋建築巡礼」に似ている。

 そうした大きさも密度も方向性もバラバラ、いや、「多様」な展示物を、どことなく京大工を感じさせる木材現しの展示台ですっきりと見せる。前田さんは、そもそもこの美術館が青木淳+西澤徹夫のリノベーションで生まれ変わる際にも、展示側の立場でいろいろと意見している。照明や間仕切りなどの効果的な使い方を知り尽くしているのだ。

 展示の中に、伊東忠太が設計した「祇園閣」(1927年、京都市祇園町)の展示があっった。これは実物が会期中に特別公開されるらしい。時折公開されている施設ではあるが、私はタイミングが合わず、まだ中を見たことがない。うーむ、もう一度、京都に行かなければ…。

■「モダン建築の京都」展と連動した歴史的建築物“秋の特別公開”/大雲院祇園閣(京都大倉別邸祇園閣)
期間:2021年11月19日(金)~2021 年12月6日(月)
料金:大人1000円/小学生500円(本展チケット呈示で大人 800 円/小学生 400 円) 主催:大雲院 祇園閣・公益社団法人京都市観光協会(DMO KYOTO) 協力:京都市京セラ美術館

 前田さんが中心となって仕込んだ関連イベントの数がすごい。祇園閣公開はほんの一部。一体、どれだけの交渉能力なのか。公式サイトでいろいろ調べてほしい。詳細は下記を。

 おっとその前に、私からも1つ宣伝。この展覧会を見に行ったら、会場出口にあるショップの左奥の方に、黄色っぽい商品を探してほしい。

企画展の動線でいうと、レジの直前、左奥の赤丸部分(2021年9月24日時点の状況)

 この展覧会に合わせて9月24日から発売となった「京都岡崎アーキテクチャマップ・クリアファイル」。以下が商品クレジット情報だ。

京都岡崎アーキテクチャマップ・クリアファイル/イラスト 宮沢洋/テキスト 本橋仁/協力 京都市京セラ美術館、京都市動物園、京都府立図書館、泉屋博古館、細見美術館、ロームシアター京都、、藤井容子/発行 アールプリュ/発行年 2021年9月

 そう、イラストを描いたのは私。書籍以外では初めての「商品」である。製作がギリギリ間に合って、本当に店頭に並んでいた(涙)。これについては、下記の続報で詳述する。(宮沢洋)

建築旅解禁!クリアファイル片手に京都・岡崎巡りへ、本橋仁氏の濃厚解説にびっくり

■展覧会概要
京都市京セラ美術館開館1周年記念展 モダン建築の京都
会期:2021年9月25日~2022年12月26日
会場:京都市京セラ美術館[ 新館 東山キューブ ](京都市左京区岡崎円勝寺町)
時間:10:00〜18:00(入場は17:30まで)
休館日:月曜日
観覧料:料金:一般1900円、大学専門学生1400円、高校生900円、小中学生400円、未就学児無料
主催:モダン建築の京都展実行委員会(京都市、京都新聞、NHK京都放送局、KBS京都)
監修:石田潤一郎(京都工芸繊維大学名誉教授)
企画:前田尚武(京都市京セラ美術館 企画推進ディレクター)
アドバイザー:山形政昭(大阪芸術大学名誉教授)、中川 理(京都工芸繊維大学名誉教授)、田路貴浩(京都大学教授)、中嶋節子(京都大学教授)、 倉方俊輔(大阪市立大学教授)、河野良平(京都橘大学准教授)、笠原一人(京都工芸繊維大学助教)、 三宅拓也(京都工芸繊維大学助教)、石川祐一(京都市文化財保護課技師)
協賛:清水建設株式会社、日本管財株式会社、株式会社松村組  協力:株式会社キャパ
後援:観光庁、公益社団法人京都市観光協会、公益社団法人京都府観光連盟、 公益財団法人京都文化交流コンベンションビューロー、 公益社団法人日本建築家協会、一般社団法人日本建築学会、 公益社団法人日本建築士会連合会
公式サイト:https://kyotocity-kyocera.museum/exhibition/20210925-1226